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26  戦後処理で、進化?

 魔王軍幹部の蛇女(ラミア)、レヴィーラとの戦いから十数日が経過した頃。

 未だに俺達はゴブリンの村に滞在していた。

 理由は、治療が思った以上に大変だったからである。


 俺はツキが寝ているグリノーンの仮住宅へと足を運んだ。


「ツキ、調子はどう?」

「はい、元気ですよルキ様」


 俺を庇い気を失ってしまったツキは、戦後一番に建てられたグリノーンの仮設住宅で療養してもらっていた。

 意識はつい先日戻ったばかりだが、一応順調に回復してきている。

 火傷も一番酷かった腕がまだ少しヒリヒリするみたいだけど、軟膏や薬草等が効いているみたい。

 あと数日は必要だけど、傷はすっかり消えるだろうとのこと。


 流石は異世界。

 このスピードで火傷の傷が消えるとは。


 ちなみに、毒はツキが寝ていた時に治療は終わった。

 初期の毒の廻りは早かったけど、ツキが吸った気化毒そのものは大した事なかったみたい。

 それでも、呪術師パミザが三日三晩寝ずの治療が必要だったけど。


 ツキは回復の一途を辿っている。

 そのことに関してはホッとしているが、俺の罪悪感が拭えた訳ではない。


 一時の間、ツキは顔以外は包帯で巻かれて外傷に火傷、体内では毒が蝕みボロボロの状態だったのだ。

 ツキに作ってあげた鹿のローブは、かろうじて装飾用に散らしていたクリスタルの欠片の回収ができたけど、それ以外は焼滅してしまった。

 だいぶ気に入ってくれていたみたいだったけど、申し訳ない。


「本当にごめんな。覚悟も何もない、甘えた考えだったせいで」

「ルキ様は悪くないですよ! それに、相手は魔王軍幹部ですもん。むしろ、ルキ様がいたからこそ私はこうしていられるんですよ?」

「うっ」


 実際、こうして皆が無事なのは俺のおかげではない。

 ゴーのおかげなのだ。

 だが、その事実をツキは知らない。


 別に秘密にしていたわけではないよ。

 最近になって、ようやく会話ができるくらいに元気になったばかりだから、話すタイミングがなかっただけ。


 ……話すか。


 そう思った矢先、ツキが自分の火傷の痕を摩りながら口を開いた。


「あの後って、結局どうやって勝ったんですか?」

「あの後、な。心して聞けよ。まず、今回勝てたのは俺のおかげじゃない。幹部を、レヴィーラを倒したのはゴーだ」

「?」

「ゴーの奴が一撃で殴り飛ばした」

「……え? あー、はい。…………えっ? 一撃、ですか?」


 ツキはお手本のような驚きを見せてくれる。


 まぁ、ビビるよな。

 魔王軍幹部を一撃って、どんな冗談だよ。

 俺だって、ツキの立場ならそうなっていたかもしれない。


 現実っていうのは、時にそういった常識の範囲外にある。

 俺はこの世界に来てから、そう思い知らされることばかりだ。


 俺は驚いているツキにもう少し詳細に語り出した。


「ゴーのスキル【不幸】の効果なんだけどな。今までの不幸を攻撃力という名の幸福に変換したおかげで、レヴィーラは場外ホームランを打たれたんだよ」

「ほ、ほーむらん? ……そうですか」


 ツキは俯き、声のトーンを少し下げる。


「どした?」

「私は、もっと強くなりたいです」


 ツキは床のシーツを握りしめる。


「ルキ様の足を、引っ張りたくないです」

「ん? 足を引っ張られたなんて思っていないぞ? そもそも——…」

「でも! でも、ルキ様と同等レベルで戦えていたら。……ゴーさんの様に」


 うーん、そんなに焦らなくてもいいんだけどな。

 でも、ツキの表情が沈んでいくのは見たくない。


 俺はツキの手を上から握った。


「これからだよ。まだまだ強くなるんでしょ? 一緒に頑張っていこ?」

「……はい」


 ションボリとしたツキの返事。

 いつもの元気いっぱいな返事じゃない。

 幹部と対峙して生き残ったっていう事実が、俺は大事だと思うんだけどな。


 そんな中、部屋に人が入ってきた。


「失礼します」


 部屋の暖簾もどきをくぐって現れたのは二人のゴブリンだ。


「ルキ様。お知り合いですか?」


 ツキは二人のゴブリンを見た後、首を傾げて俺に問うた。


 そっか、ツキにはこっちの事も話していなかった。


「右がグリノーン、左がゴーだよ」

「ん?」


 再び首を傾げるツキ。


 理解できていないな、これは。

 まぁ、言いたいことは分かる。


 俺は二人に目をやった。


 数日前まで貧相な体つきだったゴブリンには筋肉がつき、体躯も少し大きくなっている——というか、骨格そのものが変わってる気がする。

 今ではもう、あの頃の貧弱ゴブリンの面影はほとんど無い。

 正直、前のゴブリンとは別種族にしか見えない。


 こうなった原因?

 俺だけど、なにか?




 それは幹部戦を終えた次の日のこと——


 幹部を追っ払ったとはいえ、また来る可能性があるよな。

 どうしたもんかね。


 俺が今後のゴブリン達の対処を考えている時、前線の記憶の中にある一つの作品に行き着いた。


 最強といえば?

 皆は何を思い浮かべるだろうか?

 俺は即答でワンパ○マン、と答えるだろう。

 どんな敵も一撃で倒すヒーロー。


 これだ、って思った。


 だから腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そして森中でランニング10km、これを毎日継続してやるよう命じた。


 変化が出始めたのは、驚異の速さ。3日目あたりからだった。

 筋肉が発達し、体躯も大きくなっていき、魔力容量も上がり——…




 気付いたらこんなんになっていた。




 だって、次またなんかあった時、同じ徹を踏まないようアドバイスしただけだよ?

 ここまで変わるなんて、誰が思うよ!

 少数だけど、はぐれの恐狼(ダイアウルフ)を森で捕獲し調教・使役している奴もいるし。


 もう侮れない。


 なんか、背にツキの視線を感じる。

 別にツキが床に伏せている時に遊んでいたわけじゃないよ?

 ずっと心配してたよ?


 雄のゴブリンは筋骨隆々で、まさに”森の番人”たらしめる姿に。

 最低位魔人のゴブリンじゃ、「元は森の番人」なんて言われても信じられなかったけど、今なら信じられる。


 雌のゴブリンはトレーニングの成果か、引き締まった綺麗な筋肉が付き、人間の姿に少し近づいた気もする。

 それ故に、身につけている衣類がボロボロで胸部等の限界が近そうで目のやり場に困っているのは内緒である。


「戦の後、ルキ様の指導のもと皆で訓練を行うことになりまして。次またいつ何が襲ってくるか分かりませんから。せめて自分の身は守れるように、と」


 グリノーンがツキに簡潔に説明してくれた。

 そして、片膝をつき頭を下げる。


「お二方に相談がございます」


 グリノーンは真剣な面持ちで俺を見据えた。

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