上杉軍、桜川を渡河する
上杉輝虎率いる軍勢は常陸に入った。陣を張った輝虎は重臣、直江実綱に尋ねる。
「佐竹や真壁などの参陣は?」
「それが佐竹はまだ常陸太田を発ったばかりでして、近年服属した大掾氏の動きが怪しいと言って出陣がおくれたようです。真壁は佐竹の指示を待つ、と。」
「ええい。奴らのためにもなるのに腰が重い。」
床几に座り、顎を手についた輝虎は口ずさむ
「霜は軍営に満ちて 秋気清し
数行の過雁 月三更…」
「御実城様、お言葉ですが。」
と一族ながら叛乱を繰り返した経歴のある長尾政景が口を挟む。
「今は四月であれは春霞、飛んでいるのは北に帰る白鳥でありますが。」
「無粋なやつよ…」
と憮然として腕を組む輝虎。
「御実城様、小田は桜川を超えた所に陣を構えている様子。引きこもって手を出せぬとは肝っ玉の小さいことで!」
と若き猛将、五十公野治長が報告してくる。
「うん。しかし先の結城を撤退に追い込んだ戦い、今までの小田氏治のような浅慮とは違うと思うんだよね…」
輝虎は少し話し方に地が出てきた。
「手子生衆とやらが配下に加わってから爆裂弾を多用するとか。我らも鉄砲を手に入れましたがまだ十丁ほどですが。」
と直江実綱。後に柴田勝家の軍勢を苦しめる名将、竹俣清綱はそれに続けて
「それもありますが、結城家の水谷正村が差配して小田勢の包囲を試みた所、それをうまく突破して退いたとか。それを差配した天羽源鉄なる軍師の存在が気になります。」
「今までみたいに単なる猪武者と思ったら間違いってことだよね。」
と言う輝虎に『はっ!』と諸将が傅く。
「どうも常陸に入ってから我らの評判が悪いのも気になります。」
と甘粕景持。この人は第四次川中島の戦いで武田の別働隊を抑え込んだ殊勲者だ。
「うーん。なぜか村々や寺社も前よりも冷たくて協力してくれないんだよね。『虐殺者!』とか子供に叫ばれた事もあったし。」
ちなみにその子供は輝虎に一太刀で両断された。リアル『雪の峠』な光景に岩槻城への援軍の依頼に来ていた梶原政景は後にトラウマになったという。
「とは言ってもこの小雨の降る状況なら小田の奴らもうまく鉄砲や爆裂弾を使えますまい。となれば我らの鍛え抜かれた弓兵の方がまさるかと。」
「うん。その通りだね。ここは天候の回復をあえて待たず明朝小田に総攻撃をかける!」
「はっ!」
諸将が自らの陣に散ったのを見て輝虎がつぶやいた
「僕が一番うまく上杉軍を指揮できるんだ…」
--
払暁、上杉軍が佐竹勢などの到着を待たずに酒寄に布陣する小田の軍勢をめがけて前進を始めた。
俺、相馬翔太郎氏胤は構築した防御陣地に誘い込むまで動かない様に進言したが、辺洲田の復讐に燃える小田家の皆さんはそれを許さず、渡河は思いとどまってくれたものの桜川の東岸で待ち受ける事になった。
「上杉は遠く越後から来た身、この桜川のどこから渡ればいいかなどよくわかりますまい!ハッハッハ。」
と気楽に行ってくれるのはお館様。
しかし上杉勢はそんな目論見など全く知らぬ、と言った風情でまっすぐ渡河しやすいポイントへ分かれて向かっていく。
「奴ら川のどこから渡れるか把握しているというのか!」
うん。してると思うよ。上杉の忍び軒猿をなめてはいかん。しかしこれは計画通りなのだ(ニヤリ)
小田勢が矢を撃ちかける中、上杉勢は(流石に竹束などで防御はしているが)粛々と渡河地点を渡っていく。事前に浅い徒士で渡れるポイントを調査してあったのだ。上杉から援護の矢も飛んでくる…それはむしろ小田勢よりも激しく、かなりの軍勢が川の中に入った。
ここで俺は手元のスイッチを押した。
「ポチッとな。」
すると川中に仕掛けてあった圧力鍋爆弾が次々と爆発して上杉勢を吹き飛ばし、川の此方側にガソリンを巻いた炎の壁が立ち上がる!
上杉軍の前衛は混乱して川から慌てて戻る様子が見える。これでここでの渡河を諦めて大きく北か南に迂回するか、ひとまず海老ヶ島城を攻めるのではないだろうか。もちろん海老ヶ島城を攻めるなら挟み撃ちだ!
と思っていたのだが…上杉の軍勢、戻ってきたやつを叩き斬ってる?そのまま回れ右をして渡河地点に戻らせている!
「くそ!なんだ彼奴等!爆弾が1回だけとは思うなよ!」
とある程度渡った時点で爆発させては吹き飛ばし、渡りきっちゃった人も少しはいたけどそれは小田勢が囲んで討ち取り…と5回も吹き飛ばしたのだ。流石に5回もやられれば考えかえていったんは引くでしょ。と思った俺が甘かった。
何度吹き飛ばしても上杉軍はむしろ死んでいる自軍の死体をむしろ爆弾で吹き飛んだ穴の埋め合わせにして進んでくるのだ。
ひー!おそロシアというよりむしろゾンビに襲われている気分。矢の撃ち合いは数の暴力もあって上杉が押し気味であり、ついにまとまった備がこちらの岸にたどり着いたのである!
「見つけぇたぞー!小田の奴らぁー!」
鎧兜の上からでも満面の笑みを浮かべているのがわかる柿崎景家が渡河を成し遂げた先人である。手にしているのはなぜか槍ではなくて巨大なマサカリ。あんなのもっていたっけ?
とは言え猛将柿崎景家がニッコニコでマサカリ振り回して突入してくるのである。小田の前衛で弓兵を守っていた長柄隊がすぐに突き崩される。
やばい、と思ったその時
「そこに居るのは長尾の家臣柿崎景家かぁ!赤松凝淵斉!参る!」
と赤松様率いる隊が突っ込んでいく。赤松様全快してよかった。でも無理しないで…
「信太治房参る!」「菅谷政貞も続くぞ!」
と小田の精鋭が次々と柿崎隊に立ち向かっていく。
「猪口才な!とは言え雑魚ではないな!」
とマサカリを振り回して奮戦する柿崎景家。さすがは上杉の誇る猛将、前進は止めたが退かせるには至らない。そこにかかっているうちに上杉の後続も次々と川から上がってくる
「山本寺定長、柿崎殿に助太刀いたす!」
「色部勝長も続くぞ!」
…小田の皆さんは上杉家の超有名戦国武将たちに遅れを取らず奮戦している。しかし魚鱗の陣を取る上杉勢、元々小田勢の倍以上いるのだ。
「稲見さん!状況は?」
「上杉はまだ前衛が参加しているぐらいで余裕がありますね。」
ドローンの映像を見ながら稲見さん。
「ここはあれの使いどきでは?」
と言われて俺はうなずく。俺は後方に待機したロケット砲部隊へ指示を送った。
ちなみに戦術指揮を俺が取っているのはホムセン衆の長として扱われている天羽源鉄先生(と実質的な参謀の織部君)が氏治様の手綱を押さえるために本陣につきっきりだから、なのだ。為念。
俺が合図を送るとともに、リアカーに設置したロケット砲…ソヴィエトのカチューシャのようなやつだが、要は鉄パイプで作ったバカでかいロケット花火の親玉だ…から次々にロケットが放たれた。まぁ奥の方は全て敵だからある程度飛んでくれれば方向も誘導もいらないのよ。
ヒューン、ヒューンと甲高い音を立てながらカチューシャは飛んでいく。音が鳴るのはナチス・ドイツの急降下爆撃機スツーカが足にサイレンを着けていてそれが襲われる方のトラウマになった、という話から真田店長がノリノリで付けた。うん。
「馬鹿め!どこを狙っておる!」
と上杉家の本庄繁長が頭上を超えるロケットを馬鹿にした…その後ロケットは輝虎の本陣備の近くに次々に着弾し、不発弾はあったものの爆発したものは凄まじい爆炎を上げた。うーん。さすがアンポ爆薬。火さえ付けば効果は絶大だ。
「静まれ!静まれ!」
と上杉の諸将が出す指示がこちらまで聞こえてくる。通常ならここで上杉軍の闘志は燃え上がり、むしろ炎を付けてしまったかもしれない。しかし輝虎はともかく、雑兵たちにはそうは行かなかったようだ。
「辺洲田村の祟じゃあ!」
と声が上がる。うん。これは飛加藤さんとその配下の忍びの皆さんの流言だ。盗賊だったみなさんも今じゃ風間(風魔)小太郎に『それなりにはやりますな。』との評価を頂いたのだ。それなりに、だが。
飛加藤さんたちの流言に上杉の雑兵たちは士分に『逃げるな!』と斬られても逃げ出すものが双眼鏡でよく見えた。混乱は前衛にまで広がりつつあり、赤松様たちは柿崎景家らの前衛をむしろ川に追い落とそうかという勢いだ。
「クックック。圧倒的ではないか。我軍は。」
おれは双眼鏡で見つつ思わず長年行ってみたかったセリフを言ってみる。うん。今は『兄上も甘いようで。』とか言い出す目付きの悪い老けた妹も俺にはいないから多分このまま勝てる。
「うむ。ここでSフィールドにいるドロス…じゃなかった小島団長の隊が側面から上杉を突けば止めをさせるだろう。無線、無線…」
とロケットの指示をしている時に思わず無線機(ホムセンで売ってるよねー。最近は携帯で足りる事も多いけどキャンプとかスキーの時便利で)を手元から見失ってしまった俺は手元をウロウロ探すと『はい』っと手渡された。
「翔太郎さんも甘いようで。」
え?なんでさくらさんいるの?武具着けて?
「翔太郎さんが不在の間塚原卜伝様にずっと稽古をつけていただいていたのです。『おなごだから惜しいが、印可をやっても良いほどじゃのう。ホッホッホ。』だそうなのです。」
「だからといって…」
「この斎藤金平改め斎藤伝鬼房も付いているから安心めされよ。」
と見ると最近すっかり体格が更に立派になっちゃって確かに鬼っぽいぐらいの金平君がいた。手には鬼真壁久幹同様のバカでかい金砕棒を持っている。
というか金平君があの有名な剣豪斎藤伝鬼房だったのか…幼名金平だったわ。そういえば。
それはともかく、俺はさくらさんに
「無理せず安全な所にいてください。」
「翔太郎さんのところが一番安全だと思います。小田のお館様はやたらに突撃するってホムセンの人々が教えてくれました。」
たしかにそうだがさくらさんホムセンの人々と馴染み過ぎでは。
「そもそもまだ勝ってないのにあの言葉、慢心は身を滅ぼしますよ!」
すみません。そして俺が無線で小島団長に連絡しようとしたその時、上杉の軍に動きがあった。
それを見てさくらさんがぼそっと言った。
「白い方が勝つわ。」
白い方?…見ると上杉輝虎の本陣が周囲の混乱を物ともとせず毅然として前進を始めている。混乱していた前衛の上杉勢は、輝虎の陣の前進に対応できない備は脇にそれて道を譲って側面を固め、混乱を立て直せた備は本陣の動きとともに前進を再開している。
白い方って…上杉と言えば武田の赤、対して黒じゃないのか!(映画天と地脳)と思っていたのだが、今日の輝虎の軍勢の装束はそっちじゃなくて関東管領の威光を示そうとしたのか、戦国ラ○スの謙信ちゃん的な白銀の甲冑に身を固めて白く輝いているのである。
輝虎の前進とともにまたたく間に上杉の軍勢は立ち直り、本陣がとかしたかと思うと見る見る間に小田の8つの備が蹴散らされた!
「リックドム、じゃなかった小田の精鋭の備が8つだぞ!」
とてもじゃないけど俺はさくらさんにむかって『さくらさんは賢いなぁ』と声をかける気にはなれかなったのである。計算通り…じゃねーよ!
今日はここまでです。また明日!どうなる小田軍。




