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2-6 剣士サイガー

  ——ここはどこだ? 俺はいったい……。これは何だ? 竜が目の前に倒れている、瀕死の状態だ、竜の頭に剣が刺さっている。これは夢か?

 

「ラムレス! とどめは譲ってやる! 」


 目の前の“剣士”が俺に叫ぶ。あいつはサイガー、俺の王国で一番の剣士だ。サイガー? なぜ俺は奴の名前を知っている?  混乱しているようだ。だが自身の体が勝手に叫ぶ。


「おう! いくぞ! サイガー! 」


 俺は淡く光る剣を握りしめ、竜に飛び掛かっていく。



 竜……。伝説の剣……。魔法の石……。勇者……。



 いったい何のことだ? 聞き覚えのない言葉が頭をよぎっていた。





 ——またこの夢だ。


 時々見る夢、妙な現実味がある夢だ。見る回数を重ねるにつれてハッキリと見えてきた。あの剣士は誰だ? 俺のことをラムレスと呼んでいたところを見ると、木偶の坊の知り合いということになるのか。


 この木偶の坊が“竜退治”をしていたとは到底思えない。この夢がもし、本当の出来事を走馬灯のように見ているなら、俺と木偶の坊は意識が繋がっていることになる。なんてことだ。

 

 頭痛に近い感覚を抱え、体を起こした。今見ている世界は現実だ。夢から覚めた自覚がある。ふと机に目をやると、書置きが置いてあった


“東の国、出兵の兆しあり、注意されたし”


 東の国? この間にアウグストを配下にしたばかりではないか。俺は唯一の心当たりに声をかける。


(黒。これはお前の書置きか)


(私ではありません。私なら書置きでなく、直接ご報告いたします)


 それもそうか、と思いながらも、ますます深まる謎に首をかしげる。黒は続けて言った。


(この“出兵の兆し”という文言が気になります。もし出兵を予見できるとしたら、内部に潜入している者が出兵を察知していることになります。この国にそのような諜報機関は無いはずです)


 なるほど。そうなると、ますます説明がつかない。


(黒、どうにも気になる。調査してくれ)


(かしこまりました。東の国の調査を強化いたします)


——トントン


「失礼します。魔石の件でご報告です」


 入って来たのはサファイアだった。ゴブリンの山で見つけた魔石の鑑定結果が出た様だ。


「おお、あの石はなんだったのだ? 」


「はい、これは魔弓の材料になるものです。備蓄していた物とは少し違いますが、同質の物だと考えられます」


 何だと? と、言うことは魔弓が量産できる⁉︎


「そうか! では、早速採掘して魔弓の量産体制を整えよう」


「はい、しかし陛下、いくら多く作ってもこの前の様に使う度に壊されては意味がありませんから! 」


 皮肉たっぷりに言うサファイア。ヘソを曲げられては困る。ここはおだてておこう。


「そうだな、すまぬ。お前の作る魔弓は出来が良いのでな、つい使いすぎてしまうのだ、許せよ」


「……気をつけてくださいね! もうっ! 」


 頬を膨らまし出て行くサファイアを見送ってから、今日は何をするか考えだす。

 

……やはり夢のことが気になる。サイガーという人物。どこかで見た覚えがあるが……。


 これは調べておかなくてはいけない気がする。俺は文書保管室へいく事にした



 ——文書保管室、先日、あの古典絵本研究所とかいう金食い虫を縮小し、文書保管庫と統合して生まれた、“ただただ文書を保管する“という経済的な部署だ。ここの司書なら何か知っているかもしれない。俺はさっそく中に入る。



 質素な引き戸を開けると、とても広いとは言えない一室に、本が詰まれ放題の机が2,3あるだけの場所だ。その奥の上座に置いてある席に、室長らしき者がこちらに背を向けて座っているので声をかける。


「すまぬ、ここの室長はおるか」


「はい、私です」


 振り向いた男は、およそ司書とは思えない風貌の男であった。


 鋭い眼光、左の眼は眼帯で隠れているが、眼帯から大きくはみ出した傷は過去の激戦を想像してしまうほどの生々しいものだった。誰がどう見ても千の兵士を率いる将軍の顔だ。


「私は、ここの室長のギルベアド・オーズマンと申します。……何か、御用でしょうか、陛下」


 その野太く腹に響くような声に、少したじろいでしまうが、何とか答える。


「お、おう、少し聞きたいことがある。竜退治に関する人物で“サイガー”という人物を知っているか? 」


 ギルベアドは、不思議そうにこちらを見つめ、答えた。


「それは……、勇者ラムレスとともに竜退治をした、“剣士 サイガー・カールワ ”のことでしょうか? 」


 勇者と……? ということは、あの夢は初代国王の時代のものだったのか。何故そんな夢を?  


「そうか、そのサイガーの話はどこかに記述があるか。興味がある」


「はい、有名な本だと“ラムレス王国紀”にその記述がございます。陛下は既にお読みになっていたと思いましたが……」


 なんだと? そんなに有名な本なのか? 俺はとっさに誤魔化した。


「ああ、もちろん読んでいる。その、王国紀のどのページだったかな? 度忘れしてな」


「1巻と2巻はほとんど竜退治の話ですが、どの場面のことでしょうか」


 そんなに⁉ サイガーとやらは余程の重要人物のようだ。 

 そんな有名な本を読んでないとなると怪しまれるか。


「あ、ああ、そうだよな。余は特に2巻が好きだな。2巻の後半だな」


「私もです。2巻の後半で勇者ラムレスが羊の飼育に挑戦する場面は読みごたえがありますな」


 前半が竜退治で後半が羊の飼育ってどんな本だ! もっと書くことなかったのか? 

 

 くそ! これ以上話すとボロが出る。ここは話を変えなくては。


「ところで、お前は余程本が好きなのだな。司書をして長いのか? 」


「いいえ、私も少し前までは先代王とともに戦場におりました。仕事の合間に伝記や伝説の本を取集していることを先代王が知り、古典絵本研究所の立ち上げに参加するよう言われたのです」


 やはりこいつ元は兵士であったか。と考えていると黒が補足を入れてきた。

 

(魔王様、こいつは 殿(しんがり)のギルベアドと言われ、他国からも恐れられていた将軍です。領土を手放し撤退する際には、必ず殿に出て戦ったと聞いています)


 通りで、あの風格は司書をしていた者ではないだろうと思った。将軍から司書とは無茶な人事だ。


 それにしてもあの研究所は2代目が作ったようだな。全く、親子そろってバカな奴らだ。ギルベアドは懐かしむように続けた。


「しかし、王が好むものは、竜の伝承ばかりで、国の歴史を専門とする私は苦労させられました。ある日、 “伝承に出てくる山を地図に記せ”と言われ、国中の蔵書と伝承を調べ尽くして、言われた通り印をつけたところ、翌日からその場所に兵を引き連れて出かけられました。何故出かけたのかは誰にも言わなかったようですが、きっと竜を探しに行かれたのでしょう。結局ゴブリンしか見つけられませんでしたが」


 前言を撤回しよう。親のほうがもう少しバカだ。


 確か先代王はゴブリン退治を盛んにしていたと言っていたが。人気取りのためではなかったのか。という俺の考えを他所にギルベアドは語り続ける。


「先代王は、山から帰ってくるたびに印の上からバツをつけていきました。もっとも、この地図の印の場所を回りきる前に、王はお亡くなりになりましたが。しかし、私は時々思うのです。もしかしたら先代王が生きていて、どこかの山で竜を見つけ、いつかこの地図に丸をつけにくるかも知れないと。……馬鹿馬鹿しい話ですが、そう思うとこの地図を捨てられないのです。これは私の宝物です」


 かみしめるように語るギルベアドには言えないが。俺は呆れてしまった。竜を探すためだけに城を空けるとは。

 敵が攻めてきたらどうするつもりだ。馬鹿な奴め。


と、思いながらも、俺は違和感を覚える。

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