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68  仮病と罰

「おはようございます、ルキ様!」


 翌朝、体調不良だったツキは回復したみたいで、元気になって早々に寝不足の俺に抱きついてきた。


「う、うん……おはよ…………」

「ん? ルキ様どうしたんですか? 私のルキ様の可愛いお顔がやつれていますよ?」


 髪はボサボサで、目の下にはくまがくっきりと浮かび上がっている俺の顔に、ツキはそっと手を添えた。


「……ちょっと、ね」


 一日くらい寝られなかったとしても何ともない。

 というか、3徹くらいならできる俺がこうなった理由は主に2つある。


 一つは言わずもがな、羞恥心に押し潰されて寝付けなかったからだ。

 ブティーの吸血によって気分が高まって、落ち着かなかった。


 そしてもう一つ、夜中に寝返りを打ったツキが俺を抱き枕のように扱ってきたからだ。

 ゴーの村でも同じような事をされたことはあるから、初めての経験ではない。

 しかし先に挙げたブティーの吸血によって完璧に覚めてしまった全身の感覚の元、寝つくことなんてできなかった。

 それに、以前よりも成長した胸にちょうど俺の顔が押し当てられていたのだ。 

 起こすこともできずひたすら耐え続けた俺は、ようやく朝を迎えて——今に至る。


 役得だからいいじゃんんって?

 そうとも、役得だとも! いいもん、寝れないくらいなんだ。

 おっぱいで窒息なんて、世の童貞の夢ではないか!


「今日は看病のお礼も込めて、私がおんぶしてあげましょうか?」


 ツキは口の端をニィッと吊り上げ、イタズラな笑みを浮かべている。

 事情を知らないお子様は呑気なもんだな。

 俺は力無い腕をプルプルと持ち上げツキの肩に手を置き、確認の意を込めて口を開いた。


「おんぶされるのはツキだぞ」

「むぅー」


 なんだこの可愛い生き物はっ。

 ツキはあざとくも頰をハムスターのように膨らませ俺を睨んでいる。

 いかん。

 このままではツキに主導権が渡ってしまう。


「ツ、ツキが大丈夫ならゴーも大丈夫だね」

「ん? ゴリラならそこで泡吹きながら寝てますよ?」




 ・・・・・・・・・・は?




 ツキが指差す先、そこには焚き火の傍で口から泡を拭いて寝ているゴーの姿があった。


「また気絶したの!? は、なんで?」


 もしかして、一酸化中毒的なやつ?

 わかんないんだけど。

 というか、そんなんになるまで火の傍で寝るか?


「ん〜、どうしたのじゃ?」


 俺がいきなり大声を出したせいか、ブティーは目を擦りながら声を起き上がった。


「ご、ごめん、起こしちゃって」

「大丈夫じゃよ。で、どうしたのじゃ?」

「ゴーが気絶? 泡吹いて倒れてんだよ!」

「ゴーがかの? ふっ」


 いや、何鼻で笑ってんの?

 その反応はおかしくないか?

 ってか、昨晩はあんなにピンピンしていたのに……。

 あんなんでも病み上がりだったんだし、もっと優しくすればよかったかも。

 地べたじゃなくてベッドで寝かせればよかったかも。


「ルキ様、この前の水魔法出せますか?」


 俺が慌てふためく中、ツキの冷静で冷たい声が俺の耳に届いた。


「出せるけど、今?」

「はい。今です」


 ツキは両手をお皿のようにして水を求めた。


「じゃあ、はい湧水(アキュエラ ー)。……そんなに喉乾いたの?」

「いえ、違いますよ。ルキ様に、私の大好きなルキ様に心配をかけた愚か者に対して罰を執行するだけです」

「えっ?」


 ツキは両手いっぱいに水を入れたままベッドから降り、睡るゴーの元に向かった。

 少しだけ不気味な雰囲気を醸し出すそんなツキに、俺は質問を投げる。


「罰って何? 何すんの?」

「何って、鼻に流し込むだけですよ」


 ツキは振り向きニコッと微笑んだ。

 その満面の笑みを見た俺は、無意識に両手で自分の鼻を抑える。


「な、なんで? 病み上がりかもしれないし……。本気じゃないんだよね?」

「愚問ですよルキ様。やるに決まっているじゃないですか。このゴリラ、どんだけ私を馬鹿にしているか考えてください」

「いや、馬鹿にはしていないと思うけど」


 ツキは俺の言葉には耳を貸さず、生成した水をゴーの口を押さえながら鼻に流し込んだ。

 その瞬間——…




「グウェッ……ごほっごほっ……!? な、何するんですか姉御!」




 ゴーは普通に目を覚ました。

 いや、普通ではないけど。

 無事……でもないけど、とにかく涙目になって目を覚ました。


「ルキ様、このゴリラは仮病ですよ」


 ブティーはクスクスと笑っていて、ツキは怒り心頭の様子。

 どうやら俺だけがテンパっていたみたい。


 はぁ。そうか、仮病か。

 ふーん。

 心配して損したなー。

 罰がぬるいなー。


 俺はその後、何も言わずにゴーを影の手(シャドウハンド)で縛り上げ、数十分間くすぐり続けた。






「……ひどい目にあったっす」

「自業自得じゃな」


 ゴーは俺にくすぐり倒された後、お腹を抑えて倒れ伏していた。


「あの、仮病の件は悪いと思っているんっすけど、これでも病み上がりっすよ?」

「それも、今となっては疑わしいのじゃが? ご飯ができてすぐ目を覚ましおって。本当に気絶しておったのか?」

「いや、いい匂いに誘われて目が覚めたんっすよ!」 


 ゴーは汗だくになって必死に弁明している。

 そんないつも通りに戻った仲間を尻目に、俺は声をかけた。


「そんなことはどうでもいいから、そろそろ行くよ」

「そんなことって……。あんまりっすよ」


 俺はカメ吉を頭に乗せ、進行方向である龍渓の谷を指差す。




 やっと山を越えた俺たちを待ち構えるのは龍の巣窟、龍渓の谷。

 目的地の街、リンピールまでの道のりはまだまだ長い。

 けど、やりたいことはまだ山のように残っているのだ。


「出発!」


 俺の掛け声とともに、支度を終えた仲間達は谷に足を踏み入れた。





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



〜提示可能ステータス〜



 名前:ルキ・ガリエル

 種族:−−−− / 魔族

 性別:⚥

 称号:−−−−

 属性:火、闇


固有(ユニーク) スキル :【状態異常完全無効】

E X(エクストラ) スキル:【物理攻撃耐性】【炎熱操作】【影操作】

スキル:【精神感応(テレパス)】【魔力感知(小)】【炎熱耐性】

魔 法:【第Ⅰ位階水魔法】



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

次話より新章に入ります。

次章は『旧火山古龍騒動編——(人)』です。

今後とも応援よろしくお願いします!

また、評価や感想等は執筆の原動力となりますので、読了後の評価にご協力をお願い致します。

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