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2-8 羊たちの会合

 暗殺者騒ぎの翌日、中断されていた羊業者の連絡会こと、諜報機関の会議が行われることになった。


 今考えれば木偶の坊が会議の存在をわざわざ隠して頻繁に宴をしているかのように装っていたのは、隠密から常に他国の情報を確認するため。

 一日中周りに取り巻きがいたのは、そこまでして情報を集めなければならいないほど緊迫した、いつ暗殺されてもおかしくない状況だった為だ。


 木偶の坊が愚王を演じていることは極一部の人間しか知らない。


 厄介なのは知っている人間が誰かわからないということだ。


 知っている人間に下手なことを言うとまたサファイアの時のように疑われるかもしれない。


 木偶の坊め、なんと面倒なことをしていたのだ。しかし、強力な隠密を手に入れたのも確かだ。この会議で情報を整理し、一刻も早く反乱防止の手を打たねば……。




 大部屋の扉を開けると、商人風の男たちが待っていた。固まっていた男たちが道を開けるとその先に”元・羊大臣”がいた。


「陛下、お久しぶりでございます」


 俺は拍子抜けした。大臣にしては若いということもあるが、その顔はなんとも柔和な表情をした、殺意のかけらも感じられない顔をしている。案外、隠密とはこういう人間がなるものなのだろうか。


「このライナー、また陛下の傍で働かせていただきます」


 そういって深いお辞儀をする。なるほど、こいつはライナーと言うのか。


「ライナー、慣れない仕事をさせて済まなかったな」


「いえ、また何かのお考えあってのことと存じております」


 木偶の坊は前から突拍子もないことをしていたようだ。臣下の苦労が偲ばれる。


「陛下、さっそく始めましょう」


 会議が始まった。次々に報告される情報は、こちらでつかんでいないものもあった。ざっとまとめると、今回は東の国と、南の国が中心となって反王国派が一斉に蜂起する計画だ。全国統一の軍があれば事前に鎮圧できたものを、と悔やんでも仕方がない。


 しかし南の国とは気になるな。そんな素振りは見せていなかったはずだ。


「南の国は以前から謀反の気配があったのか」


「いえ、少し前に東の国に接近し始めて、それから反王国派になったようです」


 妙だな、何か内部で情勢が変わったのか? 


「それまではこちら側だったのか」


「はい、何せ南の国の初代領主は剣士サイガーですから」


 なるほど、剣士サイガーは勇者の仲間だったな。俺はさらに聞く。


「首謀者は領主か? 」


「はい、領主のオットー・カールワ卿です。サイガーには一人娘がいましたが後継ぎを生んだ後、病死しております、今の領主は娘婿だそうです」


 なるほど、直系の血が途絶えたことで国王との関係が薄くなったのか。これは本当に裏切るかもしれない。ここは手を打たなくては。


 すると補足するように南の国の隠密が発言した。


「陛下、サイガーの孫、ガーズという男は領主の息子という立場を利用し、地元で愚連隊を率いて悪さばかりしていると評判です」


 二代目にありがちだな。サイガーもあの世で嘆いておることだろう。だいたいの情報はわかった。


「皆、これより戦を防止する策を練る。そこで、王国派の貴族も洗い出してくれ、誰が味方で誰が敵なのかはっきりさせる必要がある。ライナー、明日の王室の会議に参加せよ」


 俺は隠密に指示を出し、自室で作戦を練ることにした。





 翌日、王室会議は見慣れぬ者の参加で、ぎこちない始まりとなった。


「今日は農業副大臣に出席してもらう。これからライナーには国王秘書をしてもらうつもりだ」


 俺は皆にライナーを紹介した。すると珍しくディートリヒが口を挟む。


「陛下、何かお考えがあることとは存じますが、些か人事に無理があるかと、それとも、羊業者との連絡会を再開したことと何か関係があるのですか」


 ディートリヒから噛み付いてくるとはな、しかし今、隠密の存在を明かして良いものか。ここははぐらかしておこう。


「ライナーの能力を買ってのことだ。ディートリヒ、お前を王室に入れた時と同じだ」


 嘘は言っていないからな。


「承知しました。ライナー殿、よろしくお願いします」


 ディートリヒは俺の右腕だ、急に連れてきた人間が秘書とは、面白くないだろう。


「早速だが、本題に入るぞ。先日恭順したかのように見えた東の国だが、謀反の疑いがある。南の国と一緒に蜂起するかも知れん」


 一同は驚愕していた。するとライナーが突然問いかける。


「ディートリヒ殿、……大丈夫ですかな? 」


 あのディートリヒが取り乱している。無理もないか。


「い、いえ、東の国は完全に抑えたと思っていたので、驚きました」


「そうでしたか」


 なにか含みのある笑みを浮かべたライナーは続けた。


「ディートリヒ殿、確か南の国出身であったと思いましたが、何か聞いていませんか」


「私は下級貴族の出身ですので、そのような情報は入っておりません。郷にもほとんど帰っておりませんので……」


 ディートリヒは南の国出身だったのか。そういえばそんなことを言っていたような気もするな。アベリアも珍しく積極的に発言する。


「陛下、奴らはどのくらいで攻め込んでくるのでしょうか。この城の兵はまだ本格的な戦は無理です」


 確かに、先日のゴブリン退治で志願兵は増えたが、まだまだ寡兵だ。ここは情報が欲しいところだ。俺はディートリヒに聞く。


「ディートリヒ、南の国の兵力はどのくらいかわかるか」


「いえ、先ほども申しましたが、ほとんど郷には帰りませんのでわかりません」


 何も知らないか。せめて大体の規模を把握できたら良かったが、いずれにしても東の国と一緒に攻めてくるということであれば我が軍より多いと考えたほうが良いだろう。


「アベリアは城の防衛を想定した訓練を重点的に行うように、もし戦になれば籠城戦もあり得るからな。ディートリヒは戦に備えて、各大臣と調整せよ」


 これは調べることが多そうだ。会議はすぐ切り上げた。



 部屋を出るとライナーが俺に耳打ちをしてきた。


「陛下、これは私の勘ですが、ディートリヒの周辺を調べたほうがよろしいかと」


「馬鹿を申せ、ディートリヒにどんな秘密があるというのだ」


「そうですか、陛下がよろしければ構いませんが……」



 とは言ったものの俺も先ほどの態度は気になるところだ。ライナーを連れてきたせいでへそを曲げたのかもしれんな。

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