42 新しい仲間?
「ただいまー」
野営地に戻ると俺が狩っておいた恐狼の肉を焼くゴーと、野草採取に行っていたツキがそれらでスープを煮込んでいた。
これぞ野営、俺の数少ない趣味の一つのキャンプの醍醐味だ。
いい匂いだね、うん最高だよ!
「あっ、お帰りなさいルキ様」
「どこ行ってたんっすか? そろそろご飯——…って、ルキさん何持っているんすか? 食べ物っすか?」
ゴーは俺の持っている石を見ながら尋ねる。
ふっ、これが食料に見えるとは流石はゴブリン。
やはりおこちゃまには、この渋い石の良さが分からないようだな。
「食いもんじゃない。湖の傍で拾った石だよ。苔と小さな葉っぱの塩梅がいいでしょ? わびさびを感じるね」
俺は渋味のある石を掲げて、見せつけた。
「は? 石? 何言ってんっすか?」
とぼけるゴー。
この渋さが分からないとは、まだまだ未熟者の証だな。
「あの、ルキ様? それ、石じゃないですよ?」
え?
わび・さびなんてよく知らない言葉を用いて、渋味を知ったような言い方で、上から目線で言い放った俺は少し頬を染める。
俺は落とさないように両手で大事に持っていた石にゆっくりと視線を向けた。
ゴツゴツの楕円形で表面には苔が生えており、中心には二枚の子葉が。
それと足が四本あって尻尾と頭がある。
ん?
「なんだこれ!?」
大事に持っていたソレを、俺はびっくりした勢いで落としてしまった。
地面に落ちるソレは、首を伸ばし器用にひっくり返った状態から起き上がる。
「……亀か?」
「……亀ですね」
「……亀っすね」
特徴的な亀を前に、微妙な空気が流れる。
そんな空気のおかげで俺は頭が冷やされた。
とんでもないアイデアが俺の頭の中に降り注いできたのだ。
基本的に、どんなアニメ/ラノベ/漫画作品の中にもマスコット的な存在がいる。
犬や猫、鳥や魔獣に妖精その他諸々。
しかし、俺たちにはそんな存在がいなかった。
亀がなんだ、亀だからなんだ!
関係ない!
俺は落とした亀を拾い上げ、高らかに宣言する。
「亀はこれから俺たちパーティーの仲間にします! 名前は……カメ吉です!」
やばい、今日は妙に冴えてる。
もしかしたら天才なのでは? と自問自答しちゃうくらい冴えてる。
俺は拾い上げたカメ吉の甲羅を優しく撫でた。
「カメ吉、ですか……」
ルキ様、安直ですよ——とは言えないです。
あんなに目をキラキラさせて……。はぁ、尊いです。
「唐突っすね。とりあえず、これからよろしくっすねカメ吉。俺はゴーっすよ!」
んー。
なんか、こんな亀をどっかで見たような聞いたようなことがあるんっすけど……。
なんだっけ?
三者三様な考えが過ぎる中、俺たちに新しい仲間が加わった。
「さ、ご飯できてるんだよね? 冷めないうちに早く食べよ!」
俺はカメ吉を抱えて、ご飯の準備をそそくさと始める。
「カメ吉は肉でいいのかな」
俺は自分の分の肉を小さなカメ吉でも食べられるサイズに千切り、与えてみた。
するとカメ吉はニューッと首を伸ばし、齧り付いた。
ついでにスープに入っている具材の山菜も与えてみる。
カメ吉は気に入ったのか、肉の時よりも食いつきがよかった。
にしても、亀ってこんなに可愛い生き物だったっけ?
こんなに表情が豊かで、美味しそうに山菜を食べて。
これは癒しだ、超癒しだ。
俺のとっさの判断は正しかったようだな。
食事を終えるてすぐ、俺とゴーは恐狼の毛皮を敷いて寝る準備を始めた。
俺は隣で作業するゴーに対して皮肉を呟く。
「明日はもっと進めるといいな」
「え、なんっすか? 皮肉っすか?」
「うん」
皮肉だよ。
だから、そろそろ不幸はコントロールしてな?
「それに最近はお前のせいで色々疲れることも多いし、久々に早く寝れることに喜びを感じるよ」
「皮肉っすか?」
「……寝るぞ〜カメ吉」
「逃げてます?」
「は? 逃げてないけど。だいたい誰から逃げるのよ?」
「まぁ、いいっすけど」
とりあえず納得してくれたみたいでよかった。
ちなみに逃げてはいない。
焚き火の周りに敷き終わった毛皮に俺とカメ吉、そしてゴーが川の字になって横になった時、ニッコニコなツキが話しかけてきた。
「じゃあ、白ゴリラは永遠におやすみなさい。ルキ様、寝る前に水浴びしますよ。お背中はお流ししますから」
「……へ?」
「ルキ様、”へ”じゃないですよ?」
俺はツキの言っている意味が理解できなかった。




