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46  いざ、洞窟へ!

「ここっすよ」


 山の中、洞窟まで案内してくれているはずのゴーが突然足を止めた。


 ここ? どこだ?

 もしかしなくても、この目の前にあるウサギの巣みたいな穴のことじゃないだろうな?

 いや、きっとこれはツキの村で見た幻影魔法的なあれだろう。

 そうに違いない。


「じゃあ、洞窟出していいよ?」

「何言ってんすか? これっすよ」


 いや、これって言われてもな。

 隣を見ると、ツキが表情を引きつらせて穴を見ているし。

 これ、入れるか? ってか、本当に洞窟なの?

 ゴーの顔に嘘をついている様な雰囲気はないけど、マジで?


「じゃ、じゃあ、とりあえず俺が先に行って確認してくる」


 俺は匍匐前進(ほふくぜんしん)の要領で、体を捻らせながら穴に頭を突っ込んだ。

 ウサギの穴とは言ったけど、ギリ俺が通れるくらいはある。

 進むと上から土が降ってくるわ、目に入るわで大変だったが、無事に穴を抜けることができた。


 穴を抜けると、入り口からは想像もできないくらいの広い空間がそこには広がっていた。


 側面には、俺が入ったところ以外にも入り口があるのか同様の穴が複数ある。

 壁や床には発光する苔やキノコ、天井には逆さに生える植物が。

 その幻想的な別世界な光景に俺は目を奪われた。

 ……どことなく、ツキのところの老婆の研究室に似ているかな。


「ルキ様ー?」


 俺が通ってきた穴からツキの声が響く。


「あ、行けたよー! 中はかなり広いから大丈夫ー!」


 ツキに預けていたはずなのに、ちゃっかりと付いてきたカメ吉を抱えて俺は穴に叫んだ。


「じゃ、先に姉御が行ってください」

「言われなくとも、私が先に行きますよ」


 ツキは俺を見習って穴に頭から入っていく。

 ——が。


「……」


 穴を進むツキの動きがパタリと止まった。


「あの、ツキ? 大丈夫?」

「……た、助けてください。ハマっちゃいました」


 途中までは調子良かったのだが、全身が穴に入り身動きが取りにくくなったのだろう。

 ツキは穴の真ん中で動けなくなってしまった。

 不幸中の幸いなのが、俺から手が届く範囲までは手が伸びていたことだ。


「姉御ー、何やっているんっすか」


 ゴーの声音は、こうなることを知っていたかの様に嬉々としている。


 アイツ、絶対に穴の向こうでニヤニヤしているな。

 後でどうなっても助けてやらんぞ。


「今から引き抜くから、体をくねらせて」

「……は、はぃ」


 羞恥心で顔を真っ赤に染めているであろうツキは、両手を俺に引っ張ってもらう形でなんとか穴を抜けた。


「うぅ、ありがとう……ございますルキ様」


 膝をつき綺麗な瞳に涙を浮かべ、顔を赤らめ感謝を述べるツキの頭を俺は撫でた。


「うん、まぁあれだ。気にすんな! ツキは今成長期なんだし、仕方ないって」

「ゔっ、太ってないですよ!?」


 そんなんこと言ってないだろ!?


 励ましたつもりなのに、なぜかツキに声を張られた。

 と、とりあえず、ゴーを呼ぼう。

 きっと標的が変わるだろ。


「早くゴーも来い」

「今行くっすよ」


 未だに若干笑い声なゴーも、俺たち同様頭から穴に入る。


 ……


 …………


 ………………「あれ?」


 予想と違ったのか、ゴーの素っ頓狂な声が穴から聞こえてきた。


 何やってんだよ。

 俺でギリだったんだぞ?

 その後来たツキを見てからだろ?

 もうちょっと工夫しようよ。

 穴を掘って少しでも広げるとか。


「あ、あのー」


 バツが悪そうなゴーの声が聞こえてきた。


「引き抜くぞ?」

「すいません」


 はぁ。

 ハマってる場所が手前すぎて、手が届かん。

 もう戻った方が楽なんじゃないか?


 ちなみに後ろにいるツキはと言うと、ゴーをずっと馬鹿にしてます。

 仕返しのつもりなのだろう。


「プププッ。ゴリラ、私よりも身長低いくせにハマったんですか?」

「違うっすよ! 姉御と違ってこれはルキさんのトレーニングで付いた筋肉っすから」

「はあ!? なんですか。じゃあ私は太っているとでも——…」


 一言余計だぞ、ゴーよ。

 ツキ、お前も少し黙ってなさい。

 太ってなんかいないから。

 成長期で何とは言わないけど、色々大きくなっているだけだから。


 俺は頭に血が上っているツキの背中をさすり、穴にハマっているゴーから距離を離す。


「もう引っこ抜こうにも手が届かないから、いっそのこと穴を広げるよ?」

「……まかせるっす」


 珍しく恥ずかしそうにしているゴーは、俺の提案に乗った。

 すると、さっきまで言い合っていたはずのツキもゴー救出に手を貸し出した。


 なんだかんだ言って、仲がいいんだから。

 まったくもう。


 俺は手と影の手(シャドウハンド)で、ツキは手と見たことない風魔法で穴を広げるように周囲を削りながら掘った。

 慎重に、丁寧に、崩れないように掘った。


 ま、ゴーのアレがそんなことを許してくれることもなく、普通に崩れてゴーは生き埋めにされたけどね。

 はぁ。


「不幸だな」

「不幸ですね」


 俺とツキは呆れたように、手だけ出しているゴーに呟く。




「——って、助けてくださいよ!」




 俺たちの目の前でゴーは不幸を幸福へと変えて、自力で脱出して見せた。

 なんというか、もったいないと思ってしまった自分がいるんだけど。


「はぁ。自分で出れるんだったら、最初っからそうしてくださいよ」


 ツキは土を被るゴーにそう言い捨てた。


 哀れだ。

 かわいそうとは思わないけど、哀れだ。


「まだコントロールできないんっすよ! そもそも、最初に姉御が引っかかったせいで穴が少し崩れたんじゃ……」

「人のせいにするんですか!」


 また一言余計なんだよなぁ。


 何はともあれとりあえず、無事? に三人と一匹は洞窟へと入場できました。

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