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2-7 探し物

 俺は“呆れ”ながらも、この地図から発せられる違和感の正体を探していた。


 ——何かが引っかかる。


 いくらなんでもおかしい、先代王がゴブリン退治をしていたのは他国と停戦していない時期だったはずだ。そんな大事な時に“自分の趣味“に没頭していたとは思えない。しかも兵を割いてゴブリンと戦っていただと? 

 

 いつ攻め込まれてもおかしくないときに趣味で兵を動かすだろうか。俺はしばらく地図を睨んでいた。


 そんな考えを知ってか知らずか、ギルベアドは思いついたように俺に言った。


「そういえば、先日陛下がゴブリン退治に出かけた山も、偶然その丸印のところです。やはり王家の血筋なのですな」


 ——そうか。わかった。なんということか。わかってしまった! 

 

 先代王は夢見がちな読書好きの愚王ではなかった! 俺は近くの地図を手に取りギルベアドに声をかける。


「すまぬ、ギルベアド、この地図の同じところに印をしてくれぬか」


 ギルベアドは嬉しそうに頷き、手渡した地図に印をつけた。


「どうぞ陛下、……先代王の竜探しの続きをなさるのですか? 」


「ああ、その通りだ。先代王の“探し物“を見つけてくる」


 部屋を出て廊下を歩き出す、ふと思いつき、戻って命じた。


「ギルベアド、お前は今から軍に復帰せよ。おそらく先代王がお前に求めた役割は終わったからな」


 戦争経験者は貴重だ。一軍の指揮を取らせよう。


 呆気にとられた“元”室長は、すぐあきらめたように笑う。


「かしこまりました。まったく、親子そろって勝手な方々だ」




 俺は地図を手に部屋を出た。早急に調べなくてはいけないものがある。


(黒! 先代魔王がゴブリンどもに出した防衛命令の記録はあるか? )


(はい、少々お待ちを)


(すぐにもって来てくれ。防衛を命じた場所だけわかればよい! )




 俺は自室に帰り、机の上に地図を広げる。そこに黒が顔を出した。


(魔王様、本国から連絡が来ました。ゴブリンに出した防衛命令です)


 やはりそうだ。竜の伝承がある場所に先代の魔王から防衛命令が出ている。しかも、何があっても死守するように何度も念を押されていた。これほどの命令ならば、ゴブリンが先祖代々守り続けてしまうのも頷ける。


 先代魔王が防衛させていたのはあの竜の白骨体である魔石だ。そして、先代王ラムレス2世は竜の伝承がある山でその竜の白骨体を探していたところ、魔王から防衛を命じられたゴブリンと遭遇した。それがゴブリン退治と伝えられていたのだ。


 つまり、これは先代魔王と先代王ラムレス2世との“資源戦争”だった! 

 

 これは考えを改めなくてはならない。この国の王族は何か隠している。俺はとんでもない国王に乗り移ってしまったのかもしれない。


 この国のこと、国王のこと、人間のこと、全て調べ直さなくては! 




 ——その時、黒が注意を促す。


(魔王様! 敵の気配です! )


(何⁉︎ どこだ!) 


 身構える前に、窓を破り、黒ずくめの何者かが入ってきた。黒ずくめは逆手に持った短刀をこちらに向け、いきなり切りつけてくる。


 俺は間一髪短刀を避け、距離をとる。躊躇いない太刀筋。こいつは相当な手練れだ。これは分が悪いかもしれん! 


 しかし次の瞬間、黒ずくめがゆっくりと前のめりに倒れた。



 俺はその様子を見守ることしかできなかったが、黒ずくめの向こうには見覚えのある人影が立っていた。その正体を見るや俺は思わず叫んだ。


「タシパ! お前……」


 タシパは普段と全く違う、暗殺者のような格好をしていた。


 そして、初めて気づいた。


 こいつは女だったのか。


 てっきり小僧だと思っていた。タシパは慣れた様子で倒れた黒ずくめを探り始める。


「ん〜。東の国の暗殺者かな? 手がかりがないな〜。あ、王様! 最近護衛を付けてないと思ったらやっぱり暗殺者が来たじゃないですか! しかもボクが置いたメモも見てないでしょう! 」


 なんだか怒られている。状況から見るに、こいつは隠密⁉︎ この国に諜報機関はないと思っていたが、黒の調査を逃れるほどの隠密だったのか。


驚きながらもなんとか返答する。


「あ、あのメモとはなんだ? 」


「はあ、やっぱり見てない……。東の国の隠密から連絡が来たんです。東の国がこちらに攻め寄せてくるかもしれないと。どうして東の国の税を安くしたりしたんですか! 重税をかけることでアウグストが軍隊を持てないようにするって言ってたじゃないですか! 」


 なんだと⁉︎ アウグストは恭順したのではなかったのか! 減税されたこの間に軍備を整えていたということか。


 しまった! そういうことか。


 木偶の坊はアウグストに武力を持たせないために、不必要に石像を建てさせ、盛大な祭りを開き、金が残らないようにしていたのか! そうして弱ったところにとどめを刺すつもりが、俺が税を下げてしまった……。


 黙っている俺にタシパは問いかける。

 

「王様? どうしたんですか? 最近様子がおかしいですよ。別人みたいです」


 タシパは一番近くで王に仕えている、木偶の坊とはかなり親密と考えるべきだろう。これは下手に言い訳をすると正体がバレる。


「それは……、今は説明ができない……」


 俺は苦し紛れに言葉を発するのみだった。しかしタシパは気に留めない様子だ。


「分かりました。また何か考えがあるんですね。でも、これからは隠密の定期会合も開いてください。急に中止にするものだから棟梁も心配していましたよ」


 会合? 俺が中止した定期的な会合といえば羊業者との連絡会しか……。あれはただの宴だろうから、どの会合のことだ……? 



 ——もしかして奴ら、“羊業者”ではなく“隠密”だったのか⁉︎



 確かにこの国の羊の輸出業者は大陸全土にいる……。羊を連れて都市間を移動していれば怪しまれない。ということは、まさかあの羊大臣は……。


と考えていると心の声が聞こえたかのようにタシパが答えた。


「棟梁……じゃなかった、羊大臣は今も待ってますよ! なんで職を変えたりしたのですか、棟梁は羊なんか触った事もないのに」


 あいつ隠密の長だったのか、“農業副大臣 羊関連事業担当“にしてしまった。そういうことならすぐにあの会合は復活させなくてはならないようだ。


 そして黒から決定的な情報が入る。

(魔王様、こちらの諜報員から連絡です。やはり軍隊を編成している形跡があるとのこと)


 ううむ、アウグストの裏切りは決定的のようだ。こちらの掴んでいない情報を持っているとは、タシパの奴ら、よほど深く入り込んでいるようだな。


 しかし大変なことになった。アウグストは反国王同盟の盟主と見て間違い無いだろう。他の貴族が呼応して大きな反乱になるのは避けたい。これはすぐにでも作戦を立てなくては。

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