44 事後の確認
湖から出た俺は水気をタオルで拭き取り、服を着て冷えた体を焚き火で温めていた。
隣にいるゴーは寝たフリではなく、普通に眠っているみたい。
まぁ、空気を読まない節があるけど、命知らずではないよな。
殺害予告されてまで、バカするほどバカじゃない。
「お待たせしました」
「俺だけ洗わせてなんか悪かったね」
「いえ、そんなこと」
水浴びを終えたツキが俺の隣に腰を下ろす。
学校の宿泊学習で、夜みんなと会う時の風呂上り感っていつもと雰囲気が違っていいなって思ってたけど、あれいいなって思うの俺だけじゃないはず。
だって、今もなんていうか新鮮だもん。
「ルキ様?」
「ん?」
「水浴び前に、私が”任せてください!”って言ったの覚えてますか?」
「覚えているけど?」
俺の返事を聞いてすぐ、ツキは俺の背後に立ち上がり俺の長い髪を撫で始めた。
「少し、目を瞑ってもらえますか?」
「うん」
フューーーーッ
湿っている銀色の長い髪の毛が、薄く開く俺の視界の隅を舞った。
激しく揺れる髪の毛は、ツキの生み出した風になびかされている。
「おぉ」
感嘆の声を漏らす俺に満足そうにツキが喋りだした。
「どうですか? 私の風魔法は」
「うん、すごい。いつ練習したんだ?」
「えへへ」
嬉しそうな声を漏らすツキに、俺も嬉しくなる。
俺が魔法を教えたわけでもなんでもないけど、子供の成長というのは嬉しいものだな。
ツキは手ぐしで丁寧に根本から水気を払っていく。
人肌のような暖かな風と不規則なリズムの手ぐしに、心地のよさを感じて眠気を誘う。
「ルキ様の髪は本当に綺麗ですよね」
ツキは俺の髪を乾かしながら、独り言のようにボソッと呟いた。
「でもツキも十分綺麗な黒髪じゃない? 髪質は近いと思うよ」
「そ、そうですか?」
ツキは嬉しそうに小さな丸い尻尾をふりふりと揺らし、自分の髪に触れた。
これなら確かに乾かすのに時間をかけずに済むだろう。
想像以上にこういった生活魔法は便利だ。
俺も使えないかな。火と闇、だっけ?
……うん、また今度考えよ。
「痒いところとかありますか?」
「ありませーん」
俺が終わってからツキは自分の髪もしっかりと乾かして、寝床についた。
「明日はもっと進めるといいな」
「そうですね」
俺とツキは同時にチラッと眠っているゴーを見る。
ピクッと動いた気がするけど、きっと気のせいだ。
ツキが反応していないんだから、気のせいにちがいない。
そのまま俺とツキは眠りに落ちた。
一方でカメ吉はと言うと、早い段階で甲羅の中に綺麗に首尾手足を収めて眠っていた。
翌朝。
ツキとゴーが撤収作業をしている最中、俺はカメ吉と戯れていた。
あ、決してサボっているわけではありません。
「それにしても、すっかりカメ吉さんに懐かれましたよね」
ツキは羨ましそうな視線をカメ吉と俺に向けながら呟く。
ツキもそんなに懐かれたかったのか、そうか。
カメ吉のことを好きになってくれてよかったよ。
よしっ、後でお世話係を変わってあげよう。
「何言ってんっすか姉御。カメ吉がルキさんに懐いたんじゃなくて、ルキさんがカメ吉に懐いたんっすよ」
「っ!?」
ツキの鋭い視線が一瞬だけゴーに刺さった。
「冗談を言ってる暇があるなら手を動かしてくださいね?」
「いや、冗談じゃ——…」
「え? なんですか、冗談じゃないんですか?」
「……冗談っす」
そんな二人を尻目に、俺はカメ吉を頭に乗せ撤収作業に戻る。
なんとなくだけど、こう言う時のツキは何故か機嫌が悪い気がするし。
サボり終了です。
「あっ、そういえば」
俺はツキからゆっくり離れるゴーを見る。
「なんっすか?」
「昨日ってあの後すぐに寝たの?」
「……寝たっすよ」
ゴーは露骨に俺から視線を逸らした。
この反応は、やっぱり黒だったのか。
まぁ、これ以上の追求はやめてあげよう。
俺は転生時にたくさんの人間に全裸を見られているし、前世の頃からその辺の恥じらいも欠如している自覚はある。
でも、ツキはそうじゃない。
ゴーが昨晩、俺たちの水浴びを見ていたことがバレてもしたら、確証は無いけど多分ゴーの命はない。
今、ツキは機嫌が悪いし。
それは流石に可愛そうだし、無かったことにしてあげよう。
俺、優男やわー。




