天羽源鉄爆誕
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「ところでお館様。」
とウズウズした様子で天野先生が尋ねる。
「天羽源鉄様の姿が見えませんが。」
あーあ。言っちゃった。よほど天羽源鉄様に会いたかったんだろうね。
「天羽源鉄…?それはどのようなものなのだ。そちらは西国から来たところ故話が曲がって伝わったのやもしれぬ。話を聞けば思い当たることもあろう。」
おお、氏治様、何たるお心遣い。この人流石に一国の大名たる風格があるのでは。他の大名の現物知らないけど。多分豊臣秀吉天下統一後のラスボスモードとか超怖いよね。
「天羽源鉄というのは小田家の救世主たる軍師なのです!」
と天野先生は、さすがに小田城落とされたとかは言い出さなかったけど(本当にオタ豊島氏を連れてこなくて首がつながったぜ。)天羽源鉄の素晴らしさについて熱く語る。
「…ぬうう。残念ながら俺には思い当たる家臣がおらぬ。知勇兼備の将ならば菅谷、信太を始め当家には揃っておるが。」
とちょっと残念そうな氏治様。それを聞いて天野先生もしょげた様子である。ショボーンとした眼鏡の孔明って結構珍しい絵面だ。
「ところで天なんとか殿。」
と氏治様が天野先生に声をかける。
「そのような大軍師に詳しい貴殿も一角のものと見た。貴殿は当家の現状をどうみる?」
と訪ねてくる。これはかなり怖い質問だ。下手に答えると首が飛びそうだ。
「愚見ながら当家の最大の問題点は西の結城、北の佐竹と大きな難敵を同時に抱えていることにあります。」
「二正面作戦は戦略としては最悪だよね…米帝ぐらい国力あるなら別だけど。」
と俺は思わず小声で言ってしまった。氏治様は聞き逃さず
「ほぅ。我が国の国力がその『米帝』に劣ると。」
うん。劣ります。いくらなんでも。
「まぁそれよいとして(と言ってくれる氏治様はまじ優しい)、その二正面作戦を打破するにはいかがするのがよいとアマなんとか殿は考えるのだ?」
と寛大な心で聞いてくださる氏治様。
「双方を同時に相手していては絶え間なく攻められ、我らはジリ貧になるばかり。ここは心機一転していったん片方には頭を下げて手を結び、もう一方を討つのが得策かと。」
「して貴殿が結ぶべきと考えるのは?結城か?佐竹か?」
「私としては佐竹を推します。」
「なぜに?」
「佐竹義昭は統率に優れ、分裂・弱体化した佐竹家をまとめ上げました。また義昭の嫡男の義重も無双の知勇兼備の大将なれば相手にするのは大変です。」
「随分従兄弟殿の事を買っておるのう。」
そう。佐竹義昭は小田氏治の従兄弟に当たるのだ。関東・東北はこのように親族関係がやたらめったら入り乱れていて、その親族・一門などのまとまりで洞という集団を作り、一家をなしているのだ。ただ洞の惣領(大将)が弱体化すると、関係が入り乱れているがゆえに容易に他の洞に乗り換えたりしていた。
小田家も先代政治の時には強盛で常陸(茨城)南部をほぼ制圧していたのだが、当代の氏治が若年で家督を次ぐと相次いでよそに乗り換える豪族が相次いだのである
その代表が先日攻めてきた多賀谷政経であり、また『鬼真壁』真壁久幹だったりする。
「殿!この者は佐竹の間者ではありませぬか?北条の後援を受けた結城氏は破竹の勢い。佐竹よりもここは仇恨を捨て結城氏との連携も考えるべきでは?」
と声を上げたのは居並ぶ一門で谷田部城主、岡見治広である。岡見家は小田家の一門で、小田領の南部、谷田部から牛久沼の一帯の牛久城など広大な所領を持っていた。
南側に位置するために南関東で急激に成長してきた北条氏(小田原後北条氏)とも関わることが多く、北条氏に与する結城氏にも接近しているのであろう。
「岡見様の言うこともごもっともであります!」
と天野先生が声を上げる。
「なんと?いまお主は佐竹と組むべき、と言ったではないか。」
と鼻白む岡見治広。
「岡見様は結城には北条が付いているから結城のほうが良い、とおっしゃりました。これこそが要点なのです。
それをいうなら佐竹には上杉輝虎が付いています。輝虎を敵に回せば容赦なく襲いかかってくるでしょう。」
うーん。と諸将は考え込んだ。
「とは言え事を急いてはなりませぬ。今急いでどちらと結ぶかを決めるのではなく、当家は虎が爪を研ぐように力を蓄え、もっとも高く買ってもらえる時に手を組むのです!それが最も価値を高められるというものです。そして我ら炎衆はその手伝いができる。」
と思わず立ち上がり、羽扇子をふってまさに横山漫画の諸葛亮孔明みたいに熱弁する天野先生。
「うむ。赤松よ、なかなかに面白いことを言うな、炎衆は。」
「はっ。」
「しかし当小田城はその昔北畠親房殿が王道を説く『神皇正統記』を記した地なのだ。
すなわち当家の目指すべきは王道!
王者の道は引かぬ!媚びぬ!省みぬ!
結城や佐竹などには頭を下げず、我は小田家の帝王の道を行くのだ。」
いや氏治様。撤退してもいいし、こびるのはともかく反省はしようよー。
そんなところまで南の方の帝王まんまじゃなくていいよー。
俺はちょっと灰になりそうになった。やばい。
それから氏治様は俺達の方に向き直る。
「それでだな、赤松から此度の戦傷で城代を勤めるのは相成らぬので隠居したい、と申し出があったのだ。
そこで赤松の提案どおり、その天なんとか…ええい、貴殿が言う天羽、当家を見回してもそのような人物はいない上に先程の言い分、貴殿こそがその軍師に違いない。
天羽源鉄と名乗り手子生城主に任ずる。手子生領…なんかやたらに収穫が増えたから2000貫ぐらいあるのか?とにかくお主が差配せよ。」
「ええっ?」
といって天野先生は固まる。俺は素早く天野先生を座らせ、頭を畳に押し付けて
「お館さまのご厚情に感謝いたします。この天羽源鉄、微力ながら手子生城主を務めさせていただきます!」
そして立ち上がると片手をすっと上げ俺は叫んだ。
「全ては小田家の栄光のために!」
と言うとなんかツボにはまったのか家臣一同立ち上がり
「全ては小田家の栄光のために!」
「全ては小田家の栄光のために!」
と唱和して俺たちはなんだかもみクシャにされ…どうやら熱烈歓迎されているようである。これが『小田家』じゃなくて『織田家』なら天下取れるんだけどね。そう言えば織田に仕えたい、といってホムセンを去った中村くんは元気だろうか。
こうして天野先生改め天羽源鉄は手子生城主となったのであった。
まさか自分自身が天羽源鉄になるとは天野先生も想像してはいなかっただろう。
俺はと言えば手子生領から50貫を知行として与えられた。それから
「お主諱は?」
と氏治様が聞くので名前は翔太郎、と答えると
「それは通称であろう…諱もないのか。ならば我が名から治の字を与えよう。お主の家の相馬家の通字と合わせて治胤…お、そういえばすでに下総守谷の相馬におったな。ならば氏の字を与えるので氏胤となのるがよい。よいだろう?」
「おお、氏の字を与えるとは何たる栄華!」
「赤松殿を救った相馬大明神にはふさわしい名前ですな。」
「神医を我が一門に迎えられるとは誇りに思いますぞ!一瞬同じ名前になるかとビクビクしましたわ。」
と快活そうな二十歳ぐらいの青年から肩を叩かれた。
え?もしかしてご先祖様?うち庶流の庶流の……なんで一門なんていえるか本当に怪しいところもいいところなんだけど。まさかの?
こうして俺の正式な名前(?)は相馬翔太郎氏胤になった。どうなるこれから。




