付与魔法師は咆哮する
昔、俺の最も嫌いな男が言っていた。
魔法師と戦士、どちらも本質は同じなのだと。
戦闘中体内に秘める《純気》を、魔法師は《魔気》へ、戦士は《闘気》へと変換して戦う。
言ってしまえばそれだけの違いらしい。
だからやり方さえ知れば、グレイのように魔法師でありながら《闘気》を扱うことも可能だ。
だが、俺は剣士になれない。
何故なら俺のスキルは【付与魔法】だから。
その事実がある限り、俺は【付与魔法師】以外にはなれないのだ。
スキル無き者がスキルを持つ者の上に立つ事は決してない。
それほどスキルによる恩恵は大きい。
そしてその最たるモノが今グレイの眼前にあった。
それは強者のみが踏み込めるスキルの深奥。
魂に刻まれた唯一無二の絶技。
その名を、────"魂源励起"
「【緋焔煌爆】」
ギールの天高く掲げた一振りの焔剣を見て、全身からブワッと汗が噴き出す。
「………そろそろ終わりにしようか。我が好敵手」
トンッ。
スキップでもしたかのように軽い足音を鼓膜が捉えた時には、既にグレイの眼前にギールの顔があった。
「──ッッッ!!?」
頭上から迫り来る焔に対してグレイは咄嗟に氷剣を合わせる。そしてすぐに、それが失策であると悟った。
ジュウッ
焔剣が無秩序に振り撒く高熱により、グレイの氷剣は打ち合う前に蒸発したのである。
「クソッ!!」
そう吐き捨て、グレイは回避行動を取る。
極限まで高まった集中力は、グレイの身体を思い通りに動かし、紙一重で避ける。
焔剣はその勢いのまま地を叩いた。
よし、避け切った。この隙に反撃を────
その先の思考は言葉にならなかった。
気がつくと、グレイの身体は宙を舞っていた。
「………は?」
全身を襲う浮遊間に一瞬頭がパニックになるが、無防備に地面に叩きつけられては堪らないと空中で身体を捻り転がるように受け身をとった。
そして顔を上げると、目の前に焔剣があった。
「ぐうっッッッ!!?」
グレイは咄嗟に上体を逸らす。
その斬撃を避けられたのは奇跡と言ってよかった。
そしてグレイは見た。
焔剣が叩いた地面が爆ぜるのを。
「ガハッッ!!」
爆風と爆炎をもろに受けたグレイはまたもや大きく吹き飛ばされる。
先程よりも軌道が低く、グレイは受け身を取れずゴロゴロと転がった。
視界の端でオレンジ色の燐光が弾ける。
《戦闘衣》の耐久値が半分を切った証拠だ。
20%を切るとさらに赤い燐光が弾ける仕組みになっている。
「僕の魂源励起……【緋焔煌爆】は、纏った焔での攻撃に加え、触れた物全てを爆破する。誇っていいよ。予選でこれは使わないつもりだった」
悠々と歩くギールは微笑みを浮かべていた。
──まるで勝者のように。
「ふざ、けるな」
グレイはそう吐き捨て、地面に手をついて立ち上がる。
その様子を見て、ギールは憐憫の色をその瞳に宿した。
「……もう君が勝つ可能性はないよ。残念ながらね。君ならその理由が分かるだろう?」
──ああ、分かるさ。
ギールの纏う赤気は先程よりも数段濃く、大きくなっていた。
闘気はその濃さ、大きさに比例して身体能力を向上させる。
見ていると目が痛くなるほどの赤気を纏うギールの身体能力はさぞ向上しているに違いない。
仮にギールの攻撃を完璧に躱し、その隙に最速で攻撃したとしても余裕で防御されるぐらいには。
「……残念だよ。君がもしスキルに恵まれていたなら、もっと面白い勝負ができただろうに」
「それは違いますよ。ギール先輩」
「……何がだい?」
──確かに俺が【剣士】だったとしたら、この状況は限りなく詰みだっただろう。……でも、そうじゃない。
「俺が【剣士】ではなく【付与魔法師】だから……今から先輩は負けるんです」
ギールにはそれが諦めの悪い虚勢にでも見えただろうか。
ギールはパチクリと目を瞬かせると、やれやれと言った風に首を振った。
「そんな生意気なことを言う後輩には、先輩として教えてあげなきゃいけないか……」
ぐぐぐッとギールが前傾姿勢を取る。
「……身の程ってやつをね!!!」
ギールの足元が大きく抉れた。
ギールはそのエネルギーを余す事なくスピードに変え、矢のような速度でグレイに肉薄する。
「属性付与」
本日七本目の氷剣をグレイは構える。
その目は怖い程冷静に、ギールの突進を見据えていた。
「フレアガルド流────」
その時グレイに変化が起こる。
ギールに対抗するために纏っていた赤気が、冷たさを感じさせる青色へと変色したのだ。
それを見てギールの目が驚愕に見開かれる。
しかし、関係ないとばかりに一層強く地を蹴った。
突進してくるギールの攻撃に合わせ、グレイは身体を捻る。
ここまでの戦いで散々ギールの太刀筋を見たグレイは、その攻撃を完璧に見切り、スレスレでの回避を成功させた。
しかし、ギールにとって回避されることは想定済みであった。
ギールは思わずその端正な顔で落胆を表現する。
──……正直、少し期待していた。こんなに僕を熱くさせてくれる君ならまた何かやってくれるんじゃないかって。……でもやっぱりダメか。斬撃を避けたのは確かに見事だけど、その体勢から爆発を避けることはできない。……これで終わりだね。
ギールの剣はついに地面に接触する。
ギールの手が感じたのは、硬い地面の感触と、その後に起こる爆発……ではなかった。
ズプッ
まるで豆腐でも切るかのように、刀身が地面に埋没したのだ。
その不可解な現象に、ギールの頭を疑問符が駆け巡る。
「蒼の参──」
その言葉が思考に埋れかけたギールを引き戻す。
不意にグレイと目があった。
ゾクっとした寒気が顔を覗かせる。
それはまるで、目の前の【付与魔法師】に怯えているかのように。
そんなギールの心情とは裏腹に、地中に埋まった焔剣は輝きを放った。
くぐもった爆音と共に地面が盛り上がる。
穴から噴き出した爆炎、爆風はのしかかった地面により緩和され、グレイの残りの耐久値を削り飛ばすには至らない。
もはや視界の端で弾ける赤色の燐光すら、グレイには見えていなかった。
「【蒼輪】」
それは、自身の身体を独楽のように回転させて相手の攻撃を受け流し、その勢いを利用した反撃技。
グレイは歯を食いしばって爆発を受け流し、その勢いで身体を回転させる。
その斬撃は爆風に乗り、グレイの限界を超えて加速する────。
「甘いッッ!!」
確かにグレイの斬撃は至高の一撃であるが、大幅に身体能力が強化されているギールならギリギリ防御の間に合うタイミングであった。
ギールは地面に埋れた剣を素早く引き戻そうとする。
しかし、何故か剣が地面と引っ付いており、一瞬引き戻すのが遅れた。
この刹那の攻防に置いて、その一瞬は途方もなく致命的だった。
「ハアァァァァッッッ!!!!!!」
グレイの一閃がギールへと振り下ろされる。
防ぐ術を持たぬギールは、声を発さず、静かにその一撃を受けた。
ギールは仰向けに吹き飛ばされる。
そして、その身体から湧き出るように白色の燐光が浮かび、小さく弾けた。
《戦闘衣》の耐久値が無くなった事の証明である。
「そこまで!!予選第一試合、勝者はグレイ・フレアガルド!!!」
審判の張り上げた声は、静寂に満ちた【決闘場】にとてもクリアに響き渡った。
グレイは静かに拳を掲げる。
直後、【決闘場】は地鳴りのような大歓声に包まれた。
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