剣豪来る
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飯泉さんが農業改革に勤しんでいた頃、神宮寺で教えを受けていた俺たちに随風様が言い出した。
「ところでそろそろこの神宮寺の本来の住職がお帰りになる予定なのです。」
「おお、でも随風様はこちらに残られるので?」
「いやそれが拙僧はあくまでも代行の身、住職が戻られたら引き継ぎをして神宮寺は去る予定でして。」
「それはもったいない。」
「そこで提案なのですが、拙僧を『ホムセン』にしばらくおいてはもらえませんでしょうか?」
「なんと。我々としては心強いお話です。でも随風様はそれでよいので?」
と天野先生が尋ねると
「拙僧将来の夢は『外交僧』として天下の大名の仲立ちをいたす事なのです。ホムセンにいればその勉強になるかと。」
「我らと諸勢力の仲立ちをしていただけましたら本当に心強いです。しかしホムセンには寺はありませんが。」
「小さい庵でも与えていただけましたら。」
というわけで、随風様がホムセンにいるようになった。天野先生は随風様を見るたびに
「…会津出身…川中島の戦いを見たと…うーん。まさかあの人か?でもあんな大物がこんな所にいるはずはないし…そもそも名前…どうだったっけ?…」
と頭を捻っていた。
そんなある日、ホムセンの外門(外構センターの資材を使って駐車場のゲートを元に作った)に訪ねてきた一行があった。俺が門の所に出て(一応フル装備)応対すると
「随風様がこちらにいると聞いた。師匠が会いたいと言っています。」
とやたらに体格が立派な筋骨隆々としたこれも男○塾か北斗○拳っぽい少年が取次を願いに来た。
「どちら様で?」
「こらお前ら!この一行を見てわからないとはどこのモグリだ!お前ら〆ようか!!」
と怒り出したのを見て、一行の奥の方で馬に乗っていた師匠と目される老人が前の方に出てきた。
「これ金平。」
と老人が話しかける。
「師匠がわざわざ出てこなくても俺が〆ます!だいたい塚原卜伝一行がわからない奴らなんて…」
「え?塚原卜伝?あの剣聖の?」
「剣聖とはとてもとても…」
と老人は謙遜したが、見たところ只者ではない。多分触れれば、どころかちょっと近づいたら俺真っ二つになる自信あるわ。
「随風様呼んできます!アイアイサー!」
と俺は叫んでホムセンの中に戻った。
「あいあい?」
とキョトンとする一行を残して。
随風様はホムセンの外構センターに設置されたよくある庭に設置する小屋を住まいとしていた。真田店長は『大事なお客様なので』と豪華なベッドを設置しようとしたが随風様に固辞されて畳と布団が設置されている(こっそり良いやつ入れた。)
随風様の分も含めてトイレは真田店長たちの力作が屋外に設置されており、そこに溜まった糞尿を肥料にしたり、これが真田店長の狙いなのだが硝石を作り出して将来は自力で火薬を作るつもりなのだ。
「最初は黒色火薬から研究を初めて硝安が切れないうちにうまく無煙火薬までね…それよりアンポ使って
銃弾用の火薬が作れぬものか…実験するにしても消費しすぎるわけにはいかんし安全性の問題も…」
などとブツブツ言っている。真田店長の野望は大きい。
話を戻して俺は小屋の随風様を呼びに行って門へ取って返した。塚原卜伝様と随風様は再会の喜びに抱き合ったかと思うと何やら熱く語りだし、卜伝様は盛んにウンウンと頷いていた。それから卜伝様はこちらに向き直ると
「そこの相馬殿。頼みがあるのだが。」
「はい。出来ることなら何なりと。」
「我らをしばらくここに置いてもらえないか。真壁の坊っちゃんに稽古をつけた帰り、随風様から文をもらって来てみたのだが、実に面白そうだ。特に竹やぶが。」
竹やぶになんの意味があるのかは分からなかった。卜伝様パンダコパンダのお父さんパンダなのか?
泰然自若とした雰囲気はなんとなく似ているのかもしれないが。俺は
「し、しばしお待ちを私はここの長ではないので!」
最敬礼をして飛んで帰り…皆はあっさり剣聖、塚原卜伝の滞在に同意、と言うかむしろ歓迎した。
卜伝様御一行に俺たちは修行をつけていただき、特にヤンキー軍団や高校生たちはメキメキと腕を上げていった。
「ぐははは。ここはやはり面白いな。その竹刀とか。それで安全に稽古ができるとは。だが、軽すぎるから普段から刀や槍は振らないとな。」
と真剣や木刀では俺たちが危なすぎるので差し出した竹刀での稽古を卜伝様は気に入った。
「ふん、上泉信綱も面白いものを考えおる。やつも成長したものだのう。」
と目を細めつつ良いものは取り入れるようである。さすが剣聖。てかまじ木刀だと俺たちリアルで死ぬ。
最初に取り次いだ悪童っぽい金平もだんだん俺たちに馴染んできていて、今では一緒に遊び回るようになった。
一方卜伝様は薬局長が持っているPCの「信長○野望 革○PK」にハマってしょっちゅう遊んでいた。
「ふむ。なんだこの柳生石舟斎というのはわしよりも強いというのか?」
なんか不満げである。稲見薬局長に教えてもらうと武将エディターで塚原卜伝のステータスを最強にしている。
「うーむ。それでもこの上杉謙信は倒せないな。なんじゃこやつ。」
と腕を組んでいる。卜伝様はホムセンが気に入ったようで、すっかりいついてしまったのであった。
卜伝様一行がホムセンに滞在するようになってからしばらくして、夜、対人地雷の爆発音が聞こえた。
「な、なんだ?」
「敵襲か?」
「いやそれにしては爆発が一箇所のみだな。」
と真田店長たちが情報を収集していると、ドローンを飛ばした稲見薬局長が
「あ。」
と言った。
「稲見さん、どうした?」
「これ動物じゃなくて人間ですね。どうやら一人。え?鉄条網を軽々飛び越した?あ。もうこっちに来てる。」
と一同慌てて防備を固めて外に出ると、それよりも素早く反応した卜伝様と金平が、薄暗い着物の下に鎖帷子を着込んでいる、長身の痩せぎすで、なんとも奇妙な存在感を醸し出す男と対峙していた。忍びだ。この時代で言うと乱波か?
にらみ合う乱波と卜全様。どちらにもすきがなく緊張した時間が流れる。
すると庵という名の小屋から随風様が出てきた。乱波の方を見ると、声をかける。
「よお、加藤段蔵か。死んだと聞いたがどうした?」
「え?あの加藤段蔵?鳶加藤とか飛加藤とか言われて空を舞うとか言われる伝説の忍者?武田に討たれたはずなんじゃ?」
「忍者っていうのはわからないが俺のことを伝説とか言ってくれるのは兄さん、嬉しいねぇ。」
となんとも言えない怖い笑顔をこちらに向けてくる。
「俺がその加藤だ。武田の百足は優秀だが、俺を殺せる程じゃねぇ。上杉輝虎本人が自ら、ならやばかったけどな。アレはやばい。」
と段蔵。
「その加藤がなぜここに?」
と随風様が尋ねると。
「いやね、ここの城の連中って思いっきり風変わりと聞いたんでね。上杉や武田みたいに頭ガチガチじゃなくて俺のこと買ってくれるんじゃないかとね。」
と言い出した。いつの間にか出てきていた天野先生は
「加藤段蔵…伝説通りなら超一流ですがまた信用も難しいかと。」
と言ったが、真田店長は
「それを使いこなせるかどうかも我らが度量!ならば良し!」
と言い出した。こうして信用できるかどうかは非常に疑わしいが腕だけは伝説の忍者、加藤段蔵もホムセンにいつくようになったのである。




