表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/76

47  マジやばくね?

「それにしても、外観とは違って中はめちゃくちゃ広いな」

「はい。しかも綺麗ですよね」


 童心にかえる心地の俺はツキと二人で、洞窟内部をキョロキョロと見渡していた。

 そんな興奮気味な俺たちにゴーが警戒を告げる。


「これから先は、本当に気をつけてくださいよ」

「分かってるってー。あ、それよりも、洞窟の道とか構造とか知っているの?」

「そ、その訳あってですね。反対側には確実に繋がっているんっすけど」


 訳?

 なんの訳?

 まぁ確かに道知ってたら、迷うわけないよな。


「とりあえず、分かれ道には印をつけながら行けば大丈夫!」


 見落としがちの後方の分岐点等に注意しておけば、まぁなんかなるでしょ。

 消去法でもいつかは抜けられる。


「そんじゃ、出発ーっとその前に。入ってから聞くことでもない気がするけど、なんでゴーはここを知っていたの?」


 俺はふとした疑問をゴーに投げた。


父さん(パミザ)が呪術に用いるここにしかない素材を採りに行くことがあったんっすよ」

「へー」


 獣人のところの老婆といい、パミザといい、この山には一体何があるんだか、皆目見当もつかない。


「ちなみにだけど、ゴーは洞窟に入ったことはないのか?」

「な、ないっすよ!? 大体、こんなところに向かう奴なんて()()()()ばかりっすよ。今まで遊び半分でこの洞窟に行ったゴブリン達は帰って来なかったんっすから」


 は?


 何やら聞き捨てならない言葉がポロポロと聞こえてきたんだけど?

 後者の帰ってこなかったゴブリンってのは、迷子になったとかそんんことだろう。

 よくはないけど、今、この現状はどうでもいい。


 ここに向かう奴は変わり者、だと?

 一番の変人がよく言うよ!


 ゴーは無意識での発言だったみたいだけど、俺もツキもその言葉を聞き逃さなかった。


「おい、聞き捨てなりませんよゴリラ。尊きルキ様を”変わり者”扱いですか?」


 あ、あれ? ツキさん?

 ちゃっかり俺だけが変わり者扱いになるようシフト変換させるのはやめてくれません?

 地味に傷つくから。


「説明してください、なんでルキ様が変わり者呼ばわりされなくちゃいけないんですか?」


 ゔっ。

 言葉がダイレクトに刺さる。

 ツキは俺を庇ってくれているみたいだけど、だからこそ傷つくというか。

 意識していないところからの攻撃というのは、苦しいです。


 しかし、そんな俺の心情を無視してゴーはさらなる爆弾を投下した。


「いや、そのっすね。この洞窟に生き残りの吸血鬼(ヴァンパイア)がいるって噂がっすね?」

「……」

「……」


 ——…は?


 時間が止まったみたいに、俺たちに静寂が訪れた。

 俺はこのファンタジー世界の情報をほとんど知らないけど、吸血鬼(ヴァンパイア)が上位の魔人だってことくらいは想像に容易い。

 そして、魔族は人族とは違って弱肉強食が露骨。


 やばくね? マジやばくね?


「は、はいーっ!? なんでそんな大事なこと黙っていたんですか!」


 最初に声を出したのはツキだった。


「いや、あくまでも噂っすよ!」

「バカなんですか? 自分のスキルを考えてくださいよ!」


 ツキは足を止め、頭を抱え蹲る。

 その反応を見れば、俺の推測が正しかったと確信した。


 本当に嫌な予感しかしない。

 よく見ると妙にコウモリも多い気がするし。

 ゴーが渋っていた本当の理由はこれか!?

 ってか、これ言うのに渋る理由あるか?

 ハリー○ッターの”例の人”みたいに名前とか、種族言っちゃいけない感じなの?


 ゴーはバツが悪そうに俺の顔を伺っている。


 実際いくら怖かろうが、引き返そうにも引き返せない。

 なんせ、さっきゴーが穴を潰しちゃったから進むしかないのだ。

 はぁ。

 まぁ俺が大丈夫って言って無理にこっちのルートに決めちゃったし、俺にも責任があるな。


「これからはそういう大事なことは隠さずに言ってな?」

「り、了解っす」


 ツキはここぞとばかりにゴーに悪態をついたが、あまりにも素直なゴーに気が引けたのか、早々に文句を言うのをやめていた。


 ってか、そんな危険な洞窟って知っていてここに来るパミザは命知らず過ぎるだろ。




 それから俺たちはかなり洞窟の奥へと進んだ。

 道すがら色々な物を視界に入れながら、奥へ奥へと進んだ。

 そんな中、ツキが側面にある虹色に輝く鉱石を見ながら呟く。


「この辺にある鉱石とかって高く売れそうですよね」

「まぁ、俺たちじゃ換金できないけどな」

「ですね」


 俺じゃなくても分かる、この会話は不毛すぎる。

 何の意味も持たない会話を俺たちは洞窟を歩み始めてから定期的にずっと続けている。

 理由は至極単純で、恐怖心を紛らわすためである。


 ゴーが喋った噂話のせいで、嫌でも緊張感が存在している。

 吸血鬼(ヴァンパイア)がいるかもしれない、そんな洞窟の中じゃ落ち着いて休息も取れない。


 だから俺達は、洞窟の分かれ道に印となる傷をつけながら進み続けている。

 常に体が強張っているせいか、ただ歩くだけよりも数倍疲れるスピードは早い。


 精神的にくる物があるけど、俺はそれだけ。

 二人は肉体的にも疲労が蓄積されているから、もっと辛いだろう。


 俺はふとゴーの方を見た。

 するとタイミングよく同時にツキもゴーを見たらしく、ゴーが慌てて口を開く。


「な、何っすか! まだ不幸は出してないっすよ!」

「まだって……」

「ゴリラは呼吸をするように問題を起こしますから。たった数日の付き合いで、どんだけの不幸にあっているか、数えてみてください」


 多分だけど、俺もツキも本能的にそろそろゴーの不幸がやってくると察知したんだと思う。

 ツキの言葉にムキになったゴーが指を折りながら不幸を数え始めているけど、一個数える度にその記憶が鮮明に思い出されるからやめてほしい。


 俺は話を変えるようにゴーに話しかけた。


「ちょっと聞きたいんだけどさ、この洞窟って妙に綺麗だけど人間は入ってこないの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ