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59  古龍と握手

 俺は目の前にいる古龍に話しかけてみた。


「あの、不躾な質問なんですけど、なんでお怒りになられているんですか?」

『ん? いえ、怒ってないですよ?』


 えっ? 

 じゃあ、あの雄叫びは何だったの!?

 あれで怒ってないのか? 

 勘違いしない奴いないと思うんだけど。

 本気で怒ったらどうんなんだよ。

 想像もできない。


 でも、おかげでなんとなくだけど分かった気がする。

 この既視感の存在、これはあれだ。

 俺と同じ、同族(コミュ障)ってやつだ。

 ま、まぁ、俺はぼっち卒業したけどな

 今では三人も仲間がいるもん!

 前世では良太だけだったから……3倍!?


 おっと、話がそれる所だった。


「では、何かあったんですか?」


 俺の質問にレギヌアは目を細めて天井を見る。

 その遥か先にある空を見るように。

 そして、呟いた。


『少し地上に行く用が――…』


 用があると言う目の前の古龍は、どうも乗り気じゃない気がする。

 なんというか、外に出たくない引き籠もりと同じ目をしている。


「あの、お節介かもですけど、何故そのような表情を?」

『表情……ですか。そうですね、外に出る度に討伐隊が組まれるから、ですかね。別に何も破壊行為はするつもりはないんですけど。でも、仕方ないともおもうんです。こんな化け物が出たら誰だって怯えますでしょ?』


 大地の古龍からは、その見た目とは反して龍族としての誇りや尊厳は一切感じない。

 言っていることは間違っちゃいないけど、なんというか卑屈だ。


「嫌、ですか?」

『ふっ。古龍だかなんだか知りませんけど、嫌ですね。私は魔物として生まれたからには魔人になりたかったんですよ。でも、なれなかった。それでも、いつかなれると信じて、ずっと鍛えていたら魔人ではなく古龍種と呼ばれる存在になっちゃったんです』


 な、なるほど……。

 どうりでドラゴンっぽくない見た目をしていると思った、そういうこと。

 そもそも龍族ですらないのか。

 いや、でも彼ら古龍から派生して龍族が生まれたから龍種ではあるか。


『私は鍛え過ぎたんです。限界の限界を超えてしまった。最強とは孤独、大地を自由自在に意のままに操れても孤独では……』


 非常に気まずい空気になってきた。

 レギヌアはどんどん傷心していき、声も覇気も無くなってきている。

 対応に困るんだけど。


「じゃあ、提案なんですけど。……あまり期待はしないで欲しいんですけど、年に一回くらい遊びに来ましょうか?」


 俺はこの重たい空気を変えるべく提案する。

 するとレギヌアは心なしか弾んだ声音の様子で『本当か?』と聞き返してきた。


「本当だよ。これでも孤独?」

『そ、そうですね。孤独ではないですね』


 レギヌアは大きな大きな手を俺に差し出し、俺の小さな小さな手でそれを握った。


 見た目や想像と違って、世界最強の一角は良い(古龍)だった。

 俺達は終始戦う素振りを全く見せず、話していくうちに打ち解けていった。




        ※




「ゴリラも投げられたんですか?」

「そ、そうみたいっすね」


 ルキ様に投げられ眷属にキャッチされ、穴の近くに落とされた私は白ゴリラと一緒に穴を覗き込んだ。


「「うわっ」」


 私とゴリラに少し遅れて、ブティーさんも穴から凄いスピードで飛来する。

 ブティーさんは眷属に掴まり、私達とは違って綺麗に着地を決めた。


 なんで一人なんです?


「あ、あの、ブティーさん。ルキ様は?」


 私の問いにブティーさんは気まずそうに口を開いた。


「ま、まだ下じゃ」

「えっ?」

「下って、古龍と二人っきりってことっすよね!?」

「……そうじゃ」


 ルキ様に半ば強制的に投げられた私とゴリラは、急すぎる今の状況に理解が追いつかないでいる。

 そんな時、穴から飛んで来たブティーさんの手に乗っているカメ吉を見て、私達だけが逃してもらえたということに気づいた。


「な、なんでお一人だけで……。皆さん、助太刀に行きますよ!」

「了解っす!」


 私の決断は素早かった。

 ”助けに行く”、シンプルで的確な指示。

 脳みそがどんぐり程度しかない、学習能力皆無のゴリラだって珍しく私の意見に同意したよう。

 しかし、ブティーさんの眷属達が立ち塞がり私とゴリラの行動を阻んだ。


「……なんですか? 何のつもりですか、ブティーさん。早くここを通してください」

「そうっすよ、ブティー姉さん! こういう時こそ助けに行かなきゃ、仲間なんかじゃないっすよ!」


 私、そして多分ゴリラもブティーさんい対して初めて感情的に言葉をぶつけた。

 怒りではない、不安や心配からなるモノだ。


「お主ら、聞くのじゃ。妾はルキに頼まれたのじゃ」

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