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3−1 降伏勧告

第三章 国家争乱 編

 ——またか。この夢。今度は何だ。


 景色がだんだんはっきりとしてくる。ここは……、どこだ? 見覚えがないが、風景から察するに国内ではないようだ。


 剣士サイガーがうずくまる大男に向かって話している。


「俺の勝ちだ、約束通りこいつはもらっていくぜ」


「くそっ! 好きにしろ」


 大男から首飾りのようなものを持ち去っていた。どうやら大男の大事な物のようだ。そして例の如く俺が喋りだす。


「この首飾りはこの俺、ラムレスが国王の名に於いて大切に保管する。その代わり、これを持っている間は我々の戦に手出し無用だ。いいな。心配するな、ゴタゴタが全部終わったら返しに来る。そしたらまた、これからの話をしよう」


「わかった。一族の秘宝を盗られるとは、俺も焼きが回ったか……」


 大男は諦めたように笑う。こいつの名前を知っている。こいつは確か……、だめだ思い出せない。


「ラムネス! 倒したのは俺なのに何でお前が預かるんだ! 宝は俺のだろう! 」


「いいじゃないかサイガー、お前じゃ無くすだろう。」


 サイガーはふんぞり返り、大男とその仲間に何かを言っている。


「いいか、お前ら! お前らを倒したのは、このサイ……俺の……こ……——」


 意識が遠のいていく……。木偶の坊、何かを俺に伝えようとしているの……か……。



 ——また勇者の夢を見た。木偶の坊の体に入ってから頻繁に見る夢。これは何の意味があるのだろうか。



 そもそも、これは現実に起きた過去を見ているのか、それとも木偶の坊自身の空想を見ているのか。いずれにしても当てにはできない。俺自身が見ているおかしな夢という可能性もある。考えるだけ馬鹿馬鹿しい。




 これから西の国の懐柔策を考えなくては。まず、敵でないことの確認と、こちらの協力を取り付けなくてはいけない。ここはライナーを派遣するとしよう。移動も早いだろうし、交渉に適しているだろう。


 隠密の情報によれば、敵軍は3万程だ、こちらの戦力を上回っているが、北のジジイと西の国の戦力が足されれば互角になる。

 しかも西の国の戦士は勇猛果敢で1人で10の敵を倒すという。合流したという情報だけで大軍の激突は止められるかもしれん。


 

 気になるのはあの夢だ。あの夢の中の大男はイェクサ族の者で間違い無いだろう。挿絵のイェクサ族の鎧は夢で見た物そのままだった。勇者がサイガーと共にイェクサ族に接触したという記録はない。ということは夢で見た通り、イェクサ族と勇者の間で密約があったのか? 


 ——カーン カーン カーン



 鐘だ。これは“訓練”の合図。


 もしもこの城を捨てねばならない時に備えて訓練させているが、うまくいっているようだ。外からは野太い声が聞こえてくる。ギルべアドだ。


「全員整列してください! 本番は置いて行きますよ! 」


 敬語なのにすごい迫力だ。城のどの者も新兵のように気をつけをしてしまう。


「いない人は? またサファイアさんですか! 誰か呼んできてください! 」


「はいぃー! 」


 同じ研究所の者が全速力で走り出す。可哀想に。


 最悪の事態を想定した訓練もしている。ライナーには相手の条件を出来るだけ呑むよう言い伝えた。とにかく今できることを最優先で行う。


 もしここで王国が崩れれば、また元通りだ。“予言の勇者”を探すどころではない!







 ——そして数日後、城からかろうじて目に見えるほどの距離まで、大軍が迫ってきた。


 遠目から見てもよく訓練された兵士だとわかる。この戦、苦戦するに違いない。しかし援軍はまだか。場合によっては援軍が来るまで時間稼ぎを考えなくては……。


「一台の馬車が向かってきます! 」


 衛兵が大声で知らせる。


 あれは降伏勧告を行う“使者”だ。これは交渉に使える。好条件をちらつかせて時間を稼ぐ好機だ。俺はすぐに会う手筈を整えた。“あいつ”が来るはずだからな。




 ——謁見の間。思えば初めてこの玉座に座った時からえらい目に会わされ続けているな。この戦いが終わったら、戦後処理と東と南の新しい領主を決めるか。などと考えていると、開いた扉の向こうから”使者”が来た。


 やはり来たか。ディートリヒ。この国で交渉をさせたら右に出るものはいないからな。

 

 ディートリヒは落ち着いた様子で挨拶を行う。


「ご機嫌うるわしゅう、陛下」


 うるわしゅうわけがないのだが、ここは冷静に対応しよう。


「ディートリヒ、あの貴族たちは反乱をやめる気がないのか。お前であればわかるだろう。戦は費用が掛かりすぎる」


「陛下、お分かりかと思いますが、もう止まりません。カールワ家の積年の恨みでございます」


 積年の恨み? ラムレス王家の何かあったのか。何か引っかかるな。


「恨み? カールワ家が何を恨むというのだ」


「カールワ家こそが、この王国の正当な王族ということです。勇者ラムレスは魔王を討伐したことで各国から支持を集め、あの広大な領土を治めていました。しかし実際に魔王にとどめを刺し、討伐したのは、剣士サイガー・カールワです。勇者ラムレスは偽りの王でございます」


 いや、そういう理屈にはならないと思うが。とどめって……、あれ? たしか止めは勇者が俺の胸に剣を突き刺した気がしたが。記憶が定かでないな……。


 ……あ、そうだ。そういえば……。


「確かサイガーは戦いのときに背を向けていたと思うぞ」


 そうだ、背中を見せていたから顔を覚えていなかったのだ。……しまった、声に出ていたか⁉


「……なんだと! おじい様が敵に背を向けていただと! でたらめを言うな! 」


 ……おじい様? はやりこいつ、サイガーの孫というのは本当なのか。にしても迂闊すぎる。身分を隠しているのではなかったのか。


 何とも言えない静寂が一帯を支配する。あんなに冷や汗をかいているディートリヒは初めて見た。珍しく感情的になったようだ。俺は沈黙を破ることにした。


「いや、とある文献で見たのだ。つまりそのような説もあるくらい勇者が魔王を討ったのは明白だということだ」


「いやしかし、勇者はとどめを刺したとき、“魔王の胸に突き刺した”と記述がありますが、小柄であった勇者は剣が短めに出来ています。巨大な魔王にとどめを刺すのはサイガーのような長い剣でないと無理です! 」


「なぜ巨大と決めつけるのか、たしか人間と同じくらいの大きさだったはずだぞ! 」


 巨大化は魔力を使うし疲れるのだ! 


「どの文献にも巨大と書いてあります。ほらここにも!」


 急にラムレス王国紀を取り出して見せる。しかし俺も黙っていられない。何せ本人だからな! 


「そんなのは人間が勝手に書いているだけだろう! そんなにデカい魔王なら、勇者なんぞに負けはせぬわ! 第一その本だって勇者が死んでから書かれた物だろう! 」


 夢中で言い合った後、周りの“そこはどうでもよい”という視線に気が付き、双方とも黙った。そしてディートリヒから本題に入った。


「と、ともかく、陛下と歴史の問答をするつもりはございません。本日は降伏をお勧めに参りました」


 降伏か、またずいぶんと大きく出たな。ディートリヒは続ける。

「現在、反国王連合はこの王国軍の倍以上です、この戦に勝ち目はございません、あの魔弓の威力を勘案しても、城を明け渡すのが賢明かとおもいます」


 小癪なやつめ、ここは舌戦を制しておかねば。


「ずいぶん偉くなったものだな、ディートリヒよ。こちらの兵力はこの城と周辺の志願兵のみではないぞ」


「陛下、まさか北のアレス様と西の国の兵力を当てにしているのですか」

 ぐぬぬ、先読みされている。こうなれば。


「当てにしているだと? 馬鹿め、もうすでにこの地に集結しつつある。“猛将赤槍アレス”と“無敗のイェクサ族”がもう合流予定だ。無駄な犠牲が出る前に撤退せよ」


 もちろんこれはハッタリだ。しかし、ライナーには手土産を持たせたし、ジジイの国境付近の国はまだ停戦中だ。抜かりはない。



 するとまた扉が開く、ライナーだ。


「陛下、イェクサ族の返答の手紙を持ってまいりました。その……」


 おお、これは良い知らせだ。俺はライナーを急かす。


「そうか! かまわん、ここで読み上げよ! 」


 これを聞いて慄くが良い! ディートリヒ! 


「あぁ、そうですか、では……”ラムレス3世殿 この度の戦の協力の件 カールワ族との契約により 貴公の協力はできない ” とのことです」


 2度目の沈黙がまた場を包む。……あれ? カールワ族との契約? まさか、と考えていると今度は衛兵達が飛び込んできた。


「報告します! 北の国から伝令! 停戦中のハンデル国が国境を侵攻中! 」


「続いて報告します! 周辺の村で暴動あり! 元・地頭どもが手下と暴れているようです! 志願兵が応戦しています。」

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