主人公、佐竹義重と対面する(第二部最終回)
ホムセンを包囲する1万の佐竹軍、そこに現れた援軍は…小田家当主小田氏治公本人だった。
「あれは…小田氏治公!しかし数は1000もいないぞ。それよりなんで土浦とかじゃなくていきなりここに?」
多勢に無勢…ではあるのだが、小田氏治公は余り言われていないけど自身が武勇の将である。
佐竹も突然後方から現れた軍勢に対処がおくれ、氏治公の隊はまるで佐竹勢を切り裂くかのようにこちらに向かって猛進してくる。
とはいっても佐竹は早々に体制を立て直し、徐々に氏治様の隊は佐竹の兵に取り囲まれるようになってきた。
「いかん。氏治様をお救いしないと。」
「とはいってもここで討ってでても難しくはないか?」
と稲見薬局長。
「そうは言っても放っておくわけには行かないでしょう。」
と俺は鉄砲を持って本丸の門に向かう。
「太田さん、ついてきて!」
俺は忍者軍団20人を率いて門を開いて出撃しようとすると、紅色の鎧兜に身を固めた五月姫がいた。
「わらわも連れて行くがよい。」
「とは言っても…」
「ここは翔太郎も決死の覚悟であろう。このときぐらい夫婦として寄り添わせよ。いずれにせよ城が敗れれば離れ離れであろう。」
と押し切られて五月姫もついてきた。さくらさんは五月姫に言いくるめられて残っているらしいのでちょっと安心した。
「俺達が出たらすぐに門は一旦閉めてください!」
と言い、ガラガラと電動シャッターが開いた。そう。ホムセン本郭の門、電動シャッターで施工していたのだ。
門の内側には鉄板を並べて空いた時に入り込まれないように銃を並べている。
「行くぞ!」
と声をかけて俺はドラクロアの自由の女神よろしく銃を掲げて前進しよう…、としたところで頭に衝撃を受けて意識がなくなった。
…次に目が覚めた時、俺の前には…縛り上げられた小田氏治様がいた。頭がボーッとする。
「お館様!どうして…」
と言いかけると俺の周りにはぐるっとフル装備の武将が並んでいた。見覚えがない面々だ。佐竹の将兵だろう。自分をチラッと見ると銃は取り上げられているようだ。
「上杉輝虎すら退けた炎衆を失っては俺の名も地に落ちると思ってな。助けようかと。」
…生き延びることに長けた氏治様としては信じられない言葉だ。
「過分なお言葉ありがたく…」
と目を潤ませた俺に声がかかる
「主従の感動の再会はともかくですが、こちらからもよろしいですか?」
と佐竹の将の中でも一際位が高そうな人物から声がかかった。
「佐竹義久と申します。相馬典薬どの、よろしゅう。」
佐竹義久。佐竹の一門で家宰ともいわれる名将だ。
「佐竹山城守様?土浦を攻めていたのでは?」
「それが手子生を落とすのに手間取っているのでとお館様に呼ばれたのですよ。」
お館様、小田家で言うと小田氏治様のことだが、常陸にはもう一人お館様が居る。佐竹義重だ。
「俺は頭に衝撃を受けて…多分ヘルメットを撃たれたのだと思うのだけどどこがどうなってここに?」
「それについても含めて、お館様から話があります。」
と佐竹義久が言うとこの場に人が入ってくる様子があった。それと同時に一斉に佐竹の兵が頭を下げる。俺も平伏する。相手が誰でもここでふんぞり返っていても無礼になって死ぬだけだからね。
「相馬典薬、いや翔太郎殿、表をあげよ。」
と俺は本名を呼ばれて『あれ?』と思いつつ顔を上げる。
…そこには以前筑波山で治療した若武者が成長した姿があった。
「覚えているか?儂が筑波山で怪我をして難渋していた所をすくってくれたのは翔太郎殿であろう。」
「あ、あの時の若君様。」
…まさかあの若君が佐竹義重本人だっとは。
「え、典薬、佐竹義重の命救っちゃっていたの?そのまま討っておけば大手柄だったのに。」
と氏治様が余計な口を挟んで脇の兵に槍の柄で突かれている。
「まさかあの若君が常陸介様とは。」
「うむ。お主に救ってもらった命だな。」
とニコニコする義重。
「しかしなぜ俺がここに?」
「それはだな。」
といって義重様(様付けちゃうわ。)が俺の後ろの天幕を開けさせる。その時に並み居る武将がなんとも言えないどんよりとした顔や、何かを恐れる顔をしていたのが気になったが…俺が振り返って天幕の外を見ると。
「おお、翔太郎!無事で何よりじゃ!」
と五月姫が抱きついてきた。が…五月姫の背後には…数百はくだらないスケルトン…骸骨兵が並んでいて、その後ろには10mは越えようかという巨大な骸骨が立っている。
「こ、これは?」
「翔太郎、お主には以前『神通力は使えぬ』と言っていたが、あれは嘘じゃ。」
「嘘。」
俺は口をパクパクさせる。
「うむ。実はじゃな、この通り本気を出せばガシャドクロを操ることができるのじゃ。」
「そうしてその姫様は数百の髑髏兵を突然出現させましてね…髑髏は崩しても崩してもすぐ元の姿に戻って向かってきて…『佐竹義重の所に通すのじゃ。』と。」
とちょっと困った、という風情で佐竹義久。
「ちょうど小田氏治を捕らえてさてどうしようか、という時にその騒ぎでして。『小田氏治も翔太郎も殺すならこちらもそちらを全滅させる。しかし妾が望むのは話し合いじゃ。』とおっしゃるのでこのようなことに。」
…五月姫…別名瀧夜叉姫…その伝説の力本当に持っていたのね。
「で、翔太郎殿。」
と佐竹義重様から声がかかる。
「こちらとしては『和睦』としたいのだが。」
え?和睦。正直言ってそれは助かる。
「となりますと城将の俺が腹を切ってホムセンの皆の助命を…」
「命の恩人に腹を切らせては儂の顔が立たぬ。」
と佐竹義重は続けた。
一通り話をした後、俺は自分だけでホムセンの方針を決めることは出来ない、と佐竹義重様に断り、使者をやって真田店長や稲見さんなどホムセンの中枢のメンバーを呼びよせた。
「まさかあのガシャドクロが味方とは。」
と目を回している稲見さんを横に、俺達は佐竹家の面々と話し合いをし、結局降伏文書に署名捺印をして調印式を行ったのである。降伏文書を用意しよう、と言い出したのは真田店長だった。
処分については翌日言い渡す、と佐竹義久殿に言われ、俺達は翌日再び佐竹の本陣を訪れた。ガシャドクロは相変わらず本陣の周りを取り囲んでいる。
「では『ホムセン』の降伏と今後についてですが…」
と佐竹義久殿。奥には義重殿が床几に座り、その脇には小田氏治様と…多賀谷重経がいた。
小貝川側の押さえが不要になり佐竹の重要な戦力の一角の大将として本陣に来たのだろう。
「まずは現況を。手子生とその支城の落城、小田氏治の捕縛を受けて、土浦などの小田の諸城も開城しました。岡見氏が支配する牛久城とその支城は北条氏照の援軍が入り、また同様に北条の援軍を得た守谷城の相馬氏も我らとは敵対しましたが、土浦、木田余、海老ケ島、そして小田などの諸城は我らに降伏しました。…手子生を落とされたのがそれほど危機感を煽ったようで。」
…牛久の岡見氏など以外はあらかた佐竹家に降伏したということになった。
「そこでですが、相馬典薬殿には手子生とこの穂羣城の領有を認めます。同様に土浦の菅谷にも土浦を安堵。」
「なんと。」
と思わず真田店長が浮足立つ。
「ただし若森城は多賀谷重経殿の家老、白井全洞の所領とします。また小田城には太田資正を、海老ケ島には宍戸を。」
「では小田氏治様はどうなります?」
と俺は義久様に聞く。
「小田氏治殿は手子生に蟄居していただきます。またそれにあたってこの書状を書いてもらいたいのですが…」
といって氏治様に差し出されたのは
『佐竹の送ってきた城主に従い、年貢や労役などの対処を善処してほしい。小田氏治。』
というものだった。確かにこれがあれば氏治様をしたってサボタージュをしてきた小田の領民も従わざるを得ないかもしれない。しかも氏治様の身柄の安全もある。
「ということは…氏治様は俺が預かると?」
「そうだ。相馬典薬殿、氏治の手綱をにぎっていてくれよ。」
とちょっとニヤニヤした感じで佐竹義重様が言ってくる。
「ではよろしく。」
と『後でやり返してやる』という雰囲気を込めながら氏治様が俺に挨拶してくる。
扱いとしては『客将』らしいが小田の代々の譜代でない俺たちに預けて暴走させないようにしよう、という事なのだろう。
「ちなみに氏治は屋形号を停止する。以後は御屋形と呼ばれるのを禁ずる。」
「なんと。」
「殿、は許してやるからそれで満足せよ。」
と佐竹義久。
「それと土浦の菅谷などは太田資正の差配の元に置き、寄騎とする。」
「となると手子生も太田様の寄騎に?」
と俺が聞くと義重様が
「いや、違う。手子生衆は太田資正・梶原政景の寄騎ではなく、ここに居る多賀谷重経殿の差配を受けよ。」
なんか手を突き出してグッ!という感じで親指を上げてくる多賀谷重経。
お主いったいどこでそういうポーズを覚えたのだ。
ともあれ、ホムセン衆は特に切腹したり斬首されたりされることもなく、無事に今度は佐竹義重配下で存続を許されることになった。調印が終わって佐竹家は兵を引き、それと同時にガシャドクロも姿を消した。
そして俺たちホムセン衆の直接の上司として…あの『下妻二十万石』の梟雄として知られる多賀谷重経に仕えることとなったのだ。まだ重経10代だけどなんかやらかしそうな予感。
こうして小田家は佐竹に降伏し、解体されてしまいましたが…ホムセンの民の活躍はまだ続くのじゃよ。
次は「VS栗林義長編」です。マジで。




