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18  逃げ場がないので折れました

 握手を交わした後、俺達はこの村の呪術師の元を訪れていた。


 理由は単純明快で、魔力感知を教えてもらいたかったからだ!

 やっぱ、そういう危機感知センサー的なものって旅には必要不可欠じゃん?

 勿論、本題はゴブ達をどう助けるかだけど、魔力感知も、ね?


 俺は呪術師の薄暗い家屋の中に足を踏み入れた。

 そこで待っていたのは長髪で目元をハチマキで覆い、首には魔物の歯が目立つネックレスをしているいかにもなゴブリンだった。


 うん、これは呪術師だな。

 なんていうか、イメージ通りすぎる。

 で、その隣にいるのは誰?


 俺の興味は一瞬で切り替わる。


 基本的には個体差はあるものの、ゴブリンの肌は緑色で髪が灰色。

 背丈は言うほど小さくはないけど、大きいわけでもない中途半端な感じだ。


 しかし、俺の目に映っているゴブリンは白い肌をした変色種だった。


 ツキもそれに気づいたのか、俺と一瞬目が合う。


「わたくしが呪術師のパミザであります。こちらにいるのが、息子兼助手のゴーであります。皆と容姿は違いますが、怪異な存在ではありませんのでどうかご容赦を」

「ゴーです」

「…………あっ、俺か。俺はルキ・ガリエル。こっちは」

「私はツキ・サークです」


 これで一応主要メンバーは出揃ったな。


 俺達は軽く自己紹介を済ませ、変色種のゴブリンをチラチラ見ながら本題に入った。


「まず、助けると言ったけど、俺達は何をすればいいんだ? 敵は何だ?」

「敵、といいますか。魔王軍幹部の方からの徴兵を断っていただきたいのです」

「あ、そうだったそうだった。……は? 幹部から?」


 あれ? 聞いてた話と違くない?

 魔王軍の手の者が来るって言ってなかった?


 いや、確かに幹部も魔王軍の手の者だけど。


 言っちゃ悪いけど、たかがゴブリンを徴収する為に幹部自らが来るとは思わないじゃん!

 無責任に契約成立だの報酬だの、やってみるだの言ったけど無理だろ。

 だって相手は幹部でしょ?


 話通じないだろ? 実力行使できたらどうするよ?

 ど、どうするよ?


「その程度、ルキ様なら容易にできます! お任せを。ねっ、ルキ様!」

「へ?」


 俺の隣にいるツキが、俺の顔を覗き込むようにして自信満々に()()()告げた。

 それを聞いたゴブリン達から歓喜の声が溢れる。


 やばい。


「お、おいツキ。相手は幹部だぞ」

「はい!」


 俺はツキの目を真っ直ぐと見つめて、今までにないくらい真剣な表情で問う。


「……いいか、俺を見ろ」

「ふふふっ、可愛いですよ」

「違う、そうじゃない! このチンチクリンが魔王軍の幹部を相手にできると思うか? 率直に答えてくれ」

「ルキ様なら余裕です! 私たちの村を救ってくれたみたいに、ワンパンです!」

「いや、あのな」

「そんなにご謙遜しなくてもいいんですよ?」

「あーっ! 違うんだよー!」


 山越えの時と言い、今回と言い、ツキは何を根拠に俺をそんなに信じているんだ!?

 崇拝レベルじゃないか!

 俺は駄目チクリンのいたいけな幼女だぞ!


 しかも、ゴブリン達が俺に対して異様なまでの好印象を持っているあたりから、ツキはノリノリだったし。

 それがお前達のやり方かー!


「はぁ。わかったよ。できる限り善処しますよ」


 折れた俺の投げやりな一言に、周囲から歓喜と安堵の声が聞こえてきた。


 まだ徴兵を断ったわけじゃないんだけどな。

 でも、とりあえずこれでどう助けるかの目処はたった。

 頭を地面に擦り付けて、誠心誠意幹部様に土下座する。

 恥も自尊も知ったこっちゃない。


 俺はやるときはやるんだから。


 さて——


「最後に。ずっと気になっていたんだけど、彼はアルビノか? 怪異とは最初っから思っていなかったけど、突然変異種だよな?」


 そんな素朴な疑問に、少しガヤガヤしていた呪術師宅の付近に静寂が訪れた。


 えっ、これってタブーだった感じ?


「えぇ、まぁ。ゴーは貴女様が仰る通り”アルビノ”というやつです」


 呪術師パミザがゆっくりと口を開いた。


「ゴブリンには数十年に一度、こういったアルビノ種が生まれます。アルビノ種は強力な固有(ユニーク)スキルを持って生まれる代わりに、大いなる災いをもたらすとされているのです」

「災いねぇ」


 なんか、思考が人間みたいだな。

 人とは違う奇異な存在を迫害するってシステムを作り出している感じ。

 別に、アルビノである必要はないだろうに。


「実際に災いはあったのか?」

「いえ。災いというよりは、ゴーの生まれ持ったスキルの【不幸】が、ですね……」


 不幸?


 なんじゃそりゃ。

 生まれ持っての不幸ってか?

 アルビノってだけで除け者なのに、スキルにまで見放されてるじゃん。


 ん? アルビノが生まれ持っているのは強力なスキルなんだよな?

 デメリットだけ、ってことはないだろ。

 不幸、不幸か。


「少しいいか? ゴーと話がしたいから、少しの間借りるよ?」


 俺は隅っこに立っていたゴーを手招き、ツキと共に外に出た。




 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 その頃、王都ではクリスと北方騎士団『玄武』の総団長のエドガルドとで魔人ルキ・ガリエルの討伐準備が着々と進められていた。


 冒険者ギルドでは高額報酬の討伐依頼を募集し、集まった冒険者約50名。

 冒険者ランクでアイアンのベテランが多数、中にはネームド持ちのシルバーや第Ⅲ位階の使い手までもがいる。

 プラスで北方騎士団玄武からはベテランや凄腕が約60名。

 総数100名以上の人が外壁前の大通りに収集されていた。


 そんな中、討伐隊の最高指揮官である玄武総団長のエドガルドが演説台に立つ。


「我々は今日より十日後に魔人討伐の遠征に向かう。信じがたいが、先日我が軍の小隊規模が一撃で全滅させられた。敵の名は”ルキ・ガリエル”。この間、王都を騒がせた魔人と同一である! コンディションを整え、出発まで気を緩めるな! 見た目が子供(ガキ)でも油断すれば死が待っていると思え! 遠征を完遂した暁には、私の奢りで宴でも何でも開いてやる!」

「「うおおおおぉぉぉぉっ!」」


 騎士団、そして冒険者の雄叫びが煌めく夜空に響き渡る。


 演説を終えたエドガルドは、演説台の後方で待機している金髪の片腕騎士、クリスの方へ歩み寄った。


「クリス」

「……はい」

「今回の討伐にお前は連れて行かない」

「っ!? ですが——」

「お前の怪我じゃ死ぬのは確定だ。足手纏いになる。俺を信じてここで待ってろ。あと、腕一本で剣を振るうのは大変だ。鍛錬を怠るな」

「分かりました」


 エドガルドはクリスの肩に手を置き、自室へと帰った。

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