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2-1 国家予算を舐めるなよ

第2章 国家争乱前夜 編

「——以上が、この国の徴税額の概算になります。続いて、貿易に関する収支になります。我が国の主な輸出品は羊で、大陸全土に輸出していますが……」


 先日の転生者騒動以来、東の国の領主が徴税権を渡す方向で話がまとまった。もう少しで、中央集権が成される。あと一歩のところだが、やはりここにきてお金が足りなくなってしまった。今はその予算の会議をしている。


 ディートリヒがまとめた資料によると、貿易で収入を増やさなくてはならないようだ。この国に売れるものなどあるのだろうか。と、資料を眺めていると、とある項目が目についた。


「すまん、ディートリヒよ、この硫黄の輸出が毎年同じ額なのは何故だ? 」


「……恐れながら陛下、それは先代国王が輸出量を制限したために、そのようになっております」


 は?どういうことか。


「何故だ? 何か理由があるのか? 」


「先代国王からの慣しで、 黄色い粉を他国に売ると不吉なことが起こる という言い伝えから輸出量を制限したそうです」


 馬鹿なのか。なんだその限定的な言い伝えは。よくわからないが即撤廃だ、こんなもの。

「輸入は全面的に解禁する。確か採掘場はすべて公営だったな。ならば硫黄の販売は王国の専売にするとしよう。」


「承知しました。鉄鋼はいかがいたしましょう」


「鉄鋼はこれから国内の需要が上がる、引き続き輸出は制限せよ」


 小さな反乱や小競り合いは起きないとも限らないからな。


「承知しました。続いて、予算配分の件ですが、私から、統合、もしくは廃止が考えられる国営の研究機関の一覧を用意いたしました」


 ディートリヒは資料の続きを説明し始めたが、すぐにその説明を制して、声をあげてしまった。



「ちょっと待った! これなんだ! 最初のやつ! 」



「はい、古典絵本研究所ですか、これは伝承や地方の言い伝えを研究している機関になります。年間の予算は全体の1割ほどになります」


「いや、なんの研究かはなんとなくわかるのだが、なんでこんなものに1割も予算を割いているのだ! 」


「なぜ、と言われましても私にもわかりません。先代の国王の時から予算配分は変わっていないようです。ですから再検討を行う必要があるかもしれない研究機関を羅列いたしました」


 俺は固まってしまう。ざっと見ただけで似たような研究所が多くある。この歯車研究所と駆動輪研究所は絶対研究内容が被っている。いや、見てみないとわからないか。



 そうだ、“見てみないとわからない”のか!



 こうなったら片端から視察していらない研究所を調べてやる! 国家の予算をなめるのもいい加減にしろよ! 






 会議後、各研究所を視察するため、視察先の選定をしているときに気が付いた。これは木偶の坊の仕業だ。


 木偶の坊が不必要に多い大臣職を量産した結果、各大臣どもが己の省庁の為に好き勝手作った研究機関が今の今まで残ってしまったということだ。これは見落とした俺も迂闊だった。大臣職とともに整理すべきだったか。


 木偶の坊め! なぜこのようなことを黙認していたのか。そもそも知らなかったのだろうか。いずれにしても研究所の統廃合を進めなくてはならない。俺は各研究所を見て回る事にした。


 まずは“魔装具研究所”だ。予算が2番目に多く配分されている。1番多い“古典絵本研究所”は図書館か何かに統合するとして、この魔装具研究所はほとんど成果らしいものが提出されていない。これは調査の必要がある。俺はすぐに研究所に向かうことにした。









 ——ここが魔装具研究所か、外観は質素な研究所だが、魔装具を研究しているというのは本当だろうか。窓の外から見る限り研究はちゃんとしているようだが……。

「何かご用ですか、王様」


「ハッティ! 」


 突然後ろから声を掛けられ、変な声が出てしまった。また、妙な魔法が発動していないか体を探りながら、声の主の方を見た。


 そこにいたのは、若い女だった。若いというか、まだ子供かと思うほどあどけない女。歳の頃15、6くらいか。研究者らしい利発そうな顔立ち、そして眼鏡の奥から鋭利な視線を放っている。

 

 しかし無理をして大人用の服を着ているようで袖が余ってしまって、さらにそれをを巻いている為、非常に不格好だ。ちぐはぐな娘。研究者の格好をしているところを見ると、関係者なのか。とにかく所長の居場所を聞こう。


「あー、ここの所長を探しているのだが、今日はおらぬか」


 抜き打ちの視察だからな、いなければ出直しだ。娘は明らかに疑っている顔を向けながらしぶしぶ言ってきた。


「はぁ……、それでは案内します。所長室はこちらです」


 お、どうやらいるようだな。この研究所は何をしているのか問いただしてやる。研究員がうんざりした様子で案内を始めた。


「そういえば陛下、最近こちらに来ていませんでしたが、お忙しかったのですか」


 しまった、木偶の坊はこの研究所に通っていたのか。変なところでマメな奴だ。ここは話を合わせておかねば。


「おお、久々に研究の成果を見ようと思ってな。最後に来たのはいつだったか」


「確か、ひと月ぐらい前でしたね、魔力の補助装置の試作をご覧になった日です」


 ひと月前、ちょうど俺が乗り移る前までは頻繁に通っていたのか。つまりここは重要な研究を担っているということか。そんなに頻繁に来るような研究内容とはどんなものだ。気になることが多いな。


「陛下? どうしたんですか」


 つい考え込んで黙ってしまった……。俺はとっさに答えた。


「おお、そ、そういえばその装置はどうなった? 完成したか? 」


「はい、ただ今、最終調整段階にあります。以前報告書を出しました。組織改編で陛下に報告書が届かなくなったようですが」


 なるほど、忙しくて読んでいなかったが、下調べをしておくべきだったな。しかし肝心の研究の情報が出てこない。そうこうしているうちに所長室らしき部屋に着いてしまった。


 さてどんな奴が待っているのか。


「陛下、中にお入りください」


 通されるまま中に入ったとたん、娘は俺のほうを向き直り、丁寧な口調で言った。



「陛下、私がこの魔装具研究所の所長、アンズ・キルアーナと申します」


 この娘が所長⁉ どう言う事だ! 俺は思わず口に出していた。


「お前が所長なのか! 」


 言ってから後悔した。しまった! 以前からここに通っているのに所長の顔を知らないわけがない! 試されたのか? このままでは正体がバレてしまう! しかし娘は呆れながら続ける。


「はぁ、気が済みましたか陛下。なぜ毎回このようなやり取りをされるのか理解不能です」


 なんと、このやり取りはお約束だったのか。助かった。しかし木偶の坊……案外面倒くさい奴だな。

 何にせよ、これでやりやすくなった。この研究所を見て回ろう。


「おお、悪かったなアンズ、ところで今日は今までの研究内容を見せてほしいのだが、構わんか」


「はい、よろしいですが……いったい何故? 」


「いや、その、国家の改革に役立つ発明品を探している所でな。とにかく頼むぞ」


 通っていた研究所を、また案内してほしいと突然言い出すのはすこし怪しまれるか。木偶の坊がそこまでこの研究所をひいきにしていた痕跡はなかったはず。ここにいったい何が……。


「わかりましたわ。こちらへ」


 そういって歩き出すアンズについて行く。しかしこの研究所は部屋数が多い。少し歩いたところにある研究室に入る。中には誰もいない。


「まずここは、魔物に関する研究室です。そしてこの装置は近くのマモノを検知して音が鳴る装置です」

 そういうとアンズは装置についている棒をはじいて見せた。

 

 リーン リーン リーン リーン リーン

 

「あれ? 故障ですかね。あれ? 止まらない、 なんでかしら? 故障はしていないはず」


 魔族が目の前にいるからだろうか。不可解な出来事に首をかしげながら、アンズはまた棒をはじいて機械をしまい込んだ。


「これは再調整します。続いてこちらです」


 そう言うとランプのようなものを取り出した。


「これは魔力を込めると光を放つ装置です。夜の作業などに使えます。お試しください」


 手渡されたランプに向かい、魔力を少しだけ込める。するとランプが光り始め、ガタガタと震え始めた。


「え! ……陛下、そのくらいで! 」


 アンズが言い終わるか否かのところでランプは割れ、取手を残して下にガタンと落ちた。壊れたランプを見つめながら、驚いた顔でこちらに目を向ける。気まずい沈黙が部屋を支配しそうになったので、俺は言葉を絞り出す。


「これも調整が必要そうだな……」


「そうですわね……」


 なんてことをしてくれるんだと言いたげな目を浴びながら、2人で次の研究室へ向かう。


「次はこの研究所で最も力を入れている“あの研究“になります。以前お見せした時より変更がありましたのでご案内します」


 どうやら前にも見せた研究のようだ。今のところは軍事に転用できる技術が多い、しかも研究内容も高度だ。アンズは相当優秀な研究者に違いない。

 

 俺は少し楽しみにしながらアンズについていく。

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