49 真の優秀はペットでした
「どしよ……」
俺は顔を青くしてゴーとツキに尋ねた。
もちろん二人もどうしたらいいのか分かる筈もなく、同じく顔を青くしている。
「元来た道を、景色とか見て思い出しながら戻るとかっすかね?」
「いや、それが何でかわかんないんだけど、何も覚えてない」
「私もです」
これはあれだ、詰みってやつだ。
完全に詰んだ、アウトだ。
「はい、挙手してください。何を見たか、何があったか覚えている人?」
「「……」」
反応なし。
「じゃ、じゃあ、提案もしくは意見がある人?」
「「……」」
反応なし。
誰か、何か言ってください。
過去の自分を、トレジャハンター気分だとか思った自分をぶん殴ってやりたい。
そんな中、俺の頭上にいたカメ吉がピョンと飛び降りた。
俺たちの状況を察知したのか、カメ吉は俺たちを置いて歩き始める。
時折こちらに視線を送っているあたりを見ると、ついてきて欲しそう。
首と甲羅の隙間からツタを伸ばして岩を登り、右へ、左へ迷う素振りを見せずにクネクネと進むカメ吉の後を訳も分からずに俺たちは付いて行った。
かなりの距離を、俺達は何度もお互いの顔を確認しながら、戸惑いながらもついていくと何の前触れもなくカメ吉は足を止めた。
甲羅に生える葉をピョンピョンと弾ませ、何かを訴えているカメ吉。
それに促されるように俺たちはツタで差す場所を見た。
「お、おぉーーっ!」
そこには俺が最後に傷をつけた跡がある壁があった。
「天才か、天才なのか!?」
俺はすかさず、道案内をしてくれた救世主を抱き抱え、甲羅を撫でる。
「くっ……。カメ吉さん、次は負けませんから!」
「何が?」
素直にありがとうだけでいいのに。
負けるって、誰が何によ。
俺は前屈みでカメ吉に宣戦布告しているツキにジト目を向ける。
「ルキさんじゃったか? 妾はこんな亀をどっかで見たことあるじゃが」
「何言ってんだお前」
後ろでゴーがなんか言い始めた。
どう考えてもネタキャラのくせに、何それっぽい雰囲気を出しているんだよ。
知将ぶるな! 問題児が!
それと、何が”妾”だ”〜じゃ”だ。
似非方言はやめろ! 方言人(方言を使う人)に失礼だ!
俺はゴーを無視して、口を開く。
「もうたくさん遊んだし、今度こそ気を抜かずに進むぞ!」
「はい、もちろんです! ……と、ところでルキ様、もう一回手を繋いでもらっても?」
「ん、別にいいけど」
返事を聞き、俺が手を差し出す前にツキは手を繋ぐ、もとい腕を組んだ。
こんな時だからだろうか。
俺は何故か冷静に物事を分析できた。
元々、はしゃいだ原因は恐怖心を紛らわす為。
その恐怖心の元凶は吸血鬼の存在の可能性だ。
洞窟内は確かにコウモリは多い。
でも、吸血鬼が現れそうな雰囲気は今のところない。
そもそも、洞窟でコウモリは生活しているものだし、何もビビることはない。
その結論が今になってようやく導き出された。
「はぁ、それにしても何で何も覚えていなかったんだろうな?」
迷ったと言っても、普通は何をしたか何に触れたかくらいは覚えているはず。
それがほんの数時間前の出来事を、ボンヤリとしか思い出せないのは不自然だ。
「そうですよね。いくら楽しくてはしゃぎ過ぎたからと言っても、何も思い出せないのは違和感を感じます」
ツキも同意見みたい。
こんな時だからだろうか、俺に再び恐怖心が蘇ってきた。
もうこの話題について話すの禁止にしようかな。
無限ループだろ、これ。
こういう時こそ、能天気にゴーが冗談でも言って場を和ませてもらいたいところなんだけど。
「ゴーはどう思う?」
「……」
返事がない?
さっき無視したから、無視し返されたか。
俺とツキは腕を組みながら、ゴーの数穂先を歩いている。
しかし、後ろにいるはずのゴーの返事どころか、気配すら感じない。
「ゴー?」
返事のないゴーを不審に思った俺とツキは、ゆっくりと振り返る。
案の定、そこには誰もいなかった。
「ど、どこ行ったんですか! バカゴリラー!」
『……』
ツキが叫ぶも何も返ってこない。
あの地獄耳が、ツキの言葉に反応しないなんておかしい。
確かにあいつはトラブルメーカーだけど、黙ってどっかに行くような奴じゃない。
空気は読まないが、言いたい事やりたい事は普通に口にする奴だ。
不幸の力も凄まじかったけど、音もなく消える方法なんて思いつかない。
俺は自然とツキと顔を見合わせていた。
「ルキ様」
「うん。【不幸】の可能性は十分にあるけど、十中八九噂の吸血鬼関連と見ていいかもな」
なんでゴーが標的にされたのか。
それこそ【不幸】が関係しているんだろうけど、多分犯人は吸血鬼と見ていいだろう。
こじつけもいいとこだけど、俺たちの記憶が一部欠落していたのも、音も無くゴーが消えたのも、噂の吸血鬼ならできるんじゃないか? と思う。
「おーい! ゴーっ!」
「ゴーリーラー!」
やっぱり返事がない。
背中に変な汗が流れるのを感じる。
俺は頭に乗っけていたカメ吉を掴み駄目元で尋ねる。
「ゴーの居場所、分かったりする?」
するとカメ吉は甲羅の葉を頷くように弾ませ、頭から飛び降りて歩き始めた。
マジか。
「……この子がうちのパーティーで最も優秀だな」
「……そ、そうですね……あは、ははは……」
小動物の亀に負けた知性持つ生物たちは、自分の無力さに肩を落としカメ吉の案内に付いて行った。
一切迷う事なく右に左に、降ったり登ったりナビゲートしてくれるカメ吉。
この亀が何者とかそんな無粋なことは、今更どうでもいいのだ。




