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付与魔法師は売られた喧嘩を買う

桜の舞う季節になった。


無事高等部へ進学した俺は、希望通り【戦闘科】へと進んだ。

なんの因果か、全十クラスもあるのにブルーとは同じクラスとなった。


「もう、あんた高校生になったんだからもうちょっとシャキッとしなさいよ」


「……はぁふ。こんな朝っぱらからシャキッとなんかできるか。おかんみたいなこと言うな」


「誰がおかんよ」


中等部時代からお世話になっている寮を出て、待っていたブルーと一緒に学園の門を通る。

今までとなんら変わらない光景だ。違いがあるとすれば、校舎の場所ぐらい。


本日は入学式のため、校舎ではなく講堂に直行する。

新入生三百人弱が余裕で入れるほどの大きな場所だ。

前方はすでに埋まっており、席なんてどこでも良かったので一番後ろの出入り口付近の席に適当に座った。


「俺に構わずもっと前の方に座ってもいいんだぞ?」


「別に話が聞こえるならどこでもいいわ」


「そうか?ならいいけど」


付き合わせてしまったかと、隣は腰を下ろしたブルーに問いかけるが、ブルーはどうでも良さげにひらひらと手を振る。

優等生気質な幼馴染であれば、もっと話を聞きやすそうな場所を好むかと思ったが、気にし過ぎだったらしい。


式はさしたる問題もなく進行した。

強いて印象に残った場面をあげるとすれば、生徒会長の挨拶だろうか。


金色の長髪を下ろしたその女性は、身の丈ほどもある長刀を腰に刺しながらも、立ち姿は美しく、華奢な体格にも関わらず鍛え上げられていることが窺えた。


「新入生の皆さん。初めまして、私はセリカ・クレイスタット。フリーゲル騎士学園の現生徒会長として、在校生を代表しご挨拶させていただきます」


その身に纏う覇気は本物だ。

隣からごくりと生唾を飲み込む音が聞こえる。

見ると、ブルーのこめかみを一筋の汗が伝い、緊張していることがわかる。


「あれが()()()()、《金剣の戦姫》セリカ・クレイスタット……。凄まじいわね」


そう言うブルーも天才と呼ばれる剣士の一人だ。

そのブルーが見ただけでここまで気圧されるなんて、セリカの底が計り知れない。


「ああ、だがビビってばかりじゃいられない。俺もお前も、あの人に負けるわけには────」


目があった。


こんな広い空間で、ブルーと話している声なんて聞こえるわけがない。

にも関わらず、その金色の双眸は確かに俺たちを捉えた。


「それと最後に、」


セリカは一つ言葉を区切り、壇上から全体を見渡す。


「学園は優秀な騎士を欲しています。皆さんは存分に自身の力を磨き、強くなってください。私達を脅かす騎士を心待ちにしています」


セリカが一歩マイクから離れると、どこからともなく拍手の音が鳴り、それは次第に大きくなりやがて喝采となった。

俺とブルーも変に思われない程度に手を叩く。

セリカが壇上から降りてもなお、目があった時に感じた緊張と、鼓動を早める高揚感が身体には残っていた。


式が終わると、担任に連れられそれぞれの所属クラスへと移動する。


教室内に入り、各自が決められた席に着席するのを見届けると、教壇に立つ教師が口を開く。


「はぁい、みんな座りましたねぇ?じゃあじゃあ、早速ですけど自己紹介するのですよ!わたしはアルル・コルン。これでもそこそこ有名な凄腕魔法使いなのですよ!」


えっへんと胸を張る推定1()4()0()c()m()のアルル先生……通称アルちゃん先生。


内部進学組は彼女のことを知っている。

アルちゃん先生は高等部の先生ではあるが、中等部でも有名だった。


何故なら彼女は数多くの逸話を残しているからだ。


「え、こども?」


静かだった教室にその一言はやたらとクリアに響いた。

外部からやってきた者だろうか。

周囲の反応から彼は己の失策を悟り、咄嗟に口を覆ったが、一度出た言葉はなかったことにならない。


「あぁぁん??いまァ、なんつったテメェ?」


いや誰だよ。

とツッコミを入れたくなるほどの豹変っぷりを見せ、般若の形相を浮かべながら失言した生徒の元へとアルちゃん先生が歩いていく。

目が合ったら殺られると、誰もが横を通るアルちゃん先生から目をそらす。

やがて生徒の元までたどり着くと、机に拳を振り下ろした。


ドガッシャーンッッ!!!


その小さな身体のどこにそんなパワーがあるのか。

真っ二つになった机を踏みつけながら、アルちゃん先生はドスの効いた声で、


「テメェの下半身消し飛ばして、あたしより身長低くしてやろうか?ああ?」


アルちゃん先生が生徒の胸ぐらを掴むが、生徒は反応を返さない。

よく見ると泡を吹いて気絶していた。

チッと舌打ちして、生徒を放り捨てる。


「皆さんはぁ、長生きしたければ余計なことは言わないように!お口チャックチャックですよぉ〜!!」


俺たちには、コクコクと必死に頷く以外選択肢が残されていなかった。


「では、わたしの自己紹介も済んだので、皆さんにも自己紹介をお願いするのですよ!」


先ほどの剣幕は何処へやら。

すっかり元に戻ったアルちゃん先生の指示で、前から順番に自己紹介していく。

やはり【戦闘科】だけあって、剣術や槍術と言った武芸に長けた者や炎魔法などの攻撃魔法の使い手ばかりだ。


やがて、俺の番が回ってきた。

ここまでの流れからして、名前、スキル、一言って感じだったので、俺もそれに倣う。


「えーはじめまして。俺はグレイ・フレアガルド。スキルは付与魔法です。これからよろしく」


俺が軽く礼をするが、パチパチと拍手したのはブルーだけだった。


フレアガルドの名前に驚いているのだろうか。

まあうちの名前は結構有名だから、そう言うこともあるのかもしれない。────まあ、絶対違うだろうけど。


「はぁ?なんで付与魔法師なんていう雑魚がここにいんの?」


それは、口こそ悪いもののこの場にいる全員が思っていたことだろう。

そして、()()()()()()()()()()()、かなり理想的と言っていいシチュエーションだった。

思わず口元に笑みが浮かぶのを堪え、発言をしたやつの方を向く。

発言の主は、人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべ、いかにも柄の悪そうな金髪の男だった。


「おい金髪。今なんて言った?」


「雑魚っつったんだよ雑・魚!あと俺の名前は金髪じゃねえ!グラード・ヘンリルって歴とした名前があんだよ!」


「なら金髪。お前は俺に勝てると?」


「人の話聞けやこら。んなの余裕に決まってんだろ。瞬殺だんなもん」


「そうか……」


俺は、チラッとアルちゃん先生に目をやる。

その意味を図りかねたのか、コテっと首を傾げるアルちゃん先生から視線を外し、金髪もといグラードをビシッと指さす。


「俺はお前に《決闘》を申し込む」



お前は金髪でも、ましてやグラードでもない。今日からお前の名は────当て馬だ。


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