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1-1  魔王と愚王

第一章 転生者騒動 編




 (もうこんな時間か、酒を飲みすぎたみたいだ、今日もたくさんの者が宴に来てくれた。王になった時はあんな若造で大丈夫かと悪く言われたものだが、嬉しいことだ。みんな私を慕ってくれているようだ。ああ、今夜も月が美し……ん? 赤い光? なんだあれは?  不思議な——)


——いまだ! 国王の体に入るぞ! 


「ハアァッー、入った! 入れたぞ! やっと入れた! 手こずらせおって! 何でこいつは朝から晩まで一人にならないんだ! 宴会ばっかりして! 魔王である俺もこんなに続けて宴をしたことがないぞ! 」


 もう時間がない! この王のフリをして、いつか生まれる勇者を亡き者にしなくてはならないというのに! 1ヶ月も無駄にしてしまった。


 70年前から今日まで、あの“勇者“に復讐をするため、俺は魔王国で雌伏の時を過ごしてきたのだ! 予言にある、この国のどこかでうまれる勇者をかならず亡き者にしてくれる! まずはこの国を把握しなくて———誰だ⁉︎


「王様? 何をしているんですか? 」


 なんだ、人間の小僧か、年の頃15か16……身なりから貴族ではないな。


 しかし気配を感じないとは、この体では俺の本来の力は発揮できないようだ。


 俺は適当に返答する。


「おお、お前は、お前は誰だったか」


「はあ、王様また酔っているのですか? ボクはタシパ、召使いのタシパです。もう! 部屋までお連れします」


 この小僧、やけに馴れ馴れしいな、この王は相当舐められているようだ。しかし好都合、こいつを利用させてもらう。


「タシパよ、余の国はどうだ? 」


 試しに聞いてみたが、怪しまれるか。

 

「またその話ですか? いい国だと思いますよ。緑は多いし、飢饉も少ないし……」


 俺はこのタシパとかいう小僧からこの国のことをあらかた聞き出し、この身体の住まう部屋に着いた。


 どうやらこの国は70年前とは大きさが違うようだ。我々魔族と渡り合うほどの強大な国であったが、70年の間になにが起こったのか調べる必要がある。


 明日から完璧にこの国の王を演じなければならないのだ、こういう時はあいつの出番だ。


 ───黒! 何処にお……

「ここに」


「ハサスっ! 」


 背後からいきなり声をかけられびっくりした俺は変な声が出てしまった。


 黒は俺より先に忍び込ませていた密偵だ。スライム族で何にでも化けることができる、戦闘は不得意な奴だが有能であるためそばに置いている。我が魔王軍は実力主義なのだ。


「黒! 70年前に俺が苦しめられたこの国、勇者の国は、今どうなっているのだ! 」


「我が魔王、私の調べによると今この国は衰退をしております。その理由をお伝えする前に……、この黒い煙はなんでしょうか」


 煙? そういえばさっきから黒い煙が漂っている。え? 俺から出ているの? なんで? ああ、止まらない! すると突然扉が開いた。


「陛下! いかがなされました? この煙は⁉︎ 」


 なんか入ってきた! 衛兵か! 


「陛下! これは! ……魔法ですか! 」


 は? 魔法? 


「この魔法はハサス! 体から黒い煙を出す、上級魔法ですよ! やはり王様は魔法がつかえたのですね! 」


 そうだったのか! この人間の体では使える魔法も違うようだ。なんという無意味な魔法だ……。


「ではなぜ普段から魔法が使えないフリをしておられるのですか? 」


 使えないフリ? ということは俺がこの体を乗っ取ったことで魔法が発現したということか? とりあえず適当にごまかしておこう。


「いやー、試しにやってみたらなんかできたわ。まぐれだよ、まぐれ、ははは、みんなには内緒でな! 」


「そうだったのですね! わかりました! それでは自分はこれで! 」


 出て行ってしまった。なんという単純なやつだ。まあ、よもや自分の王が魔王に乗っ取られているなんて思うまい。


 しかし、この調子では正体がバレる可能性がある。そうなればこの計画は破綻してしまう。

 

 気を取り直して、俺は黒に一番気になっていることを聞いた。


「俺がいなくなってから勇者はどうなった」


「勇者は魔王様がいなくなられて10年後に病死しました」


「そうか、病死だったのか。奴を殺す病気があったとはな」


 できればこの手で葬ってやりたかったが、70年も経ってしまった。


「その後この大陸全土で領土争いと飢饉が各地で起こりました。魔王という共通の敵がいなくなり、各国王をまとめていた勇者の病死が原因です。人間は愚かですね」


「まったくだ。すると勇者の息子はどうなった? 」


「息子は王位を次いで、2代目国王になりました。2代目の王は領土を他国に奪われ続け、今のこの領土に落ち着いたようです。2代目も今から5年前に病死しております。」


 また病死、病気に弱い家系のようだな。この体は大丈夫だろうか。


「ふむ、ではこの体は3代目、勇者の孫というわけか」


「そのとおりです。ちなみに今の国王はこの大陸でも屈指の”愚王”として有名です」


「なんだって? 」


 聞き返す俺に黒は続ける。


「現国王、ラムレス3世は夜ごと宴を開き、政治は大臣に任せきりで、いつも取り巻きを引き連れて趣味に没頭しているとのことです」


「だからいっつも誰かがそばにいたのか! おかげで乗り移るのに苦労したぞ……」


 あれは護衛ではなく取り巻きだったのか。まぁ愚王であれば命を狙われることもあるまい。


「お疲れさまでした。しかし、この国の内部のことはまだ調査出来てきません。明日からは正体がバレぬようにお気を付けください」


「うむ、そうだな」


 俺は明日に備え眠りについた。

読んでいただいてありがとうございます。


野暮な事を書きますが、意外と伏線が多い作品になります。


よかったら探してみてください。

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