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00  プロローグ——①

「何故だーーっ!?」


 俺は腹の底から大空に向かって吠えた。


「おい、うるさいぞ。隣で発狂されたら、オレまで変人扱いされるだろうが。もう諦めろよ」

「悪いが無理だ。それはできない」


 俺、白井慎平(しらいしんぺい)は高校入学と同時に幼馴染の今田良太(いまだりょうた)とアニメ研究部を立ち上げた——と言っても、部員数はまだ二人だけの同好会で、趣味100%の遊部もしくは娯楽部なのだが。


 俺は身長が人よりも少し高いだけで、取り柄と呼べるものは殆ど無い。

 しかし、良太は違う。


 文武両道で何をやってもそつなくこなし、人当たりもよく眉目秀麗だ。

 男子からは言わずもがな、女子からも人気がある。どこぞのラノベの主人公のような奴だ。


 俺はそんな良太が、俺の我儘に付き合ってくれているのは正直嬉しかったし、周囲からの視線も込みで悦に浸っていた。




「俺の予想で一番の優良株だったファンタジー系RPGでも無理だとは……」


 くそ、予定が狂うな。

 二人きりの部室でボソッと呟くと、良太が視線を上げた。


「いや、そもそも、そう言ったテンプレはVRMMOだろ?」

「へ?」

「今、この時代にフルダイブ型のゲームなんてないだろって言ってんの。2Dで、どうやって()()するつもりだったんだよ」

「それは、ほら。ね?」

「はぁ。図書館で謎の本も探したし、深夜にコンビニにも立ち寄った。わざわざ田舎にまで行ってトラクターの周りをうろちょろしたこともあったな。その他にもいくつも試した。もう、諦めろよ」

「それはできない提案だぞ! 俺は絶対に()()からな!」

「どうやって?」

「……死ぬ、とか?」


 俺は少し間を開けて、真剣な顔でそう応えた。

 が、その返答を冗談と受け取った良太は笑いながら答えた。


「できもしないことを言うなよな」


 これが正しい反応ってのは百も承知だ。

 でも、俺は割と本気の面構えで言った手前、少しだけ意思疎通ができなかったことに悲しみ? のようなものを抱いた。


 正直なところ、今の世界に未練はない。

 いや、少しはある。


 それは、未使用の息子を使用済みにしてあげたい。即ち、童貞を卒業したい。


 俺の住む東京での童貞を卒業する年齢は、平均で16,7歳と聞く。

 でも、それは普通の、平均値の人間であればだろう。

 俺みたいな人見知り全開のコミュ障に言わせてもらえれば、そんなのは夢物語だ。

 幻想だ。


 だからこそと言っていいのか、俺的には童貞を卒業するよりも異世界に行く方法を探す方がよっぽど現実的なのだ。




「俺はやるからな。漢に二言は無い!」




 俺は座ってた椅子から立ち上がり、良太に指を差しながら宣言した。


「はいはい、お前の口癖には聞き飽きたよ」


 こいつ、相変わらず信じてないな?

 まぁ、付き合ってくれるみたいだから別にいいけど。

 俺の真剣っぷりが伝わっていないのは、どうにも悔しい。


「いいか、決行予定日は今週の土曜。転生あるあるで、殺人鬼か通り魔を探して——…」

「馬鹿だなお前は。平和な日本で、今時そんな大それたことする奴が現れる訳ないだろ?」


 ため息混じりで言ってくる良太。

 いや、絶対はないだろ? ない、よな?


「じゃ、じゃあ、電車を使って飛び降り——…」

「迷惑だからマジでやめろよ」


 またしても何も言い返せなかった。


 俺の目標である異世界への行き方については、全く進展しない。

 けど、そんなことを議論し話し合い、笑い合う日常は好きだった。






 瞬く間に時は過ぎていき、下校のチャイムが学校内に響き渡る。

 陽は沈み、街灯が点々と付き始めている中、俺たちは帰路についた。


「絶対、行く方法があるはずなんだよな」

「その根拠はどこから湧いてくるんだよ……。そもそも現実的じゃないんだよ」

「お前は夢が無いな。いいか、宇宙は広い。俺たちよりも遥かに頭のいい学者でも、宇宙の最果てを見た者はいない。だからこそ、絶対に俺好みの星、世界があるはずなんだよ。絶対に、絶対に!」

「いや、知らんよ。その妄想癖なんとかならんのか?」


 妄想?

 言うに事欠いて妄想だと?

 俺は朝起きてから、床に着いた後の夢の中でも24時間365日ずっと真剣に考えている、俺の考察を妄想だと?


 剣に魔法が入り乱れ、魔王を倒して、ファンタジーではド定番の巨乳エロフや憧れの対象、尊いケモ耳っ子達とキャッキャウフフな異世界生活。

 それを、妄想だと!?


 ……うん、妄想か。


 でも、やっぱあるって信じたいじゃん。

 街中をぶらぶら歩いていたら、勇者召喚に巻き込まれるとか超憧れるじゃん?

 んー、どうすればいいんだが。全く見当もつかないんだけどさ。


「おいっ! 前を見ろっ——…」

「ん?」


 俺は考え事、妄想を膨らまし過ぎたみたいだ。

 良太に何度も言われた、悪い癖だって。


 でも、気づくのが遅かった。


 気がついた時には、T字路から現れた自動車のクラクションを目と鼻の先で浴びていた。

 ドオォォォンッ! と鈍い音と同時に、全身に凄まじく重い衝撃が走った。


 全身が煮えるように熱く痛い。平衡感覚を失い、立つこともままならないまま、徐々に視界がドット状に閉ざされていく。


(なんてテンプレ……)

「お、おい。慎平? 嘘だよな? おい、なぁ、おい!」


 良太の震える声が遠ざかっていく意識の中聞こえてきた。


 肩を叩いているのか? もう、痛過ぎて感覚がよくわかんない。

 聞こえている、聞こえているんだけど……。


 俺は喋れなかった、動けなかった。

 意識が朦朧とする中、俺は自分の鞄に視線を向け、そして微笑んだ。


 俺は悟ってしまったのだ。

『死ぬ』と言うことを。


 しかし、自然と恐怖感というものは無かった。

 勿論色々と思うことはあるけど、転生の為に死ぬ覚悟を持っていた俺は常に遺書を持ち歩いてる。


 きっと、鞄の中にある遺書は良太が見つけてくれるはず。

 幼い頃、両親が病気で他界してしまった俺に家族の温もりを与えてくれた今田家に宛てた手紙。


 俺は最後の力を振り絞って、隣で泣いている良太に微笑んだ。




 そして、俺は死んだ——

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