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60  自由と責任

 本当にこのパーティーの子達は良い子ばかりじゃな。

 こんな状況だからこそか、ブティーの心の奥底にじんわりと温かい何かが広がっていく。


 絶対に勝機は無い世界最強にして最恐の存在だと知りながら、仲間を助ける為に一人で最下層に残ったルキ。

 そんなルキに助けられたにもかかわらず、仲間だからと言って助けに向かうツキとゴー。

 お互いを大事に思っている証拠じゃな。

 利己的な考え、目的や目標のためだけの付き合いじゃないということが肌身で感じる。


 じゃがな……、いやだからこそじゃな。

 今は、最後に残したルキとの約束を守らなくてはいけないのじゃよ。

 ブティーは眷属を押すツキとゴーに口を開いた。


「お主ら、聞くのじゃ。妾はルキに頼まれたのじゃ」


 眷属達で穴を塞ぎ、ツキとゴーの意識を集める。


「お主らにはまだ言ってはおらんかったのじゃが、ルキは”俺が来るまで守れ”と言ったのじゃ。今はルキの帰還を信じて待つべきじゃ」


 ゴーはブティーの言葉に、仲間として自分のとるべき行動が分からなくなった。


 相手は世界最強の古龍種が一体、いくらルキさんでも勝ち目はないかもっすけど。

 でも、ブティー姉さんの言う通り信じて待つのも仲間としての……。

 でも、()()帰って来なかったら——…




「もし帰って来なかったら、どう責任をとるつもりですか!」




 ツキがブティーに叫んだ。

 ゴーが思っていたこと、考えていたことを代弁するかのように叫んだ。

 そのツキの叫びにブティーも叫ぶ。


「仲間を信じることもできぬのか! ルキは、お主らん妾達のリーダーは強い。逆に今、妾達が助けに戻ったところで邪魔になるだけじゃ!」

「でもっ」

「ルキは言っていたのじゃ、自由とは何かを」


 妾は自室となる隠し部屋を出る直前、妾にだけ言ってくれたルキの自由の概念を思い出した。


 ——自由ってのはな、自分の好きなことを好きなようにすることだ。

 ——やりたいことを、やりたいようにする。

 ——でも、その反面責任も問われるんだよ。当たり前だけどな。

 ——俺は世界征服とかっていうバカみたいに大きな目的がある。

 ——そんなバカな夢に付いて来てくれる仲間は死んでも守らなきゃいけない。

 ——もちろんブティールもね。

 ——それが俺の自由における責任なんだよ。だから——…


「ルキの覚悟を、頑張りを無駄にすることは妾が許さん! ルキの掲げている自由、それは責任が付き纏うのじゃ。お主らのルキを助けたいっていう気持ちも自由じゃが、妾はそれを全力で阻止する。妾はルキを信じて、ルキの意思を尊重する。それが妾の自由と責任じゃ」


 ブティーの眷属を押す二つの力のうち一つ、ゴーの力が弱まった。


「姉御……。ブティー姉さんの言う通りかもっすよ」


 ストンと腰を下ろしたゴーはポツリと呟いた。


「な、何を言っているんですか? 今ルキ様は——…」

「俺だって今すぐにでも助けに行きたいっすよ。でも、俺たちが助けに行って、どうなるんっすか? 邪魔、足枷にでもなりたいんっすか? 信じて待つ、これだって仲間にできることなんじゃないんっすか?」


 邪魔、足枷……足手まとい。

 ツキの脳裏にゴーの村で味わった自分の無力感がフラッシュバックした。

 力が徐々に抜けていく。


「……ルキ様」


 今の私じゃルキ様の隣に立つことは許されない。

 守られる対象のままじゃ、私はいつまで経ってもルキ様には近づけない。


 ツキの頰に涙が滴れる。

 直後、ブティーの手に乗っていたカメ吉がツキの元に駆け寄った。


「カメ吉、さん?」


 カメ吉は甲羅の植物を伸ばし、ツキの涙を拭う。

 その瞬間、カメ吉の葉が輝きを見せるが誰も気づくことはなかった。

 ツキはカメ吉を抱き上げ、ブティーを見る。


「分かりました。私もルキ様を信じて待つことにします。でも、もしもの事があったら私はブティーさんを倒してでも行きます」

「姉御、その時は俺も行くっすよ」

「もちろん、妾もそのつもりじゃ。ルキには借りがあるからの」


 三人と一匹の出した結論、それはルキの帰りを信じて待つになった。

 ただし穴の側は危険。

 かといって離れることもできない。

 だからこそ、ツキ達は仮眠をとった場所まで引き返すことにした。

 が、その直後のことだった。




『グウオルアアァァハッハッハッハ!』




 穴から体の芯に響く重低音の雄叫びが轟いた。


「この雄叫びって」

「古龍じゃな」


 三人は円く向き合って座った。

 ツキの肩が激しく震え、過呼吸気味になっているのを見たブティーが背中を摩る。


「ルキならきっと大丈夫じゃよ。邪魔をしない、これだって信頼の証ある行動じゃ。さっきは強く言ってすまなかったの」

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