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C2  人間の希望の一欠片

 僕は玄武騎士団本部内を探し回っていた、全力で走っていた。


 討伐隊が帰ってきたんだ。

 総団長、エドガルドさんが無事帰ってきたんだ。


 順番に、勢いよく扉を開け続け、何番目になるだろうか。

 僕は広間へと続く大扉を開けた。


「エドガル——…っ!?」


 戻ってきたということ以外は事情を知らなかった僕は、目の前の光景に目を見開き絶句した。


 手足があらぬ方向に折れ曲がっている者。

 一目で重症とわかるまでの火傷を負わされた者。

 僕同様に部位欠損が免れない者。


 しかし、彼ら彼女らはまだ生きているだけ良い方かもしれない。

 絶命している者なんかは見るに堪えない。


 首がない、骨が剥き出したまま砕かれている、口から臓物を吐き出している等々。

 そこに生還者は半分もいなかった。

 いや、明らかに数が足りていない。

 オーバーキルもいいところである。

 遺体も一緒にテレポートされたのは、遺族の方々への配慮なのだろうけど……。


 彼らはただの騎士団ではない。

 王国の四方を担う騎士団の一角、玄武だ。

 それにシルバー階級の冒険者達。

 その双方がボロボロ、壊滅的な状態で広間いっぱいに埋め尽くされていた。


 無事なんかじゃない、無事なわけがなかったんだ。

 そもそも、あの魔人を討伐できたとしても帰ってくるのが早すぎる。


 そんなカオスの中、サミドル大隊長と言い合いをしているエドガルドさんを見つけ、駆け寄った。


 しかし、なんて声をかければ……。

 剣の腕は頭一つ抜き出ているし、何よりも魔法の階位は英雄クラスの総団長の目尻に涙が溜まっている。

 何があったんですか? なんて、そんなことは聞かずともこの現状が物語っている。


「——…っ!?」


 エドガルドさん目が合ったと思ったら、顔を逸らされた。

 すると、さっきまでエドガルドさんと揉めていたサミドルさんが話しかけてきた。


「君は、クリス君だったな」

「は、はい」

「そうか」


 僕の名前を聞くや否や、サミドル大隊長は周囲を見渡しながら口を動かす。


「まぁ、見ての通りだ。討伐は失敗。一人の魔王軍幹部の介入によって壊滅的ダメージを与えられた」

「…………えっ?」


 今、なんて?

 一人? 幹部?

 どう言うことだ?

 魔人ルキは、噂通り魔王軍関係者だったのか?

 いや、介入って——…


「仲間が焼かれた。俺たちを助けるために、先輩方も死んだ」


 悲壮感漂うエドガルドは、クリスと目を合わせずに口にする。

 ルキではない別の魔人によって、エドガルドさんは地獄を目の当たりにしたってことだろう。


 あれだけの大規模な人数と戦力を持ってしても、魔王軍幹部一人に惨敗。

 僕は再び周囲を見回す。


 恐怖、絶望、苦痛、劣等感、虚無感、それら負の感情で広間は埋め尽くされている。


 生き残った騎士も冒険者も、完全に恐怖を植え付けられてしまっている。

 今すぐ立ち直れと言うのは、無理な話だ。

 でも——


「これで、終わりじゃないですよね?」


 僕の一言にサミドル大隊長も同意見なのか、エドガルドさんを見ている。

 しかし、返事がない。


「総団長、貴方の口癖を思い出してください! ”仲間の死を無駄にするな” ここで諦めたら、本当に無駄になってしまいますよ! 総団長だって、覚悟の上だったのでしょう? 出発前に必ずこの中から亡くなる方が出るとおっしゃっていたではないですか!」


 叫ぶ僕をエドガルドさんは睨むが、僕は臆さずに続けた。


「僕たち人間は弱いんですよ。それは分かりきっていた事じゃないですか! 奴らからすれば僕達人間なんて、劣等種族の有象無象なんです! だからこそ協力して、強大な敵に立ち向かうんじゃないですか?」


 返事がない。

 するとサミドル大隊長が口を開いた。


「クリス君の言い分はもっともだ。しかしだな、エドガーは別に死が怖いんじゃない。仲間を、だな」

「分かっています。総団長の人間性くらい承知の上です。でも」


 そう簡単には克服できるものじゃない。

 僕だってその辛さは体験したし、まだ克服はできていない。

 こんな下っ端騎士の言葉に、だれも気持ちが和らがない。

 でも……。


「僕が力をつけます。何年かかろうが、僕が魔人を、魔王を討ち取ります! 仲間の死を無駄にしないために」

「君の意思は尊重したい。君だって被害者なのに、強い心を持っていると感心している。だがな……」


 サミドル大隊長の視線が僕の無くなってしまった右腕へと向いていた。


 言いたいことは痛いほどわかる。

 もっともな意見だ。

 だからこそ、僕は覚悟を決める。


「サミドル大隊長」

「なんだ?」

「僕はもうこの体じゃ、騎士団員としては動くことはできません。そうですよね?」

「……」

「騎士団を抜けさせてください」


 こんな体じゃ、騎士団の足手まといになってしまう。

 それは僕の本望ではない。


 僕は体を反転させ、再び頭を下げてから部屋を出た。


 今、僕達人類に必要なのは”希望”だ。

 僕は、僕の弱さを知っている、そして悔いた。

 だからこそ、僕が希望になれるなんて、そんな痴がましいことは考えていない。

 でも、その希望の一欠片にでもならなきゃいけない。


 そう思った。


 それが片腕しかなくても、子供の魔人に圧倒的な力の差を叩きつけられても。

 強くもっと強くならなくてはいけない、と。


 そうしてクリス・キャリーは騎士団を抜けて冒険者になった。

 修行の一環、力をつけるために。




 騎士団玄武はたった一回の討伐に行って大打撃を受け、戦力の1/3を失った。

 元々の目的は達成されていない上に、王都近郊で魔王軍幹部が暗躍している。

 更に人類共通の認識で、勝手にそう考えていた”魔王は単数”ではなく、複数存在するという事実が発表されたのである。

 それを耳にした国民は、討伐隊の出発時のお祭りムードとは一変して、全く異なる騒ぎが起こった。


 それから程なくして魔王が複数人存在するという事態は人類国家間で激震が走ることになるが、それはまた未来のお話。









−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



〜提示可能ステータス〜



 名前:クリス・キャリー

 種族:人間 / −−−ランク

 性別:♂

 称号:−−−

 属性:−−−


固有(ユニーク) スキル :−−−

E X(エクストラ) スキル:−−−

スキル:−−−

魔 法:−−−



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

今章の『大森林の騒動編——(人)』は終わりです。

次話より新章に入り、ルキ達に物語の視点は戻ります。

今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この正義マンが強くなるのかな?萎えそう 何せやってる事は盗賊と変わらない蛮行 しかも自分達が正しい思い込んでる 救いようが無いね。
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