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07  適正属性

 今いる洞窟は村よりも少し高い位置にあるおかげで、村の現状を目視することができた。


 全壊とは言わないけど、かなり荒れてるな。


 中央の広場には生き残った獣人たちが集められている。


「行くか」

「お待ちください。貴女様お一人で行かれるおつもりですか?」


 腰を浮かす俺に、犬耳の男キリムが話しかける。


「私も微力ながらお供させていただきます。あそこは私の村ですし、地形にも詳しいです。きっとお役に立って見せます」


 キリムが双子に老婆とツキの事を任せるような仕草を見せ、立ち上がる。


 うーん、悪い提案じゃない。

 確かに立地に詳しい人がいれば、奇襲もできるやもしれない。


「分かった。でも、無理は禁物だからね」

「はい」


 ま、自分の村は自分で守りたいよな。

 傍観してるだけじゃなんか嫌、って気持ちは分からなくもないし。


 俺は装備を整え、洞窟の入り口へと立ってから振り返った。


「行ってくるわ」

「行ってきますね、オババ様」

「お待ちください。これをお一つお受け取りください」


 老婆はそう言うと、懐から飴玉サイズの何かを取り出した。


「これは?」

「これは種子(シード)と呼ばれるもので、この中には私たち同様の第六感を得ることが可能なスキル【精神感応(テレパス)】が入っております」


 シード……。

 第六感で、獣人(彼ら)はテレパシーを使える。

 それのスキル化されたのがテレパスって感じか?


 こんな物どこで手に入るのか、実は物凄く価値がある物なんじゃ?

 でも、スクロールとか魔法書でそう言った魔法やスキルが覚えられるって言うのはファンタジーあるあるだし。


「じゃあ、もらっておくね」


 俺はシードと言われている物を、口に放り込み飲み込んだ。


「どうか、私たちの村をお助けください」

「任せろ!」


 俺は親指を前に突き出し、心配させまいと笑顔を見せて洞窟を後にした。




        ※




「おいっ。これで全員か?」

「はい! 村の隅々まで探しました。隠れている者も、もういないかと」


 討伐隊の騎士団を仕切る小団長は、微かに笑みを漏らす。


「罪深き獣人如きが人間の真似事などおこがましい。貴様らに村などは不要だ。一生奴隷、檻の中で飼われていればいいのだ」


 広場に集められた獣人を抜剣した騎士がぐるっと囲み込む。

 許可なく動く者、喋ろう者なら凄まじい音で鞭打ち。


 そんな胸糞悪い光景を、俺とキリムは息を殺して草陰から見ていた。


「っ!?」

「なぁ。見たくなかったら、嫌だったらここに残っていていいぞ?」

「……いえ、大丈夫です」

「そう」


 俺はこれ以上は言わなかった。

 本人が大丈夫と言っているのに、部外者の俺がしゃしゃり出ていい問題ではない。


「じゃあ、これからどうする? 俺的には、真正面からぶっ飛ばすのが手っ取り早いと思うけど」

「いえ、流石にそれは」


 やっぱ?

 でも、王都での交戦を思い出すけど余裕そうだよ?


「ルキ様」

「さ、様!?」


 むず痒いな。

 様呼びって、俺そんなに偉くないんだけど?


 俺を無視してキリムは続ける。


「知っているかと思いますが、本来上位の魔人の魔力量は人を遥かに凌駕します。魔法が使えるってだけで、戦況はどう転んでもルキ様の優位性は傾きません。先に適正属性を調べに、オババ様の研究部屋に向かいましょう」


 キリムは腰を低くしたまま、村に背を向け逆方向に進み始めた。

 しかし、俺はそんなキリムの肩を掴み足を止めさせる。


「待って。適正属性が分かったからって、魔法がすぐ使えるようになる訳じゃないんでしょ?」

「それはそうかもですが、適正を知ってるのと知らないのとでは雲泥の差があります。魔法とは言わば想像、感情、深層心理の具現化した物です」

「……わかった」


 否、ちっとも分かってはいない。

 けど、それじゃあ格好がつかないから一応、ね?

 魔法なんて使えるようになるのか不明だけど、従っておこう。

 キリムはこっちの世界に元からいる住民なんだから。




 しばらくの間キリムと俺は村とは真逆に進み、一本の切り株の前で足を止めた。


「幻影魔法です」


 俺の疑問を先読みしたかのように、キリムは切り株に触れ魔法を解いた。

 切り株の中心には人一人が入れるサイズの穴が開いてある。


「それじゃあ、行きましょうか」

「お、おう」


 穴を降りると、中には真っ直ぐな道が伸びており、地下にもかかわらず光虫が飛び交っているおかげで視界は良好だ。


「ここにあるの?」

「はい。ここにある全ての物は、おばば様の研究した物です。ポーションや魔道具など、様々な分野の研究をなさっていた場所です」

「ほへー」


 一本道の途中にある部屋を指しながら、キリムは答える。


 そこにはとても幻想的な空間が広がっていた。

 どこが水源か分からない滝、部屋を飛ぶ光虫や発光するキノコ、一面に広がるシダ植物。

 中央にはL字で木製の作業机がポツンと置いてある。


「ここで少しお待ちください。魔結水晶を探してきますので」




 それから程なくして戻ってきたキリムの手には、淡い氷彗色に輝く水晶があった。


「じゃあ、この水晶に魔力を流し込んでみてください」

「魔力……。どうやって?」

「あ、そうですよね。えーっとですね、自分の中にある魔力に意識を集中させてですね」


 うーん、ん?

 ちっとも分からん。

 そもそも、魔力が何か分からないんだから、自分の中もクソもない。


 とりあえず気合を込めてみた。


「——っ!」


 結果、顔が赤くなるだけでダメでした。


 そんな俺の様子を見て、キリムは身振り手振りで再度説明する。


「流れをイメージするんですよ、イメージが大事なんです。魔法とは自分にとってどういうものだとか、色だったり形だったりとか、自分の奥底に意識を集中して、空気中に漂っているであろう魔気に干渉する感じです」

「うーん……」


 イメージと言われてもね。

 やっぱ、魔法といえば火かな。それもド派手な感じの炎。

 全てを飲み込む炎。


 あとは、俺の心を蝕む闇の力とか?

 今こそ解放されし、我が闇の力よ!


 俺はもう一度言われた通り水晶に手を触れると、徐々に紅色と黒色のモヤモヤした煙のようなものが水晶の中に現れた。


「おぉ、なんかでた」

「二属性ですか。ルキ様の魔力の質は、火と闇に合って——っ!?」




 パリンッ!!




 適正属性が分かったと思った矢先、水晶にヒビが入り跡形もなく破裂した。


「ご、ごめん!」

「い、いや、いいんです。大丈夫ですよ」


 そうは言っても、顔が引きつってるじゃん。

 貴重だったりする? 俺、無一文だから弁償とか言われても無理だよ?


「ちょっと、驚いただけですから本当に大丈夫ですよ。この水晶が耐え切れないほどの魔力量だなんて——って思っただけですから」

「ほ、本当?」

「はい」

「そ、そっか。まぁ、とにかくごめんね。あと、ありがと」

「じゃあ、助けにいきましょう!」

「よっしゃ!」


 用を済ませた俺たちは、早々に地下通路を進んだ。

 研究部屋を出て通路の突き当たりの梯子を登り、上方にある木の蓋を外し上へと上がる。

 どうやら、民家へと繋がっていたみたい。

 騎士(奴ら)もここまでは詳しく見ていなかったのだろう。


 俺たちは安全確認をした後、その民家の二階へと上がり、窓から外の様子を伺った。


「ん? あれってツキじゃない?」

「——っ!?」

「ちょ、キリム!?」


 窓の外を見るや否や、突然キリムは走り出して民家を飛び出た。

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