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21  動き出す両陣営

 結局、魔王軍の幹部様と戦うことになってしまった。


 不幸中の幸いなのが、レヴィーラさんが配下を連れずに一人で来ていたことだろう。

 数でゴリ押しにされたら打つ手がない。


 俺はツキとゴブリン達にどこかに隠れるよう指示を出す。

 巻き込まれたら、簡単に命を落としてしまうだろうし。

 それじゃ、後味が悪いからね。




 俺は戦局を予測する。


 瞬きする暇もなく俺に絡みつくスピード。

 攻撃の軌道を予測するのが困難な柔軟な尻尾。

 それでいて、魔王の幹部だ。奥の手の一つや二つは持っていて当然だし、実力も折り紙付きだろう。


 対して俺は転生してから間もないし、魔力のコントロールも疎かな様。

 動いていない敵なら、死角からの奇襲ならまだしも。

 それでもって、あの凶器(おっぱい)だ。

 集中力散漫で動揺しまくりな不安定な精神。


 うん、俺の負け色が濃いな。


 一応、死ねば復活できる。

 耐性もつくし、完全の状態で復活する。

 でもレヴィーラさんは言った『殺さない程度に殺す』と。

 あの目はマジだと思うんだ。


「準備おーけーかな、ルキちゃん」

「一応……」


 余裕の笑みを浮かべるレヴィーラの内心は、対峙するルキの事をかなり警戒していた。


 あの子、私の束縛から簡単に抜け出していた。

 そんなことができる程の魔人なのに、見たことも聞いたこともない。

 私の本気には到底及ばないだろうけど、警戒は必要ね。

 手は抜かないわよ、ルキちゃん。


 レヴィーラはルキを可愛いだけの魔人ではなく、搾取されるだけの存在ではなく”敵”として認めたのだ。


「じゃあ行くわよ。よーいドン!」


 こうして、俺と魔王軍幹部のレヴィーラの戦いの火蓋は切って落とされた。




 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 ——時は少し遡り。


「今宵、我々は憎き獣人を庇護する異質の存在。魔人ルキ・ガリエルの討伐に向かう! 悪いがここにいる何人かは死ぬだろう。だがしかし、それは無駄死にではない! 栄誉ある人間としての死であり、その死は無駄にはならない! 魔人、魔族を絶つ糧になる。何があっても気を抜くな! 我ら人間に栄光あれ! 覚悟ができた奴から我に続けー!」

「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」


 玄武の総騎士団長エドガルドの号令で、優に100名を超える大規模討伐大隊が王都を出発した。


 魔人一人屠るには、誰が見ても過剰戦力だった。

 しかし魔人ルキ・ガリエルはエドガルドを怒らせてしまったのだ。


 あの、悪夢の災禍を再び起こさせない為にも。


 一方で、王都の住民達は軽くお祭り騒ぎ状態だ。

 パレードのようにその出発式を盛り上げる。

 集まる野次馬。

 便乗して商売を始める商人。

 水のように酒を浴びる飲んだくれ。


 直接討伐に関わらなくとも、たくさんの人間がその場に集結していた。


「エドガルド総団長自らとか。魔人も気の毒だな」

「おいっ見ろ。あの冒険者パーティー”混沌”じゃね? 今、一番勢いのある」

「こりゃ勝利は揺るがないな。俺たち商人も、一時的とはいえこのビッグウェーブに乗るしかないだろ!」


 人が集まり、少なくない金が動く。

 この大規模な討伐が成功すれば、さらに金が動く。

 王都にいる商人はやる気だった。


「だいたいよ、なんでたかだか魔人一匹にこんな人数を動員するんだ?」

「おま、知らないのか!? 相手は動かずにして玄武のカーネリア様率いる小隊を瞬殺にしたんだぞ? 魔王の新しい幹部じゃないかって噂もあるくらいだしな」


 それを聞いて野次馬は目を見開く。


「誰だよ、そんな嘘みてぇな話流した野郎は。今回の標的って、この前突然王都に現れたっつうチビだろ?」

「そうだが?」

「おりゃは見た。あいつは弱そうらった」

「お前の言葉には説得力がないんだよ、酒樽ジジィ!」


 ——といった感じで、大いに盛り上がりを見せていた。

 一人の騎士を除いて。


 クリスは皆の出発式には出席せず、教会に出向いていた。


 彼だけが知っている、奴の恐怖を。

 皆は奴を軽視している節があるが、それは怠慢であり悪手だ。

 だからこそ皆が無事に戻ってこれるよう、一人でも少ない被害の数で帰ってこれるようカタリーン教の女神に祈祷していた。


 エドガルド総団長は信じろと言っていた。

 あの方の実力は本物だ。でも、それは人間基準。

 あの化け物に果たして人間が勝てるのか。


 彼の不安は拭えない。


 クリスは左手を胸に片膝付き、何度も何度も祈りを捧げた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] クリスは両手を合わせとありますが彼は右腕を失っているのでは
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