40 目的地に向けて
「本当にありがとうございました。ルキ様方には感謝してもし尽くせません」
「そ、そう?」
朝、俺たちが集落から旅たとうとしていた時に、貧相とはかけ離れたゴブリン達が見送りをしに来てくれていた。
こう感謝されると、普通はまんざらでもない気持ちになるだろう。
しかし、現状俺は気まずいというか、後ろからの視線がウザいとしか感じていない。
今回解決したのは紛れもなくゴーの力だ。
それを言える雰囲気ではないけど。
でもだからこそ、感謝は俺にじゃなくてゴーだけに言ってもらえれば、後ろでドヤ顔されずに済んでいたんだけどな。
はぁ。
「それで、その、見返りの件なんですけど。あのようなことだけでよろしかったのですか?」
「うん。任せるよ?」
「はいっ。この命に変えても必ず。我らゴブリン一同は貴方様の下部、このご恩は決して忘れません」
この地にはかなり長居した。
住み心地はそれなりに良かったし、なんだかんだあったけど住みやすかったんじゃないかな?
ツキの替えの服や荷を運ぶためのリュックも貰っちゃったし、食事も宿もそれなりによかった。
それに、俺の”要求”を飲んでくれたおかげで、俺は後腐れなくこの森から出られる。
成長した彼らなら俺の要求もしっかりとやり遂げてくれるだろう。
「じゃ、色々とお世話になったな。近くに来たらまた来るから、その時はよろしく」
「はっ、いつでも。いつまでもお待ちしております」
「うん、ありがと」
グリノーンの歓迎の言葉に、俺は笑顔で頷く。
すると、彼は俺の耳元まで口を運ぶ。
「ゴーのこと、よろしくお願いしますね」
「う、うん」
早速だけど自信がなくなってきた件。
最後に俺はグリノーンやパミザ、その他みんなと軽く挨拶を交わしてから村を出た。
※
村を出てすぐの頃、後方を歩くゴーから啜り声が聞こえてきた。
あんだけドヤ顔決めて格好つけて村を出たくせに、結局は寂しかったんだな。
ふっ、次は俺のターンだ。
「なんだゴー、泣いてんのか?」
「いや、泣いてないっすよ」
「ゴリラでも泣く事あるんですねー」
ツキも俺同様、反撃するつもりだ。
ゴーは目尻に溜まった涙をしれっと拭い、ニヤニヤしているツキに対してジェスチャーを見せる。
どうやら昨日の酔ったツキの真似をしているみたいだけど、それはもう今更だよ。
しかし、ツキは顔を真っ赤にして揶揄うのをやめていた。
訂正、今更でもなかったみたい。
「あっ、そういえばルキさん。さっきグリノーン村長と何を話していたんっすか?」
「ん? 見返りの話のこと? ちょっとやってほしいことがあったから頼んだだけだよ」
「やってほしいこと……、そうだったんですね。ちなみにですけど、何を頼んだんですか?」
ツキが微笑みながら俺の顔を覗き込んだ。
なんか、圧を感じるような。
別に変なお願いしてないんだけど。
やましいことも、何も。
「いや、大したことじゃないよ」
「ふーん……。そうですか」
なに、その相槌。
君は感情が渋滞しているよ。
「何はともあれ、ホントに村を助けてくれてありがとうっすよ」
「ははは……、助けたのはゴーだけどな」
嫌味か!
蒸し返すなよ。
俺は肩を落とす。
が、まぁ、なんかいい感じだなと思ってしまった。
獣人とアルビノのゴブリンで種族はバラバラだけど、異世界で冒険しているって心から実感できる。
俺が望んでいた異世界生活って感じで、なんだか胸がいっぱいだ。
「そういえばルキさんってどこに向かっているんですか?」
ツキと論争中のゴーが尋ねてきた。
「あぁ、言ってなかったけ? ”リンピール”って街だよ。あそこなら冒険者登録ができるかもって思ってね。俺の、まぁ父親みたいな人がそんなこと言ってたから」
「私はその方にお会いして、挨拶をしなくちゃですね」
何を言っているんですか、ツキさん。
「リンピールっすか? よくわかんないっすけど、わかったっす」
知らんのか。
まぁ知らんよな。
「でも、その前にこのデカすぎる山を迂回しなきゃ、冒険者とか以前の話なんだけどな。いつまたレヴィーラが襲ってくるか分からないし」
「あれ? ルキ様って、世界征服しながら冒険者するんですか?」
「確かにルキさんって世界征服を企てる魔人なんっすよね? ……全然そんな雰囲気じゃないっすけど」
普通はそう思うよね。
俺だって世界征服するとは言っているけど、目処が立っていない。
でも、そもそも俺は冒険者志望だ。
人外になっても性別変わっても、根本は変わらない。
あくまでも付属で世界征服——っ!?
「フッフッフ、その辺は考えがあるから任せなさい!」
俺は無い胸を張って言い切った。
名案が浮かび上がったのだ。




