41 湖の辺にて
俺達は山を迂回しながら雑談を交わし続けて数日が経過した。
内容は無いようだけど、笑い怒り照れ等々のたくさんの表情の色が俺たちパーティーを彩った。
中でも印象に残っているのは、吊り橋を渡る最中にゴーが橋を踏み抜いた時の事かな。
いや、崖にできていた細い道を歩いている最中にゴーが道を崩したことか?
いやいや、森でゴーが魔物に囲まれたこと?
それよりも、現在進行中で獲物をかたっぱしからゴーが捕まえそびれていることか?
……あれ?
「おい、白ゴリラ! いつになったら”不幸”の垂れ流しを止めてくれるんですか!」
我慢の限界が来たのか、ツキが声を荒げる。
このままじゃ全く進めないぞ。
しかも、なんでか知らんけどゴーは後頭部をさすりながらニヤニヤヘコヘコしているし。
少しは反省して欲しいもんなのだが。
責めようにも生まれ持ったスキルだし強く言えないんだよな。
ゴーは自分の都合が悪くなったらすぐ笑って誤魔化すし、本当にいい性格しているよ。
はぁ。
ゴーに関して言えば、もう慣れるしかないんだろうな。
「もう、今日は陽も傾いてきているしこの湖の近くで野営しようか」
俺の提案で疲れを癒すために、普段よりも早めに野営の準備を始めた。
周囲は静かで、綺麗な湖には月明かりと山が映り込んでいる。
ここはすごく落ち着いていて、心が安らぐ自然豊かで綺麗な場所だ。
キャンプ場にしたら人気が出そう。
「ゴーのスキルはいろんな意味で効果絶大だよな」
「そうっすか? ま、不幸が垂れ流しの状態って感じっすけど、すごいですかね?」
”不幸垂れ流しの状態って感じっす”じゃないよ。
切実にどうにかして欲しいよ。
でもこのデメリットがなかったら、ゴーがスキルのオンオフをしっかりとコントロールできたら、世界のパワーバランス崩壊もいいところだろうな。
この世界の最低位魔人であるゴブリンが持つスキルにしちゃ、強力が過ぎる。
「まさか、本当に不幸を移されるとは思ってもいませんでしたけどね」
「故意に移しているわけじゃないっすよ!」
地獄耳のゴーがツキの独り言に過敏に反応した。
未だに魔人ってこと以外分からない、不死身で正体不明な俺。
第一印象は普通な大人っぽい子だったけど、最近ボロが出始めている熊耳っ子のツキ。
不幸、ふこう、フコウのゴー。
この世界で一番変なパーティーだろうな。
共通性は皆無だし、種族的に見ても敵対関係にある人族と魔族が入り混じっているし。
でもそれがまた、変だけど楽しいって感じる要因なのかも。
悔しいから絶対に口では言わないけど。
設営終盤、俺は二人を野営地に残して湖の周りを散策しにやってきていた。
断じてサボりではない。
息抜き、そう息抜きだ!
問題児のお守りは体力を使うから、癒しを求めて散歩中なのだ!
俺は常識人だからな。
……虚しい。
自分で言うことではなかった。
でもま、不幸は厄介極まりないスキルだけど、賑やかになるのは間違いないよな。
ゴーはあのスキルにあの性格だから、すぐにツキとも馴染めていた気がする。
はぁ、憎めないキャラって得だよな。
馬鹿みたいに騒いで、喧嘩しあえるのはいい仲間だと思う。
あんな態度のツキだって、心からゴーを嫌っているわけじゃなさそうだし。
夜空を見上げると無限にも見える星が輝き、湖には逆さに映るでかい山と星、それと月が浮かんでいた。
異世界の月は変な色かと思っていたけど、そんなことはない。
強いて言うなら、数が二個あることくらいだ。
そのせいか、一人でいると転生したってことを忘れてしまいそうになる。
俺は拠点から少し離れた砂利浜に腰を下ろす。
仲間が増えれば、楽しみもやれることも増えてくる。
なにより、世界征服のようなものにも繋がるよな……。
よくよくは、国でも創って隠居生活を送るか?
男子高校生の知識じゃ、無理あるか。
俺は近くに落ちている平べったくスベスベな石を手に取り、それを湖に向かって投げた。
「ほっ……三回か」
——ってか世界征服って、どうすれば征服したことになるんだろ?
ずっと気軽に口にしていたけど、世界征服ってそもそも何だ?
どこがゴールなんだ?
別に暴虐と非道に満ちた殺戮をしたいわけじゃないし。
目的も曖昧だし。
「よっ……五回もいった」
だれか知恵ある者が仲間になったら、本当に人族魔族問わずの国でも創ってみるか。
君臨すれども統治せず的な?
人族と魔族の垣根を壊したら、それはもう世界征服をしたと言ってもいいのでは?
数多の作品の主人公達は少なくとも表面上は平然とこなしていて『すごいな』、『俺でもできんじゃね』とか思っていたけど、そんなに甘くないよな。
だって、俺は未だに所持金0だし。
ついさっきも思ったけど元年齢が高校生の俺が、建国する知識なんてない。
そもそもこんな容姿じゃ、付いてくる奴なんてツキとかゴーみたいな物好きしかいないよな。
もっと掘りが深くてかっこいい感じの、漢って感じだったら威厳があんのに。
もっとも、人に出会せば襲われるこのご時世に、共存国家とか無謀もいいところではあるけど。
「ふんっ……二回」
結局のところ一人で考えても考えが纏まらないし、戻ってからツキとゴーに何をしたいか聞こう。
当分はアイツらのしたい事を目標にすれば、いいよな。
考えが一通りまとまった俺は、最後に一つ石を掴んだ。
それは楕円形で、中心に向けて膨らんでいる平べったくないゴツゴツとした石。
普通、水切りをする上でそんな不向きな石は拾わない。
でも、その変わった石は表面が苔で覆われ、石を割るように中心から子葉がちょこんと生えていた。
その渋味が故郷”日本”を感じさせるワビサビな雰囲気があり、気に入った俺は石を手にツキ達が待つ野営地に戻った。




