鬼真壁
多賀谷勢の後方に迫撃砲弾を打ち込み、相手の混乱を誘った後、右翼の大将、信太範宗は備に前進を命じた。
小田氏治はよく戦国最弱等と言われるが、実際の合戦では佐竹・結城など名だたる大名を相手に勝利を収めたことも多々あった。最弱、と言われたのはいくら奮戦しても相手が悪くて敗北し、度々本拠の小田城を落とされたからである。
しかし度々本拠を落とされても滅亡しないのは、単に領民に好かれていてすぐに迎え入れられた以上にその率いる兵が剽悍極まりない精鋭揃いで負けたとは言え互角に戦って氏治を支え続けたことがその理由であった。
長々書いたが、
要 は 小 田 の 兵 は 強 い
のだ。
訓練で以前よりは慣れたとはいえ、鬱陶しい爆裂弾に耐えていた所に、背後から混乱した馬やそれを抑えようとする口取り(馬の世話をしたり手綱を取る係)がなだれ込んできたからたまらない。多賀谷勢はまさに壊乱しようとしていた。
「行けるぞ!押し出せ!」
信太範宗の号令とともに後方から弓兵が一斉射を行い、それに続いて長柄(槍)隊が前進して相手の備えを、とにかく叩く。突き崩すのではなく、叩くのが主体だ。
多賀谷政経の備は前後からの圧力に隊列を乱し、逃げ出すものも増え始めた。
「あと一歩だ!押し潰せ!」
「いかん。右から新手が来る!」
総掛かりの命を下そうとした信太様にVRゴーグルでドローンの映像を見ていた稲見薬局長が制する。
「右を大きく回り込んできた部隊がある!側面を突かれるぞ!」
ドローンの映像が表示されたノートパソコンを見て歴史オタ豊島氏が叫んだ。
「あの旗印は真壁!『鬼真壁』真壁久幹の隊だ!」
真壁久幹は鬼である。多分うちにいる僧の随風様と並べたら男塾の江田島平八と大豪院邪鬼が並んでいるような地獄絵図になるだろう。まあそこまで身長は高くないのだが、それでも頭一つ抜けそうな長身で、手には巨大な六角の木材に鋲が打ち付けられている金砕棒を持っている。
訂正する。大豪院邪鬼というよりは彼岸島のハゲのほうが多分似ている。絶対
「丸太は持ったか!」
と声をかけてから出陣していそうだ。その金砕棒は金砕棒というのはあまりにも巨大だった。それは大きく、太く、ゴツかった。マジ丸太。
鬼真壁は自ら先頭になり、こちらの備に突っ込んできた。いくら小田の兵が強いとはいってもいきなり側面から叩きつけられては直ぐに対応もできない。そもそも正面には多賀谷の備がいて、援軍の到着もあって多賀谷政経は急速に陣を立て直していたのだ。やるな政経。
これはキングダムの世界かよ、といった調子で、胴体真っ二つになって死亡とは行かなくても金砕棒に叩きのめされて死んでなくても倒れていく我が前衛。やばい。
「ここは俺が止める!」
とそちらに向かったのはヤンキー軍団小島団長だ。やばいのでは、と言おうと思ったそのときにはもう鬼真壁の方に向かっていた。
「そこの鬼ぃ!日輪刀はないが首叩き切って成仏させてやるわ!」
と叫んで鬼真壁に挑みかかる小島くん。
「なんだなんだ!ちょこざいな!」
と気づいた真壁久幹は丸太じゃなくて金砕棒をものすごい速度で小島くんを横薙ぎにしようと振るが、なんと小島くんはそれをバールのようなもの、じゃなくてもろ大型のバールで受け止めた!
「ぬ!やるな!」
「こちとら卜伝先生に鍛えられてるんだ!仲間内では田原くんの次に強くて先生に『筋がいい』って褒められているんだぜ!」
「なに?卜伝先生とな?ボンのお師さんがぬしに?」
と手は止めず激しく金砕棒とバールで打ち合う二人。周りは思わず手を出せず固唾を呑んで見守っている…というか手を出そうとした雑兵が双方実はいたのだが、近づいた途端に双方のどちらかに打ち据えられて倒れていたのだ。
隊を立て直した多賀谷政経は、真壁久幹の勢いが止まったのを見てこちらも軍を進めよう、と備の前進を命じた。
その前に立ちはだかったのは…野球部軍団を率いているはずの乱馬さんだった。
「何奴!」
多賀谷勢の備から士分と見られる侍が飛び出てきて乱馬さんに挑みかかろうとする。
すると乱馬さんは腕から
「ふん!」
と声を出しつつ鎖鎌の錘を投げ、侍を絡め取った!
「このようなもの!絡めてしまってはかえって貴様も武器を使えまい!愚かな…」
と言いかけた所で乱馬さんは手元のスイッチを入れた。
「バアバっバババババババババ」
突然侍はガチガチと痙攣し、倒れる。まるで電気ショックに打たれたように…ではなくて
乱馬さんが背中に背負っていたのはバカでかいモバイルバッテリーと昇圧機だった。鎖鎌に電気を流したのだ。
「雑魚とは違うのだよ!雑魚とは。」
と言い放つ乱馬さん。
わけのわからない現象に多賀谷勢は足がすくみ(多分この時に普通に襲われていたらやられていたと思う)乱馬さんはゆうゆうと帰還する。
乱馬さんの行動で多賀谷勢も攻めあぐね、右翼は押しも進みもしない膠着状態となってきていた。それでもこちらが押し込めないのは多賀谷・真壁共になかなか強いのだ。
戦いは乱戦模様で近接兵器としてスコップはいたく役に立ったが、爆発物系は使えない。
俺はドローンで戦況を確認している稲見さんの所に戻り、現況を尋ねた。
「稲見さん!他のところはどうなっています?」
「うーん。このへんは見たとおり膠着状態で、幸い敵はさらなる予備兵力は投入してきていないですね。…お、お館様の本営自ら前進して結城晴朝の陣をかなり押し込んでますぞ。晴朝の部隊はかなり左側に列を崩して後退してますね。」
それを見ながらどこに持っていたのか、織部くんは卓上に小さい地図のようなものを広げて各部隊の駒のようなものを並べて首を傾げながら考えていたかと思うとはっと何かに気づいたのか立ち上がって叫んだ。
「これはまずい!」




