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53  悔い改めろ

「そろそろ行きませんか?」

「そうっすよぉ。姉御もブティールさんも、行くっすよ〜」

「……お前が言うなっ」


 ブティールが仲間になって十数時間が経った今、俺たちは未だに隠し通路の先にあるブティールの部屋にいた。

 ツキとブティールがガールズトークのようなものを始めてしまったが故に、出発する雰囲気は一度たりとも訪れていない。


 ツキは俺を膝の上に乗せ、ブティールは俺を猫のようにあやし続けている。

 ツキに関して言えば慣れたからいいけど、見た目年齢が同い年くらいのブティール撫でられるのは正直複雑な気持ちだ。

 ちなみに俺に賛同するフリをしているゴーは、怪我人だからと言ってベッドに横になってゴロゴロとくつろいでいる。

 この中で一番動く気がないのはゴーである。


「それにしても妾は死者にしか興奮しないんじゃがの、なんなのじゃろうなこの気持ちは」

「さすがルキ様ですよね。ルキ様の可愛さは無敵なんです!」

「うむ」


 俺は猫ではない。

 だから顎を撫でても何も言わないぞブティールよ。


 というか、ツキは可愛くて小ちゃい女の子が好きなんだから、ポジが変わっても良くないか?

 客観的に見て、俺なんかよりもブティールの方が十分可愛いと思うんだけど。

 外見は勿論のこと、中身もブティールは正真正銘の女の子なんだから。


「そういえば()()()()()()って今までにお付き合いしていた方はいるんですか?」


 ブ、ブティーさん!?

 あだ名、だとっ!?

 いつからツキはそんな仲良くなったんだ?

 いや、それよりもその質問の答えは聞きたいか?

 思い出せ。

 ブティールはネクロフィリア、死体に欲情し性的嗜好を感じるキワモノだぞ?

 恋愛は自由だけど、かなりヤバ目の部類の奴だぞ!


「そうじゃな、何人かおったの。別れも早かったのじゃがな。妾の好みとなれば腐敗が早いからの」

「キャー。羨ましいですぅ! でも、好きになってもすぐにお別れってのも、なんだか寂しいですね」


 いったい、この子達は何の話をしているんだ?

 恋話とは言わせないぞ?


 ツキがさっきから何にキュンキュンしているのか分からない。

 知りたいわけではないけど。

 一先ず俺はゴーだけでも出発組(こっち)に回し、この部屋を出る算段を考える。


「おいっ、ゴー。そろそろ出発したいんだけどさ、手助けしてくれないか?」

「えぇ、じゃあと5分」


 こいつ。朝、学校に行くのが嫌な学生みたいなこと言いやがって。

 そのセリフは絶対に5分で起きないやつだ。ソースは俺。




「はいっ!」




 俺はパンっと手を打った。


「そろそろ洞窟から出たいです。まだ話し足りなかったら歩きながらで、ね!」

「すいません。そうですねルキ様、そうします」


 ツキとブティールは訳の分からない会話を中断して立ち上がった。


「ほら、ゴリラも行きますよ!」


 ツキはふかふかなキングサイズのベッド堪能しているゴーを催促する。

 しかし、ゴーはツキのことを横目でチラッとだけ目視し。


「無罪な俺は、姉御にボコボコにされて歩けないんっすよ。療養が必要っす!」


 プイっと目を背けるゴーに対して、ツキの眉間にシワがよる。


 ちなみに、未遂は無罪ではないです。

 無論歩けないというのも嘘です。


 確かにゴーはボコボコにされたけど、それは主に顔であって足腰は無傷だ。

 それにツキ達が会話に花を咲かせていた時、ゴーは自分の湯呑みにお茶を注ぐため、何度もベッドと丸テーブルを行ったりきたりしていたし。

 やっと出発ムードだってのに、こいつのせいで遅れるじゃないか。


 俺は自然とカメ吉に助けを求めた。


 カメ吉は俺の視線を受け取ってすぐゴーに向かって走り出し、高ーくピョンと跳ねた。

 それはそれは見事なジャンプで、2メートル程の高さまで飛び上がるカメ吉。

 最高地点に到達してすぐ光り輝くオーラに包まれるカメ吉は、ゴーに向かって急降下する。


「ぐふぉっ!?」


 ゴーはくの字に曲がり、鈍い声を漏らす。

 お腹を抑え悶え苦しむゴーを視界の片隅に、俺の足元まで駆け寄り頭を足に擦るカメ吉を抱き上げた。


「よくやったよカメ吉! 俺はお前を一番可愛がるからな!」

「ちょ……ちょっと、なんなんっすか……」


 プルプルと上体を起こすゴーに、俺は圧の籠もった笑顔で返答する。


「行くぞ?」

「……ル、ルキさんって、サディストっすよね」

「んなわけないだろ。いいから、早く準備しろ」


 ツキは早々に身支度を済ませ、ブティールの手伝いをしている。

 そんなブティールはと言うと、今まで暮らしたその部屋に愛着が湧いていたのだろうか、全ての家具に「行ってくるのじゃ」と伝えている。

 でも、それも直に終わりそう。


 要はゴーが一番遅いと言う事だ。

 そんな中、ゴーが俺たち三人を見て呟いた。


「なんか三人で並ばれると三姉妹みたいっすね」


 え、どこが?

 話逸らして、少しでも長くこの部屋に居座ろうとしていない?


 俺はツキとブティールを見るけど、容姿はやっぱり似ていない。

 強いて言うなら一番大きいツキが長女で、俺と同じくらい小さいけど上品な仕草や言葉遣い的にブティールが次女、かな?


 そうか、ゴーが俺に向けている人を馬鹿にするような視線はそういうことか。


 ふっ、甘いな!

 俺は末っ子で万々歳だ!

 あれ、俺達が姉妹なら——…


「じゃあ、ゴーは何?」

「俺っすか? それは、もちろん保護者っすかね」

「「はぁっ!?」」


 俺とツキが口を揃えて大声を出した。


「自分の立ち位置も理解していないんですかぁ? 私たちがゴリラの飼育係ですよ!」


 そもそも、ルキ様の保護者は私です!

 勝手に保護者を名乗るとか、誰の許可を得ているんですか!


「おいゴー! 言いたかないけど、自分のスキルを思い出してもう一度答えろ!」


 ふざけた回答すんのも大概にしろよ。

 最後までダラけていた奴が何を今更。

 そもそも、ゴーの保護者をしているのはどう考えても俺たちだ!

 どんだけ、尻拭いしていると思ってんだよ。

 悔い改めろ!


「ちょ、なんっすか!? 二人してそんなムキになって。これだから二人は子供なんっすよ?」


 イラッ。

 よし、洞窟を抜けたらこいつを埋めて帰ろう。

 これ決定事項。


「仲が良いのじゃな」


 ブティールは俺たちの言い争いを見ながら、ポツリと呟いた。

 なぜそう見えたのか、後で詳しく話を聞くとしよう。

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