65 浅い知識で看病始め
「ありがと、レギヌア。すっごく助かったよ」
龍渓の谷、その手前の少し開けた森の中に俺たちを乗せたレギヌアは着陸した。
『それは、まぁ、いいんだけど。そっちの二人は大丈夫?』
レギヌアの視線はツキとゴーを向いている。
「うーん、何とも言えないかな。とにかく様子を見てみようと思うよ。本当にありがとね」
『それはこっちのセリフだよ。久しぶりに会話が出来ただけじゃなくて、友達になってもらえたんだから。何かあったら気軽に会いにきてね』
「うん、約束だもんな」
なんというか、むず痒い。
けど嫌な気はしない。
俺とレギヌアは、気恥ずかしさをごまかすように笑みを漏らした。
そして。
『じゃ、そろそろ』
「うん。じゃ、また」
俺たちは最後にアンバランスな握手を交わし、レギヌアは元々の予定だった古龍の集会とやらの為に飛び去った。
「まさか、ルキが本当に古龍と友達になっておったとは……。冗談かと思っておったわ。今でも信じられんな」
ブティーはレギヌアが飛び去って行った方を見ながら呟いた。
フッフッフー。そうだろ、そうだろぉ!
仲間もこんなに増えたし、友達だってできた。
もう人見知りは卒業と言っても過言ではないな!
異世界でリア充してますわー。
俺は自慢げに腰に手を当て、無い胸を張った。
そんな俺をジト目で見ながら、ブティーが口を開く。
「ルキよ。ツキたちはよいのかの?」
そ、そうだった!
「二人の容態はどんな感じ?」
「どうって……。妾は病の類には疎いのじゃが。うーん。ツキは上にいた時よりか顔色はマシになっておるかの? ゴーはなんで気絶しておるのか見当もつかんがな」
「ちなみにだけど、ブティーは何ともない?」
「何がじゃ?」
あ、はい。
ブティーは吸血鬼なだけあって、日差しにめっぽう弱い。
今はかろうじて木陰にいるが、降りてくる途中灰になりかけていた。
それなのに何ともなかったかのように小首を傾げる強キャラのロリババ。
流石っすわ。
「ん?」
ブティーは眉を八の字に曲げたまま、指を一度鳴らし眷属を召喚する。
次はコウモリ型ではなく傘みたいな形をしているけど。
ブティーも大概なんでも有りだな。
俺のことを非常識みたいなこと言ってるけど、その眷属も十分……。
俺とブティーとその眷属はその後、体調不良である二人の看病を始めた。
「ルキ様、私ならもう大丈夫ですから」
ツキはゴーと違って意識があるものの、高山病の影響でかまだ少し辛そうにしている。
「あ、起き上がらなくていよ。今日はここで野営するからご飯できるまで寝てな」
俺は上体を起こそうとするツキの肩を抑え、横になっているよう告げる。
とりあえず、ツキはこのまま寝かせておこう。
問題は——…
俺はツキの隣で横にしているゴーを視界の隅に入れた。
が、コイツ全然目を覚ます素振りを見せない。
火口から出るギリギリの瞬間までピンピンしていたコイツが何で気絶したのか、皆目見当もつかない。
高所恐怖症だったとか?
それとも地球になくてこの星にはある病とか?
「おーい、大丈夫かー?」
耳元で大きめの声を発するが、反応は無い。
分からん。
安静にしてしばらく放置してみるか。
「ねぇブティー、ここ任せてもいい?」
「うむ、大丈夫じゃぞ。妾の眷属もおるから人手は足りるであろう」
「ありがと。ちょっと夜ごはん狩ってくるね」
看病はブティーに任せ、俺は宣言通り今晩の食事を探していた。
洞窟じゃ肉なんて食えなかったし、肉がいいな。
病人も肉食えば元気になるくね?
周囲をキョロキョロと見渡すと、その視界の隅に陸上蛙という、こっちの世界ではメジャーらしい食材のカエルを見つけた。
大きさは馬よりも少し大きめで、固有色がないのか皆カラフルだ。
ツキの話曰く、味は淡白だが食いごたえのある肉で庶民が気軽に手を出せる格安肉だとか。
正直なところカエルって時点で食は進まないのに、カラフル=毒という印象が強すぎて喉を通るか不明である。
しかも。
「でかいっ」
近づくとその大きさがさらに際立つ。
規格外のレギヌアに会った直後だからと言っても、ここまででかいカエルは不気味の一言である。
人や牛くらいの家畜くらいなら一飲みにできそうな大きさだ。
それでも俺はカエルを仕留めた。
背に腹は変えられない、というかカエルしかいなかったのだ。
扱いに一番慣れている影の手で、心臓を直接握り潰して姿を見られることなく終わり。
「はっ……、暗殺者の気分だよ」
俺は続けて周囲に残るカエルも仕留め、計三匹を持って仲間の元に帰った。
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つい先ほど、新作の連載を始めました。
是非、こちらの方も読んでくださると嬉しいです。
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タイトル:
最終形態はなんですか?~生態系ピラミッド最下層の種に転生した私の雑草のような底辺植物生活~
あらすじ :
取り柄も特技も特徴もない、どこにでもいる様なモブ女子高生な主人公。
そんな彼女に全身に原因不明の激しい激痛が走った瞬間、よく分からない植物の種になってしまった。
植物になってしまった主人公からしたら、周りにいる生物皆が捕食者だ。
人間界だけでなく、自然界の生存ヒエラルキーでも最底辺になってしまった私。
右に行っても敵、左に行っても敵。
そんな異常事態にも関わらずあっさりと飲み込み、持ち前の性格でそれなりに順応していく。
これはそんな植物系統の魔物の種になってしまった主人公が、泥臭くも雑草のようにしぶとく必死に異世界を生き抜き、成長と進化を繰り返して成り上がっていく——そんな物語である。




