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23  VS魔王軍幹部の蛇女——②

 炎海はレヴィーラを捕らえる影の手(シャドウハンド)を焼き払い、自由を取り戻す。


「んな無茶苦茶な」

「私にスキルを使わせるなんて、本当に強いわね。でも、もうお仕舞い」


 地面に埋まっていたのか、はたまた炎海に沈んでいたのか。

 レヴィーラは大きな双剣をどこからともなく引き抜いた。


 右手に握る剣からは紫色の、見るからに毒のような液体が垂れている。

 対になる左手に握る剣は、炎を纏っている。


 すごく強そうだし、かっこいい。

 けど、そんな流暢なことを考えている場合じゃい。

 あれは本気だ。今までとのオーラがまるで違う。


 レヴィーラは地面を泳ぐように動き回り、俺を翻弄する。

 先日の戦闘の際、ツキに死角を作っちゃダメとか言っておきながら俺は隙を作ってしまった。


 そこをレヴィーラは見切り、予測不能な尻尾で俺を空高く打ち上げた。

 レヴィーラは透かさず双剣の背を合わせ、二本の剣を一本の大剣のようにして構える。


「っ!?」


 液状の毒が合わせられた剣の炎によって気化し、周囲に毒ガスを撒き散らす。

 その中にある可燃性のガスが剣の炎に引火し、肥大化する大剣。


 気付いた時には、その毒と豪炎の大剣を振りかぶるレヴィーラは俺の目の前にいた。


「ちょっ……」

「バイバーイ!」


 俺は叩き斬り落とされた。

 切られたところから炎と毒ガスが溢れ、血の雨が振り付ける。


「あれ、死んじゃった? ルキちゃーん、おーい」


 白々しくのそのそと近づいてくるレヴィーラ。


 なんでだ。

 物理攻撃耐性は?

 呼吸しづらいのは毒か?

 状態異常無効だろ? この息苦しさはなんだ?

 さ、寒い……。


 俺の意識が朦朧とする中、最後に見た景色はツキの今にも泣きそうな状態で走って近づいてくる姿だった。




        ※




「ここにいるってことは……」


 見覚えのあるあの暗い空間、そして目の前にいるゲイル。


「ようルキ。久しぶりだな」

「いや、久しぶりって」


 その挨拶はおかしいだろ。

 ここにいるってことは、俺は死んだってことだ。

 もうちょっと、なんか他の言い方ってのがあるでしょ。

 まぁ、そんなことはどうでもいいや。


「なんで俺は死んだんだ?」


 そう、知りたいのは死因だ。


 3回も死ねば一々驚いたりはしない。

 慣れというのは怖いものである。


「今回の死因はダメージの蓄積と出血多量による血液不足だ。ちなみに、死ぬ間際のルキの内臓はスクランブルエッグみたいになっていたぞ」


 うわぁ、知りたくなかった。


 俺は無意識にお腹を抑える。


「って、そうじゃなかった! もう行くわ!」


 こうしてはいられない。

 最後にツキがこっちに走ってきていた。

 ツキに勝ち目はない。


 しかし、急ぐ俺はゲイルに足止めさせられた。


「まぁ、そう慌てるな」

「無理」

「よく考えてみろ。こっちにいくらいたところで、戻った時の時間の進み具合に違和感を感じたことはあるだろ?」

「……そ、そういえば? でも今はそれどころじゃ——」

「いいから聞け。ここには”生”が無い。当然、時間という概念も無い。お前がいつ生界に戻ろうが、死んですぐに息を取り戻すのと差して変わらん。数秒の誤差がある程度だ」


 ゲイルは真剣な面持ちで重要そうな事を言っている、けど。

 何を言っているのかよく分からない。


「つまり、どゆこと?」

「分からんのか!? まぁ、要するに、ここに百日百年いたとしても向こうに戻る時間は変わらないって事だ」


 要は話を聞けってことか。

 でも、ツキが。


「ルキの言い分も十分承知している。あの獣人が気がかりなのだろ? だが、どっちみち数秒の誤差は生じるんだ。だから話を聞いていけ」


 ツキが心配でそれどころじゃない。

 が、ゲイルの言っていることも一理ある。

 どうせ戻る時間が変わらないなら、話を聞く方が利口な選択だな。


 俺はコクリと頷いた。


「よし。まず、いくらスキルが進化したからと言って、【物理攻撃耐性】は()()万能じゃない。過信しすぎだ」

「うっ」


 ぐうの音も出ない。

 確かに、俺はそのスキルに万能感のようなモノを抱いていた。


「あくまでも耐性が付くだけで、質量の差が圧倒的にある場合や高レベルな相手の攻撃、意志のない間接的な衝撃は受けるし食らう。それと、【状態異常完全無効】があっても炎の攻撃も毒の攻撃も状態異常にならないだけで普通に食らうからな」

「な、なるほど?」

「それと、最後に寒いと感じたのは毒じゃない。血液不足だ。毒は効かないと言っていたろ」

「……」


 信用できなかったとは言えない。


 ゲイルの話から推測して、レヴィーラの攻撃に加えて瓦礫等にも少しずつダメージを加えられていたという事みたい。


「今回の授けるスキルは2つ。【自己再生】と【痛覚緩和】だ。わかったな」

「うん、ありがとゲイル」


 多分、俺は初めて素直にゲイルに感謝した。


「あとこれは素朴な疑問なんだが、なぜ黒炎を使わないんだ? 全方向広範囲に発動すれば、魔力のコントロールが出来なくとも強力な攻撃になっただろうに。あの蛇女(ラミア )の出す炎ごと燃やせる威力はあるはずだぞ?」

「マジか。やってみるわ」

「ふっ、まぁ精々頑張ってみたまえ。足掻いてみせよ!」


 偉そうに踏ん反り返るゲイルに、俺の感謝する気持ちが薄れていく。

 そもそも、最初にちゃんと説明していればこうはならんかっただろ。


「はぁ。もう行くわ」

「頑張るんだぞ、ルキ! それと、たまには遊びに来てくれ」

「俺に死ねって言っているのか? 遠慮しておくよ」


 別れ際に軽く冗談をぶつけ合い、俺は魔法陣に飛び込んだ。

 振り向くと、ゲイルはその容姿や今までの態度とは合わない笑みを浮かべている。

 目が合うと、我が子を送るように手を振ってくれた。

 俺はそれに応えるように「行ってきます」と手を振りながら帰還した。




「行ったか……」


 ゲイルはルキが戻っていったのを確認してから、魔法陣の近くにある水晶に近き手をかざす。


 これはおまけだぞ、ルキ。

 前世も今世も何もしてやれない、不甲斐ない父のせめてもの贈り物だ。


《更新しました》

《個体名ゲイルの魔力を元に作成……成功しました》

《個体名ルキ・ガリエルの魔法技【黒炎】をスキルへ移行》

《スキル【炎熱耐性】を獲得しました》

E X(エクストラ)スキル【炎熱操作】を獲得しました》

《続けて魔法技【影の手(シャドウハンド)】をスキルへ移行》

E X(エクストラ)スキル【影操作】を獲得しました》

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