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71  弟みたいな存在?

「お集まりいただき、ありがとうございます。今回の依頼、調査内容ですが、最近噂になっている古龍が本当に現れたのか、もし現れているなら王都に危険は及ばないか、()()()()()()を調査していただきたいのです。道中、高ランクの魔物との遭遇も予測できます。さらに先日報告がありましたが、山の麓にて魔王軍幹部が一人の蛇女(ラミア)も現れています。他に何があるか分からない以上、最大限の警戒の元調査をしてください。くれぐれも気をつけてください」


 集まった冒険者は僕含めて十数人。

 各々がパーティーを組むなり、元々の仲間なりで部屋を後にしていったが、もちろん僕は一人取り残された。


「まだ”ウッド”だもんな……」


 ただでさえ危険なのに、足手纏いのお荷物なんて抱えたくない。

 分かっていた、分かりきっていたけど、こうも実力至上主義の冒険者の現実を突きつけられると流石に辛い。




        ※




 冒険者の皆さんが早々に部屋を出ていく中、クリス君だけが取り残されているのを見て、私は無意識に胸を撫で下ろした。

 部屋にクリス君が入ってきた時は肝が冷えたけど、この様子なら辞退してくれるかな。

 そんな中、彼の方から声をかけてきた。


「すみません、僕この前冒険者登録をした者なんですけど」

「はい、クリス君ですよね。クエストのキャンセルですか?」


 実はってほどでもないけど、私はクリス君が辞退してくれるよう願って先の話をした。

 盛っているわけではないし、そもそもカッパー等級の人にそんな口車は効きはしない。


 でも、まだ最低等級のクリス君なら分からない。

 心配が故に怖気付かせたかった。

 そんな願いが叶ったと思った私は、嬉々としてクリス君の質問に耳を貸した。


 しかし——


「いえ、依頼クエストには参加しますよ?」

「…………えっ?」


 私の口から声が漏れた。

 ウッドでもパーティーを組むならまだしも、ソロじゃ間違いなく死んでしまう。

 あそこは現在、不確定要素の塊でどんな危険があるかも分からないのに……。


「僕は少しでも生存率を上げる為に、アドバイスをもらいにきたんですよ。死ぬつもりはありませんから」


 露骨に私の顔に不安の色が出ていたのか、クリス君は微笑んだ。

 きっと何を言っても、この子は行くんだろうな。

 騎士団上がりの冒険者、大損害を負った玄武の元騎士。

 そして今は自由職とも呼ばれる冒険者……か。


「分かったわ。ちょっとだけ待っててもらえる?」




        ※




 数分後、受付のお姉さんが戻ってきた時にはすごい数の資料を抱えていた。


「も、持ちますよ!」

「ありがとね」


 僕はお姉さんが抱えていた大量の資料を受け取り、机の上に置く。

 一息ついてすぐ、次の大きな木箱も受け取り、それも机の上に置いた。

 バケツリレーの要領で次々に運ばれてくるそれらを、机の上に並べていった。


「これで全部ですか?」

「はい、そうですよ」


 山のように積まれた資料と、木箱の数々を目の前にした僕は少しだけ怖気付く。

 しかし、そんなことお構いなしに受付のお姉さんの話が始まった。


「まずですね、あの山にはたくさんの魔物がいて・・・・・」






 受付のお姉さんの話は数時間にも及んだ。


 おかげで今僕が相手にしてもいい魔物、危険生物、食べられる生物など生物に関する知識を全て徹底てきに叩き込まれた。

 また、危険な洞窟の存在や悪天候時などの対処など、これから起こりうる全ての危険も教えてくれた。


「・・・・・です。では、他に質問はありますか?」

「な、ないです」


 ありがたいけど、こんなに長引くをは思わなかった。

 そこまで心配されていると、僕のちっぽけな男の自尊心がさ。

 調査に行く前から僕の顔はやつれていた。


「最後にギルドからこれらを貸し出します。お代は結構ですので」


 受付のお姉さんはそう言うと、木箱の中にあった道具を貸し出してくれた。


 予備武具の類に、鎖帷子(くさびかたびら)と節々のプロテクター。

 そして、下位のポーションを5本。

 値段にしたら相当な額を、無償で貸してくれたのだ。


「こんなにいいんですか!?」


 僕が驚きの声を上げる中、お姉さんは声のトーンを少し落とした。


「冒険者の皆さんって、いきなり、突然亡くなってしまうんです。昨日笑っていた人が朝には亡くなっていたり、今さっき別れたばかりで亡くなってしまったり……。赤の他人でも、顔見知りが、私の担当した依頼で亡くなったら悲しいんです。だから、お願いです。必ず帰ってきてくださいね」

「……は、はい」


 僕は黙々と装備をつけ、生きて戻るということを静かに誓う。


「では、行ってきますね」

「あっ、ちょっと待ってください!」

「な、なんですか?」

「私の名前、ミーナって言うんです。帰ってきたら、ちゃんと顔を見せてくださいね。もしなんかあったら、気軽に相談しにきてください」

「わかりました。行ってきますね、ミーナさん!」


 微笑むミーナさんに笑顔で返事をし、僕は飛び出すようにギルドを出た。




        ※




「ミーナ、もしかしてあの子に惚れてるのかにゃ?」

「ハ、ハアッ!?」


 突然かかった声に私は声を荒げる。

 視線の先には、扉からひょっこりと顔だけ出している同僚のイムネアがいた。


「だってさ、あんなに過保護にしているミーナ見たことないもん」

「それは! ……イムネアがサーポートしろって言ったんじゃない」


 イムネアのニヤケは止まらない。


「じゃあ、なんで名前教えたの? 言わなくたって、ここに来れば会えるのに」

「いや、それは……」

「自分が指名してもらえるように?」

「だああぁぁっ!」


 私はバタバタ手を動かし、それ以上言わせまいとばかりに声を出す。

 しかし、イムネアは止まらない。


「しかもさ、最後に名前呼ばれたとき顔赤くしていたでしょ? ま、今もだけど」

「見てたの!? …………うぅ」


 イムネアの追い討ちで私の目には涙がたまり、両手で赤くなっている顔を覆った。


「ごめんごめん。少しだけ、ほんの少しだけ言いすぎたかも」

「はぁ、少しじゃないわよ!」


 この後に及んで、まだからかい続けるイムネアに声を荒げる。

 そんな私を見て、真面目な感じでイムネアは話しかけてきた。


「で、なんでそんなに過保護になるの?」

「……心配、というか頑張っているから?」

「なんでそこ疑問形なのよ。しかも、冒険者をやっている人たちはみんな頑張っているじゃない」

「違うんだよ。なんていうかさ、あの子は魔王幹部戦の実態を知っている。無くなっている右腕だって、魔物か何かによって負わされている。そんなに恐怖を植え付けられていて、それでも頑張って立ち向かっている感じがさ……」

「ふーん。ま、私は応援するよー。頑張ってね」

「そういうんじゃないんだってば」


 イムネアはささっと姿を消していた。


 放っておけないというか、弟がいたらあんな感じなんだろうなって思うだけなんだけどな。

 私は去り際にクリス君が自分の名前を呼んでくれたことを思い出し、再び顔を赤く染め上げた。

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