稲見薬局長、酒造りにハマる
俺たち戦国時代に流されてきたグレートホムセンの人々に稲見薬局長がいる。今までも話の中によく出てきてはいたけど、薬局長な割に実際やっているのは趣味のドローンを操って偵察や戦況分析をするほうが目立っていたと思う。
けど太田資正が佐竹領の片野城に来てからはドローンを次々と破壊され、残ったドローンは流石に虎の子としておきたいのもあって現在ドローンは温存中になってしまったのだ。その上ドローンを使う時にいつも着けていて稲見薬局長の象徴のようになっていたVRゴーグルも最近はすっかり小田城の小田氏治様暴走防止VRゲーム専用になってしまった。
流石に稲見薬局長のパソコンを持ち去られるのは忍びないので他のパソコン(流石にデカイ店舗なのでノートパソコンはレジなどにたくさん設置されていたので)に『戦国無敵』などのゲームをインストールしたものを織部くんが小田城に持って言ったものを氏治様には使わせている。織部くんは『天下統○』とか『信○の野望』などのシリーズを氏治様にやらせて戦術よりも戦略的な所を学ばせよう、としたらしいのだが、氏治様は
「うぉ、北条強いな!頼りになる!」
とか
「北条の援軍を得ればこの様に水戸城も火の海に!ガハハハ。佐竹弱し!…ん?水戸城?水戸城は江戸重通の城ではないのか?大掾はどこに行った?」
等と『俺TUEEE』プレイに熱中して話を聞いてくれない、とボヤいていた。
実際の佐竹との戦況は一進一退、という調子で、史実で想定されるよりは思ったよりは押し込まれていないけどこちらが相手を上回って反撃にでる、ということもない情勢だった。
けど両勢力とも鉄砲並べて銃撃戦を繰り広げている様は絶対時代が10年以上はズレている、と俺は思ったのだ。戦国オタの豊島くんとか頭抱えているし。
話を稲見薬局長に戻す。ドローンが使えなくなった稲見さんはそれまで常駐に近かった小田城のCICからホムセンに帰った。そこでなにやら研究に勤しんでいたかと思うと…ある日手子生城の俺の屋敷に瓶を積んだリアカーを人に引かせて駆け込んできた。
俺の方といえば、手子生城主になった天羽源鉄先生(と織部くん)がほぼ小田城定府の状態なので(菅谷様などの重臣たちがこれ幸いと天羽源鉄先生に氏治様の相手と暴走を諌める諫言役を任せているのだ)手子生城代ということになっていた。屋敷も城の外郭をまるっと拡張して二の丸の様な所に組み込まれたのである。
その俺の屋敷というか大袈裟に言うと二の丸御殿(というほど立派ではないが)に稲見薬局長がやって来たのである。
「相馬センセ!ついに出来ましたよ!」
稲見さんは興奮している。
「稲見さん、一体何が?」
「これですよこれ!飲んでみてください」
と瓶を開けて柄杓で中の液体をすくって湯呑に入れて渡す。飲んでみると
「これは日本酒!」
「そう、日本酒が出来たのです!」
稲見さんは偵察役を引退した後、ホムセンで酒造りの研究に勤しんでいたのだ。
薬剤師って要は化学の専門家だものなぁ。麹は…ドラッグストアの売り物を後生大事に残しておいたものから作ったそうである。
「ふふふ。こちらもですね。」
ともう一つの瓶から取り出したのを飲むと
「ブハッ!こっちは度数がキツイですね!焼酎?」
「そう。サツマイモたくさんこの辺りで作るようにしたじゃないですか。だから芋焼酎。」
「すごい…」
日本酒のみならず芋焼酎も完成させていたのだ。ちなみに芋焼酎の方は更に蒸留を進めてアルコールも製造していた。消毒に使えるのみならず、各種化学反応にもアルコールは重要なので、ホムセンで製造できるものの幅が広がるのである。
こうしてホムセンでは安定して酒類を製造するようになった。ホムセンの作り出す日本酒は清酒であり、この時代だと京都近辺の一部の土倉や僧房などで作られている質の高い酒を上回る代物になった(といっても麹づくりとかあるから現代の俺達の目で見ると『ドクターストーンで出てきたコーラとかラーメンみたいなもの』レベルだけどねー。
それと芋焼酎も非常な人気を博した。どちらかというとアルコール度の低いにごり酒をガブガブ飲むことが多いこの時代でアルコール度の極めて高いキリリとした味わいは他になかったのだ。それらの酒の販売でますますホムセン(と小田家)の財政が潤ったのは言うまでもないが…周辺諸国がますます小田領を手に入れたくなってしまったのもまた事実なのであった。




