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22  VS魔王軍幹部の蛇女——①

「よーいドン!」


 レヴィーラさんの気の抜ける合図と共に、戦いが始まった。


 先に動いたのはレヴィーラさんだ。

 初接触の時と同様に目にも止まらぬ速さで接近し、尻尾を鞭のようにしならせ俺の横腹を殴打する。


「ぐっ……」


 王猩々(キング・エイプ)のローブが衝撃を吸収してくれている。

 それに、俺には【物理攻撃耐性】という頼もしいスキルもある。


 しかし、それらは殆ど機能しなかった。

 俺はその威力のあまり武器であるΨ(モリ)を落とし、凄まじい勢いで左から右へと吹き飛ばされた。


「まーさーかー。一撃で終わるなんてことはないよね? ルーキちゃんっ」


 民家に激突し、瓦礫の下敷きになっている俺を、レヴィーラさんは素早く、そして器用に尻尾で持ち上げた。


「……まだまだだね。()ヴィ()()()


 縛られながらも、余裕ぶって答える。

 そうでもしないと精神的、空気的に敗北を認めてしまいそうになる。


 想像以上に実力差がはっきりしていた事をこの一撃で理解した。


 レヴィーラの締め上げる力が徐々に強くなってきている。

 体の内側から、普通に生活していたら聞こえるはずもないヤバめの音が鳴る。


 こりゃ、骨の何本かは折れたな。


「強がっちゃって。ルキちゃんの苦しんでいる顔、痛いのを我慢している顔、私は大好きよ♡」


 不敵な笑みを浮かべながら、更に締める力を強めるレヴィーラ。

 細い舌で自らの唇を舐め、ニヤニヤと俺を見ている。

 いちいち所作がエロいって思えるくらいには、心に余裕があるな。

 でも——


「まだ、本気を出していないだけだ」

「ウフ」


 クソッ、このサディスティック姉ちゃん嫌いだ!


 何が優しそうだよ!

 見る目なさすぎだろ俺。

 ちょー痛いし、怖い。エッチいのは、まぁいいけ——…


 イタタタタタッ!? 

 ちょ、マジやばいって。


 俺は持てる力全てを使って、レヴィーラの束縛から逃げ出し素早く距離をとった。


「ハァハァ」


 呼吸が一気に荒くなる。


 そりゃそうだ。

 こちとら骨は折れるわ、勝機が見えないわで満身創痍なんだから。


 対しいてあっちはまだまだ余裕がありそうで、無傷。

 それどころかアイツは俺が逃げ出したってのに、笑っていやがる。


 きっつ。

 幹部戦キッツいわ!


「私だって本気じゃないのよ? だって本気出になったら、()()()()()()()()死んじゃうもん」


 またルキちゃん逃げ出したわね。

 一度ならず二度までも。

 まだ魔法を使っていないとは言え、かなり強めに捕まえていたはずのに。

 気絶どころか、普通に立っているところを見るとまぐれだったって訳じゃなさそうね。


 一体、ルキちゃんって何者なのかしら?

 外も内も全部調べ尽くしたい。

 ルキちゃんを知りたい。

 ルキちゃんが欲しい。


 そしてルキちゃんを——


「食べちゃいたい!」


 レヴィーラは地を這い滑るように接近し、バネのように伸縮させた尻尾を俺に突き出した。

 間一髪のところでそれを躱すが、俺の動きを予測していたのか着地点に先回りされた。

 再び捕まる俺は、鈍臭いのでは? と自問自答してみる。


「ねぇルキちゃん。もう我慢できないの」

「……え?」

「食べちゃいたいくらい可愛いルキちゃんが悪いんだからね」


 何を言っているのか分からない。

 レヴィーラの唇がどんどん近づいてくる。


 この時のことはよく覚えていない。


 必死になってもがいたけど、身動きが取れなかった?

 それとも逃げ出そうとしなかった?

 俺には分からない。難問すぎる。

 ただ、俺は自然と目を瞑っていた。


 しかし、俺の期待とは裏腹に首元にチクッと痛みが生じた。


「……」


 全身から力が抜ける。


「うん、美味しい。ルキちゃんの甘美な首筋は、良かったわよ。ついでに神経毒も盛ったけどね。これでしばらくの間ルキちゃんは動けません。私専用のお人形になった感想は?」


 レヴィーラは舌舐めずりをしながら、あえてゴブリン達に聞こえるような大きな声で告げる。

 そんなレヴィーラに対して、俺はゆっくりと口を開いた。


「悪いね。残念だけど、俺には毒は効かないんだよ」

「強がらなくてもいいのよ?」

「本当に残念だったけど……。次は俺の番、影の手(シャドウハンド)


 俺はレヴィーラの影から関節が曖昧な真っ黒の無数な手を召喚して縛り返す。


 動きの止まっている相手を捕らえるくらい、造作もないのだよ。

 フッ。毒を喰らったフリをしただけで油断するなんて、まだまだだな!

 知ってたよ、毒攻撃していることくらい。

 でもね、強者であればある程、最後の瞬間に気を抜くもんね!

 これ常識。


 だから! 決して! 落胆したとかではない!


 ちょこーっとだけ、足の小指の爪の先くらいの淡い期待はあったけど。

 でも、うん。作戦通りだ!


 縛られ宙に浮くレヴィーラから骨折している胸部を庇いながら抜け出し、ドヤ顔で見上げる。


 哀れだな。

 さてと、ここから交渉してやらんでもない。


「降参する?」

「フフフ、馬鹿な事言わないでよルキちゃん。本気で殺したくなっちゃうから」


 レヴィーラの真紅の髪が、重力を無視して炎のように揺らめき出す。


紅蓮炎海(グレン・エンカイ)!」


 村全体にも及ぶえげつないデカさの魔法陣。

 炎は螺旋状に広がり、名前の通り辺り一面が炎の海に包まれた。

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