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2-2 試作品

 アンズの後姿を見ながら、ふと思いついた。ここは魔装具の研究を隠れ蓑にした軍事兵器の研究所なのではないか。


 ならば一国の王が足繁く通うのも納得がいく。木偶の坊がどのように考えていたのかはわからない。奴の場合、“面白い玩具”程度の認識しかなかった可能性もある。


 と考えているうちに地下の広い部屋に出た。厳重に鍵をかけられている所を見ると、重要な研究だということか。


「こちらを手首につけてください」


 手渡された輪っかは、どうやら腕輪のようだ。これは魔力を増大させるとか、魔法を補助するとか、そういった類のものだろうか。


「では、そこを動かないでください」


 そう言うと、壁にある大きい棒を掴み、下にグイッと引いた。すると“何か”が回りだしたような音がしたと思うと、自分の手につけている腕輪が光だし、意思が宿ったように動き出した。


「おお、これは力を補助する装置か? 」


 感心して思わず質問をしたが、アンズは奥に下がってしまったようだった。この音のせいで聞こえなかったか。と思っていると、腕輪が暴れ出し、俺は両手を上げた状態で拘束されてしまった。


「おい! アンズこれは一体」


 驚いてアンズを呼ぶと、杖のようなものをこちらに向けているアンズが目に入ってきた。そして睨みながらこちらに叫んだ。


「お前は誰だ⁉︎ 陛下の姿をしているが、中身が違う! 何者だ! 」


 抜かった。こいつ木偶の坊と親しい者のようだ。しかし、俺の正体までは気づいていないはず! 俺は叫ぶ。


「待て! 何の真似だ! 」


「陛下は、“ラムレス様”は、魔法が使えない! この前はランプを光らすことさえできなかった。貴様何者だ! マモノ探知機に反応していたということは、マモノが乗り移ったか! すぐにラムレス様の体から出て行け! 」


「何の話だ! アンズ! 」


「私の名前はサファイアだ! アンズじゃない! 」


 こいつ、偽名を使っていただと! 最初から疑っていたのか。なんとも小癪な。どうする? このままでは正体がばれてしまう! 



 「出て行けぇぇ!!」



 すると突然、叫びながら杖から光を放った。放った光は俺をかすめ、後ろの装置を破壊した。


 それと同時に腕輪の力が抜ける。装置は故障したようだ。俺は無我夢中で女に突進して両手を掴んだ。


「いや! 離して……」


 なんとか組み伏せたが、さて、どうするか、この娘、消すには惜しい、なんとか味方に引き入れられないだろうか。ええい、こうなればヤケだ!


「サファイア、実は、私は記憶を失ってしまったのだ」


「え……」


 あれ? 意外と信じそうな反応だ。このまま丸め込めるか。


「実は1月前、魔力が宿るという異国の儀式を秘密裏に行った。無事魔力を手に入れたまでは良かったが、そのせいで記憶がほとんどなくなってしまったのだ」


「そんな……、そんなこと、待って……」


 いい感じに混乱しているな。それにしてもこの娘、先ほどと様子が違いすぎる。だが好機! ここで畳みかける! 


「サファイア! 私はお前を思い出したい! 記憶を取り戻すため、お前にも協力してほしい! 俺は思い出して見せる! 」


 我ながら荒唐無稽な話が口から飛び出した。しかし嘘は突飛なほど良い。

「本当……? 本当に……?」


「本当だ! サファイア! 」


 しばらく黙った後、顔を逸らしながらサファイアは言った。

「わかりました、だから、離して……顔、近い……」


 ようやく観念したか。それにしても、こいつ大丈夫か。のぼせた様な顔をしておる。俺がゆっくりと手を離すと、サファイアは座りなおした。

「……わかりました。信じます! 」


 信じるのか! この女、すごい理解力だ。サファイアは座ったまま顔を背け、向こうを向いてしまった。


「ラムレス様が、記憶を取り戻せるように研究いたします。もともと、研究者になったのだって……」


「そうか、ありがとう! ありがとう! 」


 俺は思わずサファイアの肩をたたいた。良かった。有能な研究者を消さずに済んだ。こいつは使えるぞ! しかし、こんな作り話を信じるとは、意外と忠義芯の強い研究員なのか。


(違うと思いますよ。魔王様)


(黒! 助かった。この女は何者だ)


(遅くなりました。ご無事で何より。この女は、この研究所の所長です。若干17歳にして魔装具研究の第一人者、首都の中流貴族の出身のようです。幼少より国王と親しかったとか)

 なるほど、それで忠義心が厚いのか。


(その女の研究は軍事転用できます。色々と聞いてみましょう)


 それもそうだ。特にあの杖は使えそうだ。


「サファイア、その杖は完成品なのか? 」


「え……、あ、はい。試作品は完成いたしました。魔力を射出する補助装置になります」


 サファイアは眼鏡をかけなおしながら言った。様子が戻ったようだ。

「威力はどのくらいか。試し撃ちさせてほしい」


「わかりました。外の実験場で試射を」


 サファイアは先ほどの空気をごまかすように、俺を先導して歩き出した。



 俺はさっそく研究所の外の空き地に向かって試し撃ちをすることにした。サファイアに言われた通り、あまり魔力を注がないようにそっと、と心の中で念じながら引き金を引こうと指に力を入れかけた。


 ズドォオオオン


 杖から放たれた魔法は、実験場の的を大きく外し、奥の塀を突き破り、山肌に当たって大爆発を起こした。遠くでゆらゆらと上る煙を見ながら、俺は動けずにいた。


 この杖は、大発明だ。これを使えば今までの戦争がひっくり返る。魔法に適性がある者であれば1人で5人は倒せる。魔法使いを育成するより遙かに安く、大人数を集められるぞ! 俺はいてもたってもいられず、近くで唖然とするサファイアに聞いた。


「サファイア! この杖はどのくらい作れるのだ」


「量産体制が整えば、日に10本ずつ作れるかと、しかし、2カ月はかかります」


「心配するな! すぐに量産体制に入らせる! 1ヶ月後には量産だ! 」


 善は急げだ。思わず心が高ぶってしまう。これでこの国の中央集権が完全なものとなる。戸籍創設も近い!



「いえ、そうではなく。たった今試作品が壊れましたので、作り直しで2カ月はかかるという意味です」



「あー……」


 私は黒焦げになった杖を見ながら、間抜けな声を漏らすしかなかった。

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