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31  エドガルドの原点——②

「止まれ、ゴミ共!」


 俺は先を歩く衛兵の背に言葉をぶつけた。


「あ?」

「許さない。お前達は殺す。全員殺す!」


 衛兵達は振り向き、俺を見て笑い出した。

 人通りの多いメインストリートに繋がる道だったからか、瞬く間に人だかりができる。


 この国は腐っている。

 現状を知らない、知ろうともしない無知無能な馬鹿ども人の上に立つから、国民も馬鹿ばっかりなんだ。

 そんな国、俺が全部ぶっ壊す!

 全員死ね。死して亡者を償え。


 俺は盗んだ剣で衛兵に斬りかかった。

 しかし、何の訓練もしていない非力な子供の剣などはあっさりと弾かれてしまう。


「言ったよな? 次は無いぞって」


 尻餅つく俺に、衛兵達が三人で囲み立つ。

 そして公開処刑が始まった。


 野次馬達はさらに盛り上がりを見せ、俺はボロカスに殴られ蹴られ罵詈雑言を浴びさせられている。


 分からない。

 何をそんなに盛り上がっている?

 馬鹿で無能で非道なこんな愚民どもが。

 何が面白いんだ? 何を笑っているんだ?


 顔は腫れあがり、手足もあらぬ方向へと折れ曲がる。


「何か言いたいことがあるのか? 自分がしてしまった過ちに気づいたか?」


 衛兵は折れ曲がる俺の腕を乱雑に掴み持ち上げる。

 ぐらつく視界には笑みを浮かべる衛兵の顔が映った。


 過ちだと?

 言いたい事なんてクソほどあんだよ。

 過ちを犯したのも貴様らだ。


「なんか言えよ」


 うるさい。


「もう喋れねえのか?」


 黙れ。


「じゃあ、謝ろうか?」


 喋るな。


 消えろ。


 爆ぜろ。


 俺の前に二度と立つな——


「クソどもがああぁぁーーーーーーっ!」




 ドゴオオオオォォォォォーーーーーーーーン!




 力を振り絞り、俺は天に向かって大声で叫んだ。


 それと同時に大地を轟かす雷鳴と一筋の稲妻が近郊に落ち、俺をボコボコにしていた衛兵は皆感電したのかバタバタと白目を剥いて口から泡を拭き倒れていく。


 その直後に俺の意識は飛び、糸が切れたように倒れた。






 雷鳴を聞きつけた王国直属の騎士団の一人がすぐさま現場に現れた。


「何事だ!」


 野次馬はそのまま。

 周囲に人だかりができており、割って中に入ると泡を吹く衛兵3人とボロボロな少年が一人倒れていた。


「何があったか説明しろ!」


 彼は隣にいた男の肩を掴み、説明を要求する。


「あ、マルティンさん。何でこんなところに——」

「いいから説明しろ!」

「は、はい。そこの子が騎士になんか怒鳴って襲い掛かったんですよ。まぁ、あっけなく負けてボコボコにされたんですけどね。そしたらいきなりその子が突然叫んだ、と思ったら雷が落ちて。で、今に至るってわけです」

「——っ!?」


 最初っから最後まで見てたのか?


 彼、マルティンと呼ばれた男は王国の四方を守護する総騎士団長の一人だ。

 剣だけの腕ならば、大陸で3本の指に入ると言われている剣豪。

 それだけに人気も信頼も人望も発言力もあり、人一倍正義感の強い男だった。


 そんなマルティンが少年を抱き抱える。


「この少年は外傷が目立つが魔力の枯渇か……? おい、この少年を城の治癒室へ送っておけ」

「はっ」

「他三名は身柄を拘束して連れていくぞ」

「了解!」


 マルティンは部下に指示を出し終えてから、未だに唖然としている野次馬達を睨みつけ声を荒げた。


「この少年がこんなにもボロボロになっていたのに、助けようと行動した奴はいなかったのか!」

「い、いやですね」

「事情なんか聞いてない。相手は子供だぞ!」


 マルティンは額に青筋を浮かび上がらせる。


「おいっ、追加で任務だ。こいつら衛士の主人を城に呼べ」


 それだけ言い捨て、マルティン達騎士数名は王城へと帰還した。




        ※




 目を覚ますと俺は綺麗な真っ白なベッドで横になっていた。


「おっ、目を覚ましたようだな。大丈夫……じゃないよな」


 腕は丸太のように太く頬には傷があり、白く輝くフルプレートの鎧を纏った中年の男が声をかけてきた。


「お前は誰だ。ここはどこだ」


 おかしい、記憶が曖昧だ。

 ひどく頭が痛い。

 いや、頭だけじゃなく全身が痛い。


「俺は王国直属の四騎士団の一つ、西方担当の白虎の総団長、マルティン・プーディックだ」

「お前もか」


 なぜだか、憎悪の感情がこみ上げてくる。


「あぁ、誇り高き騎士だ。お前に会わせたいお方がいるんだが、一緒に来れるか?」


 奴は図々しくも手を差し伸べてきた。

 俺はそれを払う。


「俺にそんな事をする義理はないだろ。助けろなんて頼んでねぇ。助けろ……?」


 この瞬間に全ての記憶が戻ってきた。

 俺に何があったのか、どうして全身が痛むのか。

 お前ら、上がしっかりしていないせいだ。

 俺の親の仇だ。


「俺はお前ら騎士も貴族もみんな嫌いだ。人の上に立つのは馬鹿ばかりだ。何が誇り高き騎士だ、重税に苦しんで死んでいった人のことも知らない、痴がましいんだよ!」


 怒りと憎しみが溢れ出る。

 いてもたってもいられなくなった俺は、騎士を自称するいけ好かないマルティンに殴りかかった。


 きっと避けられる。

 どうせ、またボコられる。

 それでも、俺がやらなきゃ親がまた馬鹿にされる。


 俺は拳を血が滲むほど強く握り、顔面目掛けて殴りかかった。


 しかし、俺の予想とは反して、マルティンは避けることも反撃することもせず、俺の攻撃を真正面から喰らいながら頭を下げた。


「すまなかった」


 俺は言葉失った。

 誤ったところで父さん達は帰ってこない。

 現状だって何も変わらない。

 こいつらに対する怒りだって消えるわけではない。


 でも、初めてだった。

 俺の言葉に耳を傾け話を聞き、平民の中でも貧民に位置している低身分の俺に頭を垂れて謝罪をした人は――


「……話だけ聞いてやる。会わせたい奴って誰だ」


 信用できるかどうか悩んだ末に出た俺の言葉に、マルティンは顔を上げ驚く。


 この少年は幼くして本当の苦しみを散々味わってきた。

 それでいて、仇である騎士の私の言葉に耳を貸すとは。

 騎士として、一人の男として報いねばならん。


「王だ」

すいません。

昨日、今日と少しバタついていて、投稿が進みませんでした。

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