盗賊退治に出陣でござる
「となるとまずは先程来た盗賊みたいな奴らから自分たちの身を守らないとな。」
とヤンキーリーダーの小島くんが言った。小島くんは歳下だけどこういっちゃなんだがすごく頼りになる感じがある。それを嗅ぎつけたのか、ジョシコーセーとか若い女性の店員とか小島くんの近くに寄り添っていたりする。ちょっとうらやましす。一応学生の時は運動部だったんだけどな。
「そうすると真田さん、『こんな事もあろうかと』でネイルガンとか出てこないんですか?あのバババと釘を機関銃みたいに吐き出すやつ。デイゼル・ワシントンの映画みたいに。」
と俺が尋ねると、真田店長が答える。
「デイゼル・ワシントンの映画に!ですな。それがアメリカだと悪人バッタバッタと射撃してホームセンターで悪の組織やゾンビと戦うならば釘打ち銃…なんですが、実はあまり頼りになりません。」
「なんと。」
「日本の釘打ち機は安全対策で壁などに押し付けないと動かないのです…が、そこは『こんな事もあろうかと』このように壁に押さえつけなくても安全装置を押さえる器具は作ってありまして。」
…やっぱあるのか。あんた何者だ。
「でもですね。」
と言って真田さんはコンプレッサーにつないだ(ちょっと改造)釘打ち機を出すと、板の方に向かってダダダダダ!と発射する。轟音とともにベニヤ板に突き刺さる釘。
「すごいじゃないですか。」
「いやこれじゃだめなんですよ。我が国のでは出力が弱くてベニヤ板やダンボールなら刺さると思いますが鎧となると多分全然だめ。見掛け倒しです。」
「コンプレッサーの出力が弱いとか。」
「いえいえ、これ日立工機の業務用に仕える非常に優秀なやつです。後は建物に備え付けとかの大きな機械でなければベストじゃないかと。」
「あとそもそも運用するのにネイルガンと、このようにコンプレッサーと、それと発電機もいりますね。とてもじゃないけど持ち歩いて運用できる物ではないので…」
と別の店員さん。
がっかりした俺たちだったが、それでも威嚇ぐらいにはなるだろう、ということで玄関がわりにシャッターを開けて出入りしている所に改造ネイルガンをひとまず設置した。イメージ的には固定機関砲陣地的な感じだ。もっとも威力はしれたものだけど。
それから鉄パイプの先端に包丁を溶接して槍を作ったり、高校生の一団がなんとも都合よく弓道部とのことで塩ビ管とパラコート(パラシュート用の丈夫な紐でアウトドアで各所に使う)を使って弓や弓道部以外の人向けにボウガンを作ったり、ポリカーボネートの盾を量産したりした。
槍は振り回してみたが体力ないとフラフラだったので、小島くん率いるヤンキー隊がポリカーボネートの盾と一緒に装備することになった。
俺たちのようにそこまで体力ない面々はひとまず鉈やスコップの端をキンキンに研いだものを装備することにした。
「スコップだと面で受けられるから防御でもいいかもしれませんね!」
と真田さんと一緒に武器づくりに熱心だった工具担当の高橋さん。
「大体第一次世界大戦以降は近接兵器はスコップ最強ですよ!」
と俺や稲見さんたちが組んだちょっと前衛任せるには不安な面々がスコップ部隊になった。
「ふふんふんふん。」
と楽しそうなのは真田店長である。その腰には…それは鉈と言うにはあまりにも大きかった。その凶悪な姿は…ククリナイフか。
「店長なに凶悪なものもっているんですか!」
と思わず突っ込むと。
「いやぁ、ククリナイフって実に使いやすいですよ。」
「ってあなた先の盗賊とかの時は突っ立っていたじゃないですか。」
「いやアレドクター○トーンになりそこねてがっかりしていたので。今は立ち直りました。」
いいのか。
そうしてある程度武器を揃えていると、稲見薬局長が見つめていたモニターからこちらを向いて言った。
「奴らが来る。」
テレビも受信しないしインターネットもないのにノートパソコン開いてなにをしているんだろうと思ったら、薬局長は周囲に設置した監視カメラを見ていたのだと言う。
画面を見ると松林の奥から何人か盗賊が出てきた。奴らはドローンを羽虫のように思ったのか、わめきながら弓を射ってくる奴や石を投げてくるのもいたが幸いドローンには当たらなかった。
俺たちは外に出るとまた盗賊と向かい合い
「この間は女で勘弁して※※、今度は★※寄越せ」
と喚いている。小島くんが早速
「シールドウォール!」と声をかけると、ポリカーボネートの盾を並べたヤンキー軍団はその場で防御態勢…じゃなくて吶喊を始めた!
「うぉ、大丈夫かよ!」
と俺達も小島くんたちの後に続いて駆け出す。盗賊共の矢は幸いヒョロヒョロだったのもありポリカーボネート盾に突き刺さったけど貫通はせず、小島くんたちは盾の集団のままで盗賊の一団にタックルする!
倒された盗賊共に、小島くんは素早く次の号令を出す。
「槍は並べて叩く!」
号令と一緒に揃えられた槍が振り下ろされ、盗賊に容赦ない打撃が襲う。
「ぐふふ。さすが小島ウジ、拙者の三間槍の運用教えたら早速見事に使っているでござる。」
と歴ヲタ豊島。
さらに俺達が殺到してバールのようなものや鉄パイプで叩き、身動きが取れなくなったところをオタク軍団が盗賊を後ろ手にインシュロックで拘束する。
「なんじゃ奴らはぁ!武器が増えているじゃないか!引け!」
これは俺もわかる。盗賊の頭目の掛け声とともに捕まっていない盗賊共は逃げ出した。
追いかけようとする俺を薬局長が肩をたたいて引き止める。目にはVRゴーグルを着けていてちょっと怖い。
「ドローンを飛ばしました。視野外の飛行は本来航空局に飛行申請が必要なのですが…この状況ならそれもいらないでしょ。奴らのアジト、おそらくそれほど遠くはないと思います。」
俺たちはゴーグルを付けて手元で操作する稲見薬局長をしばらく見ていると、手を止めてゴーグルを外し、ニヤッとしてこちらを向いて言った。
「わかりました。」
「GPSは当然使えませんが、おそらく地形はそんなに大きくは変わってないはず。この地図をみますと。」
「スマホの地図は使えないはずですが。」
と天野先生。
「そこは抜かりなく。ダウンロード版です。」
この人達そんなに災害に前もって備えておきたかったのか。
薬局長のデータと地図を照らし合わせて、盗賊の本拠と思しき家を見つけた。そして飛行したときの記録や地形から、俺達はやっぱり現代で言うつくば市の北部にいることが分かった。
「前回は上手く追い返せましたが、なんども襲撃されると鬱陶しいですな。」
と真田店長。
「攻撃は最大の防御…ということでいっちょやってみますか。」
それから数日は盗賊の襲撃もなかったので、俺達はひたすら専守防衛的な()兵器の制作に色々勤しんだ。それから俺たちはとりあえず男手を二手に分けて、ホムセンに守備隊を残し出撃した。
攻撃隊の方は先の防刃セットにヘルメット、シールドに槍にスコップ。今回は飛び道具として塩ビ改造弓・ボウガンと…いわゆるポテトガンが出てきた。
ポテトガン、というのは塩ビ管の底に燃えやすい整髪料のガスなどを入れて、じゃがいもを打ち出すおもちゃの銃だ。おもちゃの銃・・・だがこの場合は弾頭が凶悪だった。花火を中核として周りに釘やらパチンコ玉などの金属を仕込んである。これ実際に作ったら捕まるやつ(というか本当に捕まった人がいます。)
「ポテトガン自体の威力は低いですが、炸裂弾で効果が抜群です!」
と真田さん。あんた一体なにに備えてそんなモノ作れるようにしていたんだ。
「ついでにこれを持っていきましょう。」
と差し出した瓶。うん。これはわかる。火炎瓶だね。まぁ合法的には作れるよね。
俺たちはドローンの指し示した地図の方角に向かって出陣したのであった。