35 魔人討伐計画が進みだす
テントの中には大きな円卓が設置されており、各冒険者のパーティーリーダーに玄武騎士団の隊長格数名が既に席についていた。
「すまない、待たせたな。今から魔族討伐の会議を始める」
そして夕暮れ時に会議が始まった。
会議の内容をまとめるとこうだ。
冒険者は各々が自由に動いたほうが最大限の力が出せるとのことで、お互いを邪魔しない限り自由に立ち回る遊撃を担う。
これには組織だった動きよりも、相手を翻弄できるとの意もあった。
騎士団は小中隊規模をまとめて即席大隊にし、半数が壁で半数が魔法で支援と攻撃を行う。
目標である魔人は影を自在に操ってくるとの話だから、第Ⅱ位階の光魔法”閃光”を使える者が全方向から放ち影を作らないで動く——と言うのが会議の内容だった。
会議にはそれなりに時間を有したが、その後の親睦を深めるための夕食会はそれなりに良い策となった。
冒険者と騎士とでは身分が違う。
しかし、今回の作戦では背中を守り合う歴とした仲間だ。
互いを信じられなければ、作戦の成功率が下がるだけ。
だから、夕食会は周囲の雰囲気を良いものへと変えていった。
女騎士を口説こうとして玉砕返り討ちに遭う冒険者に、肩を組んで歌っている男達。
明日が決戦。
それを忘れささせるくらい賑やかに騒ぎ、夕食を食べ、談話を楽しんだ。
しかし、それらは長くは続かなかった。
ドドドドドドドドドドドドォォォォーーーーーーン!!
突然、森の中から体の芯に響くような爆音が鳴り響き、地面が微かに揺れ、少し遅れて生暖かい風が吹き荒らしたのだ。
皆好き勝手に騒いでいたが、流石は一流のベテラン騎士達に上位ランク冒険者。
その音が普通でないと悟るや否や、とっさに戦闘警戒態勢に入った。
「何事だ!」
「総団長、森の方から爆音が」
エドガルド達会議メンバーは、そのまま会議用テントで食事をとっていたため外の状況を詳しくとは理解していなかった。
当然、爆音そのものは聞こえてはいたが。
「もしや、気づかれたか?」
エドガルドは外の状況を見てからテントへと戻り、各指揮者達に指示をだす。
「夜の戦闘は分が悪い。交代しながら見張りをつけ睡眠をとり、陽が昇るのと同時に森へと入る。それまでは、気を抜かずに適度に休憩を挟んでおけ」
エドガルドの言葉に、彼との同期でいつも気怠げな雰囲気のあるサミドルが机に突っ伏しながら返答した。
「エドガー、そんなに慌てなくてもいいんじゃね?」
「うるさいぞ、お前はもっと危機感を持て」
「はーい」
その後は指示通り、交代で睡眠をとりながら周囲の警戒をするというのを繰り返して討伐隊一行は一夜を過ごした。
陽が登り芝についた朝露が太陽の光に輝きを見せる少し霧がかった心地の良い爽やかな朝。
討伐隊は隊列をなして前に立つエドガルドの言葉に耳を傾けていた。
「今より森へと突入する。魔人を見つけるまでは大きく三つの部隊に別れ、全方向を警戒しながら進むぞ。絶対に単独行動はするな。今から対峙するのは気を抜いたら殺される、そんな相手だ。くれぐれも注意せよ!」
「「はいっ」」
「「うおーっ」」
今、この討伐隊の心は一つだ。
総団長エドガルド発案での昨晩の夕食会の件で、仲間意識はしっかりと芽吹き、強敵との緊張感も相まって統率は完璧になりつつある。
討伐計画には抜かりはない。
「出発!」
救護班や調理班数名と馬を残し、一行は森へと突入していった。
選出された約80名は大きく三つの部隊に別れ、広範囲を索敵しながら森を進む。
「痕跡があり次第随時報告せよ!」
エドガルドの指示が人から人へと伝達されていく。
そうして歩く事わずか数分。
一番右端の部隊から伝令が伝わった。
「焚き火の跡があります」
焚き火、か。
ここら一帯は王猩々の縄張り故に、人ではない。
十中八九、例の魔人だな。
そう遠くへは離れてはいないだろう。
「全部隊へ注ぐ、進行方向を東方へと変更せよ」
クリスの情報によると、この先の獣人の村で我が小隊は全滅したとのことだが……。
魔人め、一体どこに向かっていやがる。
それから程なくして、再び右翼の部隊から声が上がった。
「総団長! 木が、木がなぎ倒されています!」
すかさず中央からも、そして左翼からも声が上がる。
「こちらもです!」
「こっちもだ!」
木がなぎ倒されている光景がエドガルドの目に映るのも、その直後だった。
「これはっ!?」
広範囲に展開された討伐隊の前には、幅約50メートルで一方向からまっすぐ木がなぎ倒され、森がえぐられていた。
なんなんだ、この破壊力は。
昨晩の音の正体は間違いなくこれだな。
「目標が近くにいる可能性は高い。皆のもの、注意せよ!」
これほどの力を持つ強敵。
王都でこんな超破壊力を使われていたと思うと、顔が青ざめ体の震えが止まらない。
二、三人程度の人的被害なんて物じゃ済まされない。
一種の魔王級ではないか。
こんな存在が今まで明るみになっていなかったなんて、本当に信じられない。
幸いといえば、情報だと相手はまだ子供だということ。
人類という種族の滅亡回避の為に、1秒でも早く始末しなくては手遅れになる。
きっとコソコソと伝令を回したところで、これだけの力の持ち主だ。
相手は既に俺たちの存在に気づいているに違いない。
エドガルドは、左右の部隊に聞こえる声を大にして警戒を叫ぶ。
この攻撃跡は昨晩の出来事だ。
木の倒れた方向を見れば、誰だって攻撃が来た方向がわかる。
情報は人間最大の武器である。
まず、この攻撃は何に対して放たれたのか確かめる。
「先にこの攻撃の要因を調査するぞ」
エドガルドの指示で、討伐隊は木が倒されている方向へと進み出した。




