恋人がころころ変わる俺だが、もう一度高校生活を送る羽目になった。一体どうすればいい?
「お前が好きだからだ」
――何言っているんだろ、俺。
桜が舞い散る中、雰囲気がたっぷりな状況で、俺は告白していた。
「本当ですか?」
目の前にいる少女は確か、後輩の子だったはずだ。
「ああ」
「先輩、私のこと、本当に好きですか?」
「好きじゃなかったら、告白なんかしないだろ」
――いや、俺は別に後輩としか思ってない。
何故か甘酸っぱい雰囲気が漂う中、俺は内心自分に突っ込んだ。
可愛い子だとは思う。よくできた子だなと思う。
だが、それだけなのだ。
俺自身は、彼女のことを『後輩』としか思っていなかった。
「だから、俺と――」
いやいや待て待て。それ以上言うな。
「付き合ってくれ」
言ってしまった。
が、そこで俺の意識は暗転した。
――?
何が起きたか分からない。
「俺と付き合ってくれませんか」
今度は別の子に対して告白していた。
おいおい。
頭を抱えたくなった。
「少年。それはどういう……?」
何だよ、『少年』って。せめて名字で呼んでくれ。
目の前にいる、ベンチに腰掛ける綺麗な人は確か、
学校でも有名な『才色兼備なお嬢様』として有名な、先輩だった筈。
図書館が見える木漏れ日の公園に、青春たっぷりな雰囲気で、
俺は震えながら、先輩に言っていた。
先輩は本を読んでいた。
おい、せめて本を読んでいないタイミングを狙えよ、俺。
迷惑すぎるだろ。
「先輩のこと好きだったんです」
「初耳だ」
俺もだよ。
「先輩にどうしても言いたくて」
いや、だから迷惑を、
「すみません、少しでいいんです。俺のこと、意識してください」
迷惑と言う意味では十分意識できるよ、俺。
「ふふ」
不意に本を閉じる先輩。実に楽しそうに。
「君は面白い子だね」
不愉快の間違いじゃないのかな。
「そんな君に伝えたいことがあるんだ」
言いながら、ベンチに座る先輩が俺を見上げる。
その瞳に宿る熱を見て、俺は内心顔を引き攣らせる。
「ボクも君のことが――」
いや、先輩待ってください。俺は別に、先輩のこと、
また意識が暗転する。
「いつか絶対あたしのこと好きって言わせるからね!」
今度は幼馴染に告白され、
「貴方のことはまだ、生徒としか思えない」
犯罪では?と思いたくなるような、美人な教師に切ない眼差しを向けられる。
そして、
「今日から高校生か……」
新鮮味が欠けた入学式の看板を見て、内心げんなりした。
――またかと思った。
げんなりしていた。顔には一ミリも出ないけど。
俺は入学式から三年の卒業式までを延々と続けている。
比喩でも妄想でも空想でもなく。
何回もだ。何十回もだ。
その度に付き合う相手は変わる。
幼馴染に、先輩に、後輩に、教師まで。
ラインナップの豪華さよ。しかも全員、タイプは違うが美人ばっかり。
そんなリア充もびっくりな俺は、ごくごく平凡な顔をしている。
――筈だ。
何回も高校生活を送る中、俺は幾度となく、鏡で自分の顔を見た。
寝癖も分かる。髪形も分かる。口元も分かる。
だけど、顔の半分が分からない。
顔の上半分がどうやっても見えないのだ。
見る必要がないと言わんばかりに。
どう目を凝らしても、鏡で顔全体を把握できないのだ。
しかも、気付いたのは高校生活4回目の時だった。
確かあの時。先輩に付き纏って――もとい先輩のことを探して、先輩の視界に入ろうとしていた。
ストーカーギリギリの線で、先輩の顔が図書館の窓際に見えて、
先輩に会いに行こうとして、
窓に映る自分の姿を見て、違和感を覚えた。
顔が分からない。
その途端、目の端に見える生徒の顔が映る。
それら一切、顔が全くなく。
まるでのっぺらぼうが昼間から高校生活が送っているような、
得体の知れない恐怖心が一気にせりあがってきた。
なぜ今まで気が付かなかったのか。
だけど、俺の恐怖心なんかお構いなしで、
俺自身は図書館にいる先輩目掛けて走っていく。
どうしてだろうか、さっきまであんなに先輩が好きだったのに。
と言うかよく考えれば、先輩の前には好きになった相手が、
幼馴染とか後輩とか教師とか。
そんな好きな人を恋人にしておいて、
今度は先輩に恋人になってもらおうとしている。
「先輩!」
迷惑にも程があるような大声で、図書館の中に駆け込んだ。
「こら、少年。ここは図書館だ。静かにしろ」
言いながらも、どこか嬉しそうに目を細める先輩に、
俺は、吐き気がした。
数日後、俺は先輩の恋人になった。
直後、俺の意識は暗転する。
――ここまで言って、羨ましいとかいう奴もきっと中に入るだろう。
だが、俺の高校生活は常に薔薇色だったわけじゃない。
「すまない、君のことは後輩としか思えない」
「先生を揶揄うのはよしなさい」
「私達ずっと幼馴染だよね」
「ごめんなさい、先輩。先輩の気持ちには応えられません」
そんな感じで美人たちから振られることもある。
振られるような言葉ばかりを選んでしまい、結果的に破局、受け入れてもらえない。
そんな『結末』を辿る。
だけど、振られるのは別段構わない。
いや、何度も振られると心の傷になるが、そんなことは些細なものだ。
たまに、いや、時々、下校途中で事故に遭って、意識を失うケースだってあった。
多分、死んだ。
なのに、その事故の直前に意識を取り戻す。
その後、事故に遭う道とは反対方向の道を何故か選ぶ。
すると、あら不思議。
死なないで自宅に帰れるのだ。
頻度は少ないまでも、何回もそんなことを経験すれば、
誰だって違和感は膨れ上がるものだ。
俺の意思とは無関係に動く体。
恋人になった直前に、暗転する意識。
誰と恋人になっても咎められない世界。
正しい言葉を言えば、必ず好きになってくれる女性たち。
あまりにご都合主義もいいところ。
しかも、距離を縮めるにつれて明らかになる、女性たちの心の闇。
「実は私、」
「こんなこと言ったら軽蔑されるかもだけど」
「困ったな、こんなこと言うつもりなかったのに」
「どうして貴方にはカッコ悪いところばかりに見られちゃうの」
いや、高校生の身分で明かされると重いにも程がある。
というか、そんな過去よく誰にも知れなかったな!?と、
思わず突っ込みたくなるような、女性たちの嘆きの声。
それを俺は受け止めて、俺の精一杯で女性たちを支える。
高校生の分際でよくそんな事実受け止められるな。
俺には無理だわ。
他人事のように、俺は俺の真摯な態度を半ば呆れて見ている。
かっこいいかもしれないが、そんな闇を真正面から受け止めていたら、
一緒になって沈んでいきそうだ。
実際、誰だか忘れたが監禁されたこともあったし。
――話が逸れてしまった。
そんな感じで、何度も高校生活を送る俺。
恐怖心をだいぶ薄れていった。――感覚が麻痺しただけかもしれないが。
俺は俺の意思とは無関係に動く体に動かされる中。
目に映る全てを注意深く観察した。
相手の言動行動も、自分の行動も、勿論その辺の生徒全ても。
全部全部確認した。
何度も、何度もだ。いろんな仮説が浮かんでは消えていく。
確証はなくて、仕方がないから、
高校生活を送っていた。
その度に恋人になったり、振られたり、事故に遭ったり、
一度きりの高校生活は濃すぎるものになっていく。
そんな時だった。
入学式。道に迷った俺を誰かが呼び止めた。
「君の名前は?」
答えようとして、違和感が募る。
一旦、声が止まって、誰も彼も止まっていて、
「『 』」
「いい名前だね」
声に乗らない名前を、相手は褒めてくれる。
自分も知らない、自分の名前。
――ああ、そうか。
唐突に気が付いた。
さて、問題だ。
俺の名前はなんていう名前だと思う?
知らないって言ったのか? それとも名前を口に出してくれたのか?
というか、俺が誰に向かって話しかけているか。
気付いてるか?
――お前だよ、お前。
多分画面越しにいるんだろ。
――プレイヤー。
俺さ、最初この世界、ギャルゲーじゃないかと思ったよ。
だって、こんな俺の周囲ばかり美人ばっかりで、
こんな高嶺の花もいいところの女性陣たちが、
簡単に俺を好きになってくれる。
そんで、俺はどこぞで事故に遭って転生した拍子に、
記憶を失った転生者かと思ったんだよ。
だけどさ、それだと違和感が残るんだよ。
タイムリープだとしても、こんなことが記憶に残っているのに、
当の俺の本体は全く動揺しないし、驚かない。
それどころか、自然に展開に身を任せては、女性陣の元へと突っ走っていく。
いくら美人が好きになってくれるからって、そう何度も繰り返していたら、
神経擦り切れるどころか、発狂してしまう。
なのに、俺はどうともならない。
ひたすら飽きるほどの高校生活をエンジョイしていく。
あと、女性陣が時々、カメラでも見ているのか?と言うぐらい、
視線が、仕草や、態度が固定化されてしまう。
やけにその時は鮮明に女性陣が何割り増しかで可愛く、綺麗に見えてしまう。
多分、これイベントCG――俗にいうところの『スチル』って奴だろ?
ベタなハプニングも起こる。多分『イベント発生』の為に。
あと、お前、わざと選択肢間違えただろ。
俺でも『ひでえ』と言いたくなるぐらいの言葉選び。
その先に待っている失恋END。もしくはバットエンド。
シナリオコンプでも狙っているのか。こっちがどんだけ大変かも知らないで。
――あと、何度もセーブデータをロードして、各ENDの直前から見直していただろ。
じゃないと、いちいち意識が飛んで、別の恋人に愛の告白なんてできないだろ。
そして、俺の名前は多分お前、お前の名前もしくはお前が名付け親になっている。だから、俺の名前は誰の声にも乗らないし、聞こえない。
声優が収録していない名前が俺達の『声』にならない。
当然の成り行きだ。
――で?
なんで俺が意思なんか持っているように、お前に話しかけてるか。
気になるよな?
それはだな――俺にも分からん。
分かるわけないんだよ。俺は多分主人公と言うキャラクターであり、お前らの分身でもある。お前らの意思に反した行動は正直全くできない。
どこぞの本物の転生ものだったら、行けるかもしれんが。
俺はあくまで主人公だ。
お前に従うしかない。
だからこそ、あえて聞くが、お前はどうしたい?
この高校生活、見飽きたか?
それとも、まだプレイし足りないか?
どっちだって構わない。とことん付き合ってやる。
俺は『主人公』だからな。
「どうしたの、こんなところで」
ああ、噂をすれば、最初の美人が。
「新入生かな? 君の名前は?」
――俺の名前は?
――選択肢が表示されました。
→答える。
無視する。
「お前はどうしたい?」
俺は画面越しのお前に向かって問いかけた。
ゲームしていると、この主人公、たまに選択肢ミス知っているんじゃないの?と言うぐらいBATEND回避を成功させたり(単に私が選択肢を正しい方選んでるだけ)、セーブデータをロードすると、何度も同じ道筋を辿っているのに主人公飽きないのかな?と思ったりします。
これは私の空想を具現化した、実験感覚で試しに書いた小説です。
少しでも驚いたり、楽しんで頂けたら幸いです。