66 久しぶりの肉だ
「ただまぁー」
「うむ。食事は獲れたようじゃな」
「まぁねー」
俺は引きずって持ってきたカエルを、ブティーに見せびらかしてから地面に下ろした。
「で、ツキとゴーの容態は?」
「ルキの言われた通り、木陰に横にしたまま濡れ布を額に当ててはおるんじゃがな……」
そう言うとブティーは睡るゴーを横目でチラッと見た。
言動からしてツキは大丈夫そう、かな。
そしてゴーは不明か。
まぁそうすぐに原因が分かっていたら、世の中の医療はもっと進歩しているよな。
「俺の分もありがとね。もうそそろ夕暮れ時だし、ご飯の準備するわ」
「うむ」
ゴーはさておき、ツキの容態が良くなっている。
その事実に少しは気が楽になり、俺は胸を撫で下ろした。
俺はブティーと眷属には引き続き看病を頼み、カエルを捌き始める。
地球で得た偏った知識だとカエルの可食部は主に後ろ足だ。
前脚や頭部はほぼ骨と皮で、胴体には臓器が。
自分で捕まえて丸々茹でてカレーと一緒に食べたことはあるが、その臓器がすっごく苦くてエグくて不味かった事を覚えている。
こっちの世界のカエルは大きさは非常に大きく、肉付きもいいため前脚もゼラチン質の頬肉も食べられそう。
ただ内臓の詰まった胴体は病人にはどんな影響をもたらすか分からない。
毒とか、毒とか、毒とか。
だから、埋めて処分しました。
え?
状態異常無効で毒耐性のある俺が食えって?
何言ってんの。普通に嫌だよ。
食える食えないではない。
嫌なの。毒耐性あるからって、毒あるかもしれない物食うか?
そして日が暮れ空は月夜になり始めた頃、処理を終えたカエル肉が焼き上がった。
「ご飯できたよー」
俺はツキとゴーを起こしに向かった。
まず初めに、ずっと俺の作業を横になりながら見ていたツキの元に行き腰を下ろす。
「ツキ、ご飯は食べれそう?」
「はい、ブティーさんのおかげでだいぶ良くなったので」
ツキは俺に心配かけまいと微笑む。
確かに顔色は良くなっているけど、今日は安静にしていてもらわないとだな。
さて。
「ゴーはどう……だ………………」
さっきまでツキの隣で寝ていたはずのゴー。
奴はそこにはおらず、焚き火の傍に刺していたカエル肉の串焼きにかぶりついていた。
「ん? んっぐ、何すかルキさん? というか食べないんっすか?」
「……」
「な、なんっすか?」
ゴーはとぼけた顔をしたまま、再び肉を一つ口に運ぶ。
俺はもう一度眠らせてやろうかと本気で考えたけど、病み上がりということで多めに見てやることにした。
腑に落ちない。
けど、我慢だ。
普通に考えれば別に怒ることじゃない。
仲間が無事に回復したんだ、怒りよりも喜びの感情の方が大きい。
そうに決まっている。
あー嬉しい、よかったなー……。
「はぁ」
俺は大きなため息をついて立ち上がる。
別にゴーに対してイラッとするのは、今に始まったことじゃない。
こんなこと、笑ってスルーできるくらいにならなくては。
俺は俺と寝ているツキの分の肉を手に取り、再びツキの横に腰を落とした。
「はい」
「……あ、ありがとうございます」
食欲はありそうだし、大丈夫そうかな。
俺は小口で少しずつ肉を食し始めたツキに微笑み、視線を別の人物へと向けた。
肉は食わずに眷属の血をチュウチュウ吸っているブティーに。
「ブティーは肉食べないの? やっぱ血しか食べれないとか?」
「食せぬことはないぞ。じゃがな、血液の方が栄養もあるし、何より美味じゃからな」
「へー」
それ、手に持ってる眷属は小さく断末魔をあげているけどいいのかな。
みんなが食事を終えた頃合いを見て、俺は次に通過する予定の場所について喋り始めた。
「次行くのはここからすぐの所にある『龍渓の谷』って名前の谷なんだけどさ、そこは名前の通り大小様々な龍種が巣食う所なんだよ」
多分だけど。
「でだ、ツキはまだ病み上がりだから俺がおんぶするか、眷属にあまり揺らさないように運んでもらうかしてもらいたいんだけど」
俺はブティーに可能かどうかの視線を向けると、コクっと頷いてくれた。
しかし、何か言いたげで不満がありそうな顔をしたツキが口を開く。
「ルキ様! 私は——」
「まぁまぁ、落ち着け。ツキは頑張り屋さんなんだから、こういう時くらい休みな」
「……は、はい」
ツキは顔を伏せ、俺から視線を背けた。
まだ何か言いたかったのか、吐息が漏れる音が聞こえる。
まだ納得はしていないみたいだけど、こういう時くらい楽をしたって罰は当たらないだろうに。
「すいません」
突然、ゴーが俺たちの顔を伺いながら片手を上げた。
「あの、俺の名前が出てないんすけど?」
そんな質問に対して、俺とブティーは一度顔を見合わせ。
「ん? どうかしたの?」
「そうじゃな」
「え? 俺も病み上がり組っすよね?」
「でも、もう元気でしょ?」
この中で一番元気なのは何故かゴーだ、自信を持ってそう言い切れる。
言いたくはないが、肉だって一番食べていたし何を心配すればいいのか分からないくらいピンピンしている。
俺たちの反応を見て何を思ったのかゴーは駄々をこね始めたが、誰も見向きもしてくれないと分かるや否や、わざとらしく自らの首を抑えもがき始めた。
そして、ぱたっと倒れた。
「——はい。ということだから、今日はゆっくり休もうか」
「そうじゃな」
何事もなかったかのようにブティーは眷属を召喚すると、眷属はキングサイズのベッドへと姿を変えた。
「ルキもツキもこっちで一緒にどうじゃ?」
ブティーはベッドに腰をかけ、俺たちを手招いている。
俺はさりげなくゴーだけ呼んでいないことに気づいたが、あえて触れないでおく。
中身はともかく女の子三人の中に男一人が寝るとか羨ま……けしからんからな。
「ツキ、ベッドに移動するよ?」
「はい」
俺はツキに肩を貸しゆっくりと立ち上がらせる。
そして森には場違いなほど綺麗で大きな白いベッドに俺を真ん中に川の字になって横になった。




