50 隠し通路発見!
カメ吉は行き止まりとなる壁の前で止まった。
「ここ?」
「行き止まりですよ?」
疲れたのかな?
全面的に信用し過ぎたかもしれない。
「もしかして、カメ吉さんも迷いましたか?」
俺の隣でツキは口元を隠しながら、ニヤッと笑う。
最優秀のカメ吉に、自分の秘書としての立場が危ぶまれたとでも思っていたんだろう。
ここぞとばかり、水を得た魚のようにツキはカメ吉を煽っている。
その後すぐ、ツキも少し疲れていたのか行き止まりとなる壁にもたれかかった。
しかし体重をかけた途端に壁は光の粒子になって消え、ツキは後頭部を地面に叩きつけた。
「イタっ!?」
「大丈夫か?」
「……は、はい」
目の前に突然、道が出現する。
幻影魔法の類だろうか?
ツキの村で見たものとよく似ている。
尻餅をついたツキは、後頭部をさすりながらむくりと立ち上がった。
なぜか、してやった感を出し鼻を伸ばしているけど。
これは褒めるべきなのか?
ここまで案内したのはカメ吉なんだけど。
「よ、よくわかったね」
「えへへ〜」
ツキはこぶができている後頭部を摩り、ふにゃーと顔を綻ばせて笑顔で俺に抱きついた。
「すごいですか?」
「す、すごいよ。よくやった!」
ツキは満面の笑みで喜んでいる。
まぁ、可愛いからヨシだな。
本来の手柄であるカメ吉にも、後でちゃんとお礼しておこう。
俺は切り替えて、新たに出現した真っ暗な隠し通路を見る。
「行くか」
隠し通路に一歩踏み込み、俺は口を開いた。
この先にいる吸血鬼が悪い奴じゃないことを信じて、厄介ごとの種であるゴーがいることを願って、俺たちは先に進んだ。
……
…………
………………
(ルキ様、いますかー?)
(いるよー)
……
…………
………………
(ルキ様、本当にいますかー?)
(いるよー)
……
…………
………………
(本当に本当にいますかー?)
(よー)
「えっ!? ルキ様、ルキ様ー!」
「いるから、ツキの隣にずっといるから!」
ゴーが音もなく消えたことに、軽くトラウマを植え付けられたのか。
それとも、単に暗闇が苦手なのか。
俺の横を歩くツキは一歩毎に存在確認をしてくるツキの背を、俺は優しく撫でた。
この時、俺は俺自身の特性について一つ気づいたことがあった。
多分だけど、俺には暗視能力がある。
おそらく闇属性持ちだからだと思う。
これに気づいたのは、俺とツキの空気の違いのおかげだ。
俺は常にツキの近くにいたつもりだけど、ツキは俺を視認というか認識していなかった。
今更だけど、結構便利な体かもしれない。
夜を駆ける謎の美少女魔人、RUKI☆ちゃん爆誕!
フッ……。
ツキの目が見えなくなったことをいいことに、俺は一人で決めポーズをとった。
「ル、ルキ様〜」
そんな中だった。
ツキの今にも泣きそうな声が俺の耳に入ってきた。
なんだか、申し訳ない。俺が悪かった。
「ツキは不安だったら俺の肩に捕まって」
「は、はいっ!」
ツキの強張った手が俺の肩を力強く握る。
少し痛い気もするけど、俺には【痛覚緩和】があるはずだから、多分気のせいだ。
そんな二人のやりとりを見ていた頭上のカメ吉は、いつの間にか甲羅に付着させていた洞窟に自生していたヒカリゴケを発光させた。
自分の手柄を横取りした相手にも優しいカメ吉は、精神年齢が俺たちと3倍くらい離れている気がする。
子亀だけど大人だわ〜。
「ありがどう、ありがどうございますぅーー!」
緊張がほぐれたツキの綺麗な黒い瞳から涙が止めどなく溢れている。
そんなに怖かったのか。
俺以外に対して素直じゃないツキが、こうも感謝するのを見るのは初じゃない?
俺はカメ吉を激しく撫でるツキの頭を優しく撫で——…ようとしたけど、届かないから微笑んでごまかした。
明かりが確保できたおかげか、それからは何事もなく歩くペースも早まって俺たちは早々に隠し通路の最奥までたどり着いた。
「行き止まりだ」
最奥には大きな岩が立ち塞がっている。
「ですね。でも、任せてください! これも実は幻影で……ってあれ?」
ツキは隠し通路の入り口同様に、体重をかけ行き止まりの岩に寄っかかるがビクともしない。
幻影があるっていう先入観のせいか、ツキの視野が狭くなっている。
そのことを伝えようと、俺は口を開いた。
「ツキ、あのな」
「ルキ様、大丈夫です! 見ていてくださいね!」
「あー、うん」
自信満々な笑みで振り返るツキに、俺はそれ以上口を挟めなかった。
でも俺は知っていた、これが幻影魔法じゃないことを。
ツキは見落としていた、この岩にドアノブがあることを。
「んーーーーっ! あれ?」
ツキは顔を真っ赤にするほど全力で岩を押すが、やはりビクともしない。
が、それもそのはずだ。
蝶番のような金具がこちら側に付いている所を見ると、このドアは押すのではなく引くタイプだ。
ツキは、大見え切ったばっかりに引くに引けないのだろう。
流石にこのままは可哀想だし、やっぱ替わるか。
「ツキ、ちょっといい?」
俺はツキと立ち位置を入れ替わる。
肩で息をして顔を真っ赤にしているツキは、本気のゴリ押しで開けようとしていたのだろう。
申し訳なさそうな表情で俺を見るツキ。
そんな目で見んといて。
ふぅ。
視線を気にしつつも俺はドアノブに手をかけ、岩の形をした扉を開いた。
「あー……知っていましたよ?」
うん、別に何も言うつもりはない。
頑張ってくれたのは知っているから、うん、
だから、その、泣くなよ?
俺は今にも泣きそうになるツキの手を引いて、扉の中へと足を踏み入れた。




