付与魔法師は挑発にのる
キィッという金属が擦れる音を警備の男は聞いた。
音の出所を探ろうと視線が動くが、そこには何もない。
ややあって、それは己の目線よりも下から聞こえたのだと気づいた。
「誰かの応援に来たのかい?お嬢ちゃん」
【学内選抜戦】の開催中は学外の親族や友人らの観戦、応援が認められている。
眼前にいる車椅子の少女もその類であろうと、男は考えた。
「はい!」
少女は男を見上げてはにかみながら元気よく答えると、自身の頭を指差しながら言葉を続けた。
「私と同じような髪をした人を知りませんか?同じと言っても配色は正反対なのですけど」
そう言われ、警備の男は少女の髪を見やる。
頭頂部から縦に線を引くように左が黒色と右が灰色に分かれており、なるほど特徴的であった。
しかし、うーんと呻るような声を上げると、警備の男は頭を振る。
「残念だが、私は知らないなぁ」
「そうですか……」
一瞬俯いた少女だったが、すぐに顔を上げ、
「一番近い【決闘場】はどこですか?」
「それなら第一決闘場だね」
警備の男は入り口からでも見える施設を指差す。
ありがとうございます、と答えて少女はその場を去ろうとするが、その様子を見て良心が咎めたのか警備の男は、車椅子の持ち手を持った。
「あ、ありがとうございます」
「気にしなくてもいいよ。他にも警備員はいるからね。私が抜けても問題ない」
どこか照れたように振り返る少女に対し、警備の男はひらひらと手を振る。
そして、ふと思いついたように口を開いた。
「そういえば、お嬢ちゃんの探し人の名前はなんて言うんだい?」
「名前ですか?えっと……名前はグレイ・フレアガルド。……私の兄です」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
グレイは自分から見て左側、己の名前と同じ色をした髪をかいた。
焦燥、恐怖、高揚……あらゆる感情が混じり合い、汗となって頰を伝う。
涼しげな笑みを浮かべたギールとの睨み合いは、長く続かなかった。
ゴウッ──
地面を破るほどの脚力を爆発させたギールは、一陣の風を纏いグレイに肉薄する。
「ッッッ!?」
唸りを上げながら迫り来る刃をグレイは紙一重で回避した。
しかしすぐに二の太刀、三の太刀がグレイを襲う。
──このままじゃいつか喰らってしまう……ッッ!
紙一重で銀閃を避け続けるグレイは、ギールの剣が地面を叩いた隙を見逃さず、ギールの腹に蹴りを入れその反動で距離を取った。
「はぁ……はぁ……」
息つく間もない連撃に肩で大きく息を吐くグレイに対し、ギールのにこやかな笑みは崩れない。
興味深そうにその目を細めた。
「……すごいね、君。まさか武器なしで今のを凌がれるとは思わなかった。しかも反撃までするなんて……やっぱり君は面白いね」
でもさ、
ぴくりとも表情を変えず【紅帝】は続ける。
その程度なら僕には勝てないよ?
再びギールの足元が爆ぜた。
グレイを打ち砕かんと、頭上から斬撃が迫り来る。
グレイは振り下ろされる刃を睨みつけた。
「属性付与」
ガィィィンッ──
ギールの剣は目的を達することなくグレイの眼前で静止する。
グレイが掲げる一振りの剣によって。
「その程度だと?」
ギリッと歯が擦れる音が脳髄に響いた。
安い挑発だと思う。
だが無視するわけにはいかない。
それは、グレイが最も言われてはいけない言葉だから。
こめかみに青筋を浮かべ、瞳をギラつかせながらグレイは言葉を吐き出す。
「へし折ってやる」
その余裕も。
所詮付与魔法師だと舐めた心も。
傲慢とすら言えるほどに勝利を疑わないその自信も全部まとめて。
攻撃が防がれた驚きのせいか、力の弱まった剣をグレイは乱暴に弾き飛ばす。
グレイの身体の周りには、薄らと赤い気が揺らめいていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「お、あの子じゃないかい?お嬢ちゃんの探してるのは」
車椅子の少女と警備の男が第一決闘場に到着すると、男の方がバトルフィールドを指差して言う。
頭上から降ってきた声に、少女はバトルフィールドを見やるが、観客の頭や背中に覆われてよく見えなかった。
「おっと、ここじゃ見づらいね」
ごめんよ、と言いながら男は車椅子を押して人垣の割れ目に車椅子を止める。
これで見やすくなったと、礼を述べながら改めて少女がバトルフィールドを見ると、そこいたのはまさしく探していた兄の姿であった。
どうやらフィールドに残っているのは二人だけのようだ。
兄から視線を外し、対戦相手を見ると、少女の形のいい眉が歪む。
構え、体捌き、そして何よりその身に纏う赤気。
何人もの剣士を見てきた少女は、対戦相手が紛れもない強者であると判断した。
「危ないッ!!」
眼で追うのが困難なほどの踏み込みで兄に接近した相手は、その勢いをさらに増す速度で刃を振り下ろす。
反射的にグレイは手を突き出すが、無手ではどうしようも無い。
警備の男がその様を見て焦ったように声を上げる。
まあ無理もない。少女だって、兄の異能を知らなければ同じ感想を抱いたであろう。
ガィィィンッ──
いつの間にかその手に握られていた透明な剣で攻撃を防いだ兄を見て、少女は頰を緩ませる。
「……当たり前だよね。私達は、こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだから」
──頑張って……勝て、お兄ちゃん。
面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマーク・感想・評価をお願いします!




