菅谷政頼を救出せよ
上杉輝虎が自ら指揮を執り、本陣が前進を初めてからまたたく間に上杉の本営は桜川を渡った。小田方の菅谷、信太など諸将はあの上杉相手によく支えてきたが、自らが先頭に立ち突っ込んでくる輝虎自身の部隊と接触するとたちまちのうちに突き崩されてしまった。
俺はすぐさま後方に合図を送り、狼煙を上げさせた。
「天羽源鉄様からの合図だ!皆のもの!後方の陣城へ引くのだ!」
合図をしたのは俺、相馬氏胤なんだけど、まぁ、小田の家中では『炎衆の指揮は全て天羽源鉄の思し召し』というコンセンサスが出来上がっているらしく、織部君の進言も『天羽源鉄先生は奥ゆかしい方なので従者の織部氏がその意図を説明している。』と解釈しているようなのだ。ともあれ、合図の狼煙を見て小田の諸隊は一斉に後退を始め、鉄条網の間から塹壕に飛び込んでいく。
そうは言っても今この瞬間も上杉軍の攻勢は続いている。それを捌きながら逃げられるのは小田の皆さんの武勇が上杉に勝るとも劣らないものであるからなのだ。
しかし皆を逃すためにはどうしても殿が必要になる。
「ここは俺に任せて先にいけ!皆は塹壕へ引くのだ!」
と大音声でのたまったのは菅谷政貞様の嫡男、彦次郎政頼様だ。菅谷政頼様は上杉勢の前に立ちはだかり、柿崎・中条など錚々たる上杉家の諸隊を相手によく支えていた。
しかしその先には輝虎本人の備が一歩一歩近づいてくるのが見える。
ここで政頼様を救うために手榴弾やロケット弾を使いたいところだが、すでに戦いは乱戦模様であり火薬のたぐいは使えない…真田店長、なんとかしてくれないかな、と思っても今ここでできることは?
「あれは勇者だ。死なせてはいけない!伝鬼房さん、さくらさんを頼みます!」
と言って俺はスコップ片手に奮闘する菅谷政頼様の所に駆け出していく。
「ショウたろさン!」
とちょっとへんなイントネーションですがろうとするさくらさんを斎藤伝鬼房氏に任せてまっすぐ政頼さんの所に向かう俺を上杉の雑兵があざ笑いながら
「なんだぁ?お前も死にに来たのか?」
等と言ってくる。正直やばいが死ぬつもりはない。スコップで槍を薙ぎ払いつつ政頼様の所にたどり着くと俺は言った
「さあ!引きますよ!」
「いや、俺は皆を守って名誉のために死ぬのだ!それが小田家の男の定め!」
「その定めは今すぐ廃止!あなたのような若い勇者が失われては今後の小田家はどうなるというのです!さあザーボンさん(じゃなかった。そもそもドドリアさんいねぇ。)退きますよ!」
と言って政頼様の背中をぽんと叩くと二人で走り始める。
「通すかよ!」
と言って立ちはだかる上杉の雑兵たちを振り払い、塹壕の方へ向かうが…前も上杉の兵に回り込まれそうになっている。まぁその御蔭で後ろから矢が飛んでこないのはマシだが。
「ぐへへへへ。取り囲んだぞ!もうおしまい…ぐはぁ!」
俺の前に立っていた雑兵…は指揮していたから多分足軽大将だな。名のある将ではなさそうでよかった。その武士がいきなり倒れた。
俺の手には握られているのは拳銃である。
拳銃、と言っても所謂本物の火薬を使った拳銃を真田店長が完成させたわけではない。
これはウマレックスHDR50、という護身用のガス拳銃なのだ。一応日本に入荷した実績はある、当然威力は弱めてあるが。しかしこのHDR50、本来はかなり凶悪なパワーを誇り、なぜか銃弾に本来のゴム弾やカラシ弾に加えて鉄球入りスラッグ弾まであるのだ(実在)そこを本国のパワーに店長がゴニョゴニョ工作して戻すと…立派な凶悪なガス拳銃の完成である。今は鉄球スラッグ弾を撃って多分致命的…までは行かないけどそれなりにダメージを与えているようだ。
「なんだなんだ?あの手筒は?変な音がして…」
と前方の上杉兵が尻込みした所に今度はカラシ弾を撃ち込む
「ぐひゃあ!」
と視界をやられて混乱したところを政頼様と血路を切り開いて鉄条網の前にたどり着く
「射よ!射よ!奴らを逃すな!」
との号令を背中に、俺は催涙スプレーの周りに爆薬を巻きつけたいわば催涙爆弾を投げつけた。
「ぎゃぁぁ!目が!目が!」
とどこかのムスカ様の様な言葉を上げている上杉勢からついに逃れて、俺達は塹壕に滑り込んだ。
「…相馬殿、感謝いたす…」
嫡男、政頼様が無事に帰ってきたのを見届けた菅谷政貞様の目は潤んでいるような気がした。
「でもここからが本番ですよ!皆さん!天羽源鉄先生の言うとおりに戦うのです!」
と俺は鼓舞し、政頼様の生還に新たに力を得た小田勢の闘志はますます燃え上がったのであった。




