長篠ならぬ酒寄の戦い
味方の撤退を助けようとする小田家の若き勇士、菅谷政頼を救い出すべく主人公、相馬翔太郎は飛び出した。
相馬翔太郎は殺到する上杉勢をガス拳銃で追い払い、菅谷政頼を救い出すことに成功したのである。
ホムセン衆の構築した陣にこもる小田勢、攻める上杉。この戦、どちらに勝利の女神は微笑むか。
※今回から『前回のまとめ』と『次回予告』風のものを前書きあとがきに付けてみました。
この章より前も順々につけようと思います。
菅谷政頼様を無事に救い出し、無傷とは言わないが俺たちが作り上げた塹壕陣地に逃げ込んだ小田勢。
それを追う上杉勢の前から小田の軍勢の姿は塹壕に隠れており、その手前には鉄条網が張り巡らされている。
「出てこい!穴蔵に潜るとは卑怯者め!お主らモグラか!」
上杉の先陣、柿崎景家の大音声が響き渡る。それに対して小田の陣からも声が上がる。
…すごい音量だ。これ、メガホンじゃなくて屋外用のアンプ使っているな。織部君の仕業のようだ。
「はっはっは。笑止。飛んで火に入る夏の虫とは貴殿らの事。我らの叡智の前に滅び去るが良い。」
…まるでどっかのラピュタ王の演説のようだ。妙に感情のない言い方がツボにはまってクスッとする。
当然、上杉勢はクスッとするどころじゃなくて猛烈に怒り、進撃してきた。しかし鉄条網がそれを阻む!
鉄条網は当然、よく見る立ち入り禁止区域の境に設けた様な普通に柵に渡してあるようなモノではなく、第一次世界大戦のときの野戦陣地のように大きく円筒系に丸められたものがゴロゴロ設置されているのだ。設置の時持っててよかった防刃手袋。
まあ相手も鎧兜なんでザックザク、とは行かなくても雑兵は素手も出ているし、ところどころ間に合ったところはバッテリー接続して触ると電流が流れたりするので、それで感電死とは行かなくてもびっくりして手が出せなくなったりするので、さすがの上杉軍も鉄条網を無視して前進することは出来ない。
当然、俺達は上杉軍が鉄条網を除去しようとして取り付くと、塹壕から矢を放って攻撃するから鉄条網に向かってまっすぐ進んだ上杉勢は次々と矢の餌食になっていく。
「駄目だ!あの針金の設置されていない隙間を狙うのだ!」
誰だろうか上杉の将官の指示に、今度はところどころ鉄条網が置いてない部位に兵が殺到する。
「これこそ殺し間、だよなぁ。」
と俺がつぶやくのと同時に隙間に集まった兵に塹壕から登場した小田の兵の槍が突き入れられ、矢が降り注ぐ。
「隙間を破るのだ!押せば行ける!」
と上杉勢がますます密集して突き破ろうとしてくるが、当然ちょうどそこを狙えるように塹壕は坂の上側にも設置されており、矢(や石)が降り注ぎ、怯んだ所に槍が突き入れられる。
ちなみに読者諸君はなぜここで手榴弾を使わないのだろうか?と思ったかもしれない。一つは上杉家が数の上で優勢であり、虎の子の手榴弾を早々に使ってしまうとお手上げになる可能性があること。2つ目には手榴弾時々不発弾があって投げ返されると厄介なこと、3つ目には下手に投げて鉄条網を破壊したりしては守りが薄くなること、があるのでホムセン衆の火薬兵器は控えめにしているのだ。
とは言え、鉄条網などで上杉家の攻撃面を限定することで、上杉勢は数の優位を十分に奮うことができなくなっていた。それにこちらは高所を取っているのである。高い位置から広く矢を降らせることで上杉家の攻撃を抑え込んでいたのだ。
「奴らはお得意の爆裂弾を使ってこない!使ってきたとしても多少怪我することが多く大したことはないと言うぞ、しゃにむに押してあの間隙から突入するのだ!」
号令しているのは山本寺定長か。うーん。さすが上杉の名将。でも間違い。
鉄条網の間隙に殺到する上杉勢に爆発音が鳴り響いた。どうせ爆裂弾だろう(となめられてきているので今後は対策をしないとやばい。)とたかをくくって更に突っ込んでくるが、何度か発射音と爆炎が消えた後に…上杉の兵たちが倒れていた。
「気休めや威嚇程度のものではなかったのか!」
兵たちの胸板が撃ち抜かれている。
そう。俺たちは農作物の大増産で儲かった資金で氏治様に泣きついた。城の増改築なども行ったがそちらはホムセンの建設機材や器具を提供することで俺たちが主体で行う事でコストを抑え(木材コーナーの在庫はだいぶ減ったぜ。もちろん現地調達のほうが多いが。)…火縄銃を手に入れたのだ。10丁ほど。多分全財産の5分の3ぐらいはつぎ込んだ。
今までのホムセン衆お手製火器とは違うのだよ火器とは。火縄銃は本物の兵器である。銃のように発射するものでなければ爆薬自体はホムセンに肥料として山程在庫していた硝安(なぜそんなに取り置いておいたのかは真田店長だけが知っている。)などでむしろ世代が進んだ遥かに強力な物が作れるが、銃はちょっと合法な資材を使って作るのは難易度が高い。てか俺は無理だと思う。
そういう訳で持続可能な社会SDGsならぬ持続可能な武家としてこの時代で調達できる火縄銃(と付属する一式)の調達はマストなのだ。ちなみに火薬についてはむかーし書いたとおり硝石丘の制作を真田店長が鋭意やっているからもう数年すれば出来そうなので、鉄砲本体さえあればいけそう。
と長々書いたが俺たちは氏治様を煽て、なだめすかして火縄銃を手に入れて、この場に投入したのだ。記録に残る火縄銃が大々的に用いられた戦は1567年なんで本当はこの3年後ぐらいになる。やばい。歴史変えてる。
たった十丁でも鉄条網の隙間に三丁ずつ配置し、適当な毎度おなじみの適当なお手製爆弾に混じっていわゆる三段撃ち的に準備できた射手が入れ替わって撃つ。
あまり致命的でない威嚇兵器だと思っていた爆裂弾と違い、火縄銃の射撃は確実に上杉勢の命を刈り取っていく。爆音がした時にそれが脅しの爆裂弾なのか(って言っても爆裂弾でも結構被害出るのだけどね。)危険な火縄銃なのか上杉勢からは判断できず、勢い攻撃の手が怯む。さらに上方からは矢が飛んできて、塹壕に潜り込んでいるので上杉勢側の矢は打ち返してもあまり効果がない。止めには時々迫撃砲を発射して上杉家の後方にも爆弾が降り注ぎ…攻勢は膠着状態になった。
上杉勢のいらいらがこちらから見てもわかるようになってきた時戦場に大音声が轟いた
「炎衆小島弥太郎!最高のタイミングで横から殴りつける!」
小島団長率いる一団が酒寄の坂に張り付いている上杉勢の側面に殴り込んできたのだ。
…数は少ないはずだけど、秘策はある。たぶん。
穴蔵に閉じこもるような塹壕戦を仕掛ける小田を攻めあぐねる上杉輝虎。
そこにホムセン衆の武闘派小島団長が現れ上杉の側面を襲う!
とはいっても小島団長は圧倒的に寡兵である。戦いは数だよ兄貴!君は生き残ることができるか。
また明日よろしくお願いします。




