54 洞窟の主
俺たちは隠し通路の入り口まで戻ってきた。
ゴーを引き取りに来ただけなのに、すごく時間と労力を消費した気がする。
「そういえば、すっごく今更なんだけどなんて呼ばれたい?」
「ん? 何がじゃ?」
俺の問いにブティールは小首を傾げる。
「呼び名だよ。呼ばれたい名前でも、なんでもいいよ」
「なんでも良いのじゃがな」
「はいはーい」
俺たちの会話にツキが挙手して割って入る。
「私は”ブティーさん”って呼んじゃってましたけど、良かったですか?」
「無論じゃ」
確かにそう呼んでいたな。
ツキはすでに偽恋話中に愛称で会話していた。
まぁ呼びやすいし、俺もツキと一緒でいいかな。
「じゃ、俺も”ブティー”って呼ぶよ」
「俺は”ブティー姉さん”って呼ぶっすかね。年増以上っすもんね」
最後の一言に一瞬ブティーはゴーを睨んでいるが、案の定ゴーは気づいていないみたい。
本当に一言多いんだよな。
マジでいつか背後から刺されるぞ。
「わかったのじゃ。これからもよろしくのルキ、ツキ。そして、ゴー」
久しぶりじゃの、ブティーなんて呼ばれるのは。
童共の世話ついでに、ゴーには後で教育をしなくてはおかんな。
ブティーの呼び名が決まると、ブティーはニコッと幸せを噛みしめるように微笑んだ。
ただし、ゴーに対する笑みは少し違うような気がする。
俺は一人で含みのある笑みを浮かべているブティーに、別の話題を話しかけた。
「ねぇ、早速聞きたいことがあるんだけどさ」
「なんじゃ?」
「洞窟に住んでいるってことは、山の反対側までの道を知っていたりする?」
「うむ。知っておるぞ」
おぉ。
流石こんな迷路みたいな洞窟に住んでいるだけはある!
ブティーは透かさず指をパチンと鳴らした。
「眷属召喚」
ブティーの部屋で一度見たとは言え、やっぱりすごい。
己の影が千切れていき、複数のコウモリへと変化するこのスキルはかなり派手でかっこいい。
召喚されたその数、優に30匹を超えて未だに増え続けている。
コウモリ独自の言語なのか、ブティーはモスキート音のような音を発して眷属達と会話を始めた。
「——…うむ。こっちじゃな」
どうやら話は終わったみたい。
振り返りながら進行方向を指差すブティーの先には、複数の眷属が浮遊している。
案内役から溢れた眷属達は物理的にブティーの尻に敷かれている。
要は騎乗している。
ホントに有能すぎるスキルで羨ましい限りだよ。
どうせ自分でも浮遊できるくせに。
眷属達は迷う事なくスイスイと俺たちの数歩先を飛んでいる。
迷子になりまくっていたのが嘘だったかのように、俺たちの進行速度は上がった。
ブティー曰く、この洞窟を知り尽くしている眷属達は俺たちが通れる最短ルートを案内してくれているみたい。
でもまぁ……ね?
そんな順調っぷりを例のスキル【不幸】が許してくれるわけもなく、俺達は次々に不幸に見舞われているんだけど。
落石、落石、また落石——…
何回死ぬと思ったことか。
「ゴーのスキルは一体なんなのじゃ!? ルキとツキもそのことに度々触れておるようじゃけど、一体なんなのじゃ?」
流石に違和感を感じたのだろう。
ブティーがとうとう聞いてしまった。
いや、別に隠すつもりはないんだけど、世の中知らない方がいいこともたくさんあると思うんだ。
「ルキよ、なんなのじゃ!」
名指しですか。
「えーっと、うん。簡単に言うとだな、たくさん不幸な目に合う」
「何じゃそれは? さっきから危ない目にあっている落石は、ゴーのスキルが干渉したからなのかの?」
「ちゃんとメリットもあるんだよ? でもまぁ、そう言う事だね」
直後にブティーは横見で見るゴーと距離をとった。
実際、その程度離れたくらいじゃ何の意味もないんだけど。
「そういえば、不幸が落石だけですよね。魔物に囲まれるとかも予想していたんですけど」
ツキが顎に指を当て、ついさっき起こった落石の跡を見ている。
確かにこの洞窟に入ってから、驚くくらい魔物に囲まれていないな。
居ることには居るんだけど。
そんな疑問にブティーが然もありなんな態度で答える。
「この洞窟にいる魔物は、外の魔物よりも賢いのじゃよ。明らかに魔力が膨大なルキに、洞窟の主と化している妾がおるからの。わざわざ死にに来ることはないじゃろ」
「へ、へー」
え、洞窟の主ってなんぞ?
何その称号、かっこいい。
俺も洞窟の主の仲間ってこれから名乗ろうかな。
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〜提示可能ステータス〜
名前:ルキ・ガリエル
種族:−−−− / 魔族
性別:⚥
称号:−−−−
属性:火、闇
固有 スキル :【状態異常完全無効】
E X スキル:【物理攻撃耐性】【炎熱操作】【影操作】
スキル:【精神感応】【魔力感知(小)】【炎熱耐性】
魔 法:−−−−
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次話より新章に入ります。
『旧火山古龍騒動編——(魔)』に入ります。
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