終わらないハーレムルート
これまでの「神様の加護が過剰すぎる」は・・・
主人公ゆーじくんは、両親が突然蒸発。
生きる希望を失ったゆーじくんの前にこれまた突然女神が現れたが。
何とか学校に行けるようになったが、突然のハーレムルート突入!
ハーレムルートは終わらない。
学校にきてなんとなく違和感。
何かがおかしい。
いや、全てがおかしい。
家を出た瞬間からおかしかった。
同級生の女子が家の前で待っていることなんて今まで一度もなかった。
今日だけで、小学校入学から昨日までよりも女子と会話をしたよ!
普段、女子と話をすることないから疲れたよ!
とりあえず、休み時間から、おとなしくしていよう。
誰とも話さず、外でも見ていたら今日はもう終わる。
あと1限だけだし。
「たったったったったっ」
わざわざ口で走っている音を表現しながら近づいてくるのは、ギャル子さんだ。
「あ、ゆーじってクラス委員っしょ?クラスの意見箱に手紙が入ってたよ!あっしからのラブレター・・・です。」
「・・・」
ギャル子さんがピンクのかわいい封筒を俺に渡してきた。
反射的に受け取ってしまったし・・・
なんか手紙はラベンダーの匂いがほのかにする。
ギャルっぽい子はちょっと苦手と思ったけど、かわいいじゃないか。
見ればギャルさんは真っ赤になって席に戻った。
後ろからなので、耳まで真っ赤なのがここからでもわかる。
ギャル子は見た目は少し悪そうだが、こんなかわいい面もあるのか。
ギャップ萌えを殺しにきてるな・・・
やばい。
なんか俺、異世界に着たかも。
ギャル子さんからラブレターもらったよ。
どうしよう、今すぐ開けた方がいいのか。
それとも見られないように、家に帰ってから開けた方がいいのか。
ラブレターの作法ってどうなっているのだ!?
日本ラブレター協会はそのあたりのことをもっと情報公開しておいてほしい!
そんな協会あるかしらんけど。
どきどきしながら、変な汗をかきながら今日の授業は全部終わった。
ちょいちょい女子と眼があったりしたが、なんか笑顔だったり、眼の中にハートが見えたりしてどうしていいのかわからなかった。
ホームルームが終わったら、すぐに教室を出た。
とりあえず、一人になりたいので、みんなが進む下駄箱とは反対側に進んだ。
なんだか自分でもよくわからないが、屋上の手前まで来た。
当然ドアは閉まっていて、外には出られない。
アニメとかだったら、普通に屋上に出られるはずが、現実ではそうもいかない。
色々大人の事情で生徒を屋上に上げるわけにはいかないのだ。
飛び降りたりするしね。
屋上に向かう階段までは普通に行ける。
放課後だし、屋上にはそもそもいけないけれど、屋上に向かう階段だ。
誰もいない。
フー、と一息つき階段に腰かけて頭を抱えた。
「大丈夫?」
突然声をかけられて、驚いて顔を上げた。
そこには、クラスメートの河合さんがいた。
クラスの人気者で、学内でも人気者だ。
ちょっとしたアイドルクラスのかわいさで、なんでもファンクラブがあるのだとか。
俺の中では、「カワイ子ちゃんアイドル」と呼んでいる。
これまで同じクラスなのに接点はまるでなかった。
でも、なぜこんなところに?
「入野くん・・・屋上にむかってたから気になって着いてきちゃった。」
「あ、そうか。ごめん。心配かけちゃったね。」
「うん、いいの。丁度用事もあったし。」
「用事?こんな屋上に向かう階段に?」
「うん、結構前から入野くんのこと気になってたんだ。でも、あんまり話したことなかったから。」
そりゃあそうだ。
相手はクラスの人気者。
ファンクラブ持ち。
こっちは、普通の貧乏人。
おととい両親が蒸発しました・・・
「えっと、これからもっと仲よくしよ?」
アイドル様が右手を出してきた。
ここで手を払えるやつがいたらぜひこの場面を代わってくれ。
「よろ・・・しく・・・」
半分吸い込まれるように答えていた。
「はい、よろしく♪」
花が咲いたような笑顔が返ってきた。
あー、この娘が好きになるやつの気持ちが分かったわ・・・
世の男ども(学園内のファンクラブ会員たち)はこの笑顔にやられたんだな・・・
この笑顔が向けられるなら、そりゃあ、がんばるわ・・・
『だだだだだだだだだだ』
「たぶん、あっちにいったぞー!」
遠くで、集団が走る音と叫び声が聞こえる。
目の前のカワイ子ちゃんアイドルがびくっとした。
「みんなに見つかっちゃったみたい。またね!」
カワイ子ちゃんアイドルは、校舎の人気のない方に走っていく。
後から数人の男子生徒が追いかけていく。
なにあれ追われてんの?
あそこまで来たら「学内のアイドル」というよりは「本当のアイドル」とそんなに変わらない。
仲良くしよう、と言われたら悪い気はしないよな。
でも、思いのほか疲れた。
主に精神が。
一度は帰ろうと思って、教室を出たが、よく考えたら鞄も持っていない。
ダメだ俺、終わってる。
なんか今日は異常につかれた・・・
とぼとぼと教室に鞄を取りに戻った。
教室にたどり着いたところで、女子に話しかけられた。
比較的背が低くて、クラスでもあんまり話さない子だ。
俺は勝手に心の中で「地味子ちゃん」と呼んでいる。
名前は完全に知らない。
地味子ちゃんが、とぼとぼ歩いている俺の服の裾をつかんだ。
何だろうと思って視線を向けた。
「あの・・・手つなぎたいです・・・」
突然の申し出に、どうしたらいいのかわからなかったので、とりあえず手をつないだ。
握手みたいになったけれど、これでよかったのか・・・
「これでよかった・・・のかな?」
完全に疑問形で聞いてしまった。
こくこくこく。
小さく数回うなづいて、地味子ちゃんは帰って行った。
なんだったんだ・・・
ガラガラと教室のドアを開けて中に入ると、教室の中にはオサナさんがひとり教室にいるだけだった。
俺の席の桂馬の右の位置の席に座っている。
何してるんだろ。
誰もいない教室でただ一人いると、給食費がなくなった時など不利だ。
まあ、今どき給食費なんか持ってくることはないけど。
俺が鞄を取ったタイミングで、オナサさんがこちらに気付いた。
「あ、いまから帰るの?」
「ああ・・・」
もはや返事をするのも疲れている俺。
ニコニコ笑顔のオサナさん。
「じゃあ、私も帰る!一緒に帰ろう?」
「ああ、うん。」
断る理由も特にないし、家も同じ方向らしかったのでどうでもいい話をしながら帰った。
正直家に帰って、すぐにお風呂に入りたい。
1日の疲れをお湯で流したい。
そんなことを考えていると、俺のアパートが見えてきた。
「あ、ここだから。」
「あ、うん。」
単に分かれるんじゃなくオサナさんが立ち止まった。
「明日も一緒に学校行っていい?」
「あ、うん・・・」
オサナさんもかわいいのだ。
「きゃはは」とか笑う感じだが、嫌味がない。
幼馴染だと知ったのは今日だが、元々からの知り合いだ。
まあ、世のいう幼馴染ほど会ったり話したりしていないけど。
小学校のクラスが同じだっただけだけど・・・
「じゃあ、うちらもうつきあっちゃう?」
「え?」
「なーんて、うっそー」
オサナさんは、真っ赤になりながらバタバタ走って帰って行ってしまった。
なんか、とにかく疲れた。
どうなっているんだ、今日は。
異常にモテた。
どんな鈍感主人公だって嫌だというほどモテたらさすがに気づくだろう。
しかも普通ラノベやマンガなら先にフラグを立てるきっかけがあるはず。
偶然の出会いとか。
雨の日に子犬を拾っている主人公を女の子がひとり見かけたり、テスト中消しゴムをなくして困っている女の子にそっと予備の消しゴムを渡したり。
ところが、全然そんなのないからね。
それどころか、両親が蒸発して、翌日は休んでるし。
それなのに、ある日突然あちらこちらでフラグがバンバン立ってる感じ。
休んだ日は、ちょっとアレなお姉さん女神が突然押しかけてきてるし。
お姉さん女神・・・
俺は家のドアを勢いよく開けた。
「ただいま!お姉さん女神さま!」
「どん」と入ったら、すぐそこにお姉さん女神さまが仁王立ちしていた。
「お姉さん頑張りました!」
「は?」
「なんか、今日は学校で色々変なことが・・・お姉さん女神さまが原因でしょう!」
「そうです!私がやりました!」
どや顔で犯行を認めた犯人がいた。
「で、なにをしたんですか?」
「ゆーじきゅんが、学校でも寂しくないように、半径5km以内の全ての人がゆーじくんを好きになるようにしました!」
「は!?」
壮大などっきりか!?
「そして、半径10m以内だと恋人程度には好きになるようにしました!」
10mって言ったら、教室内だと全員範囲内だよね!?
「さらに、1m以内だと気持ちが抑えられないようにしました!」
抑えられないとどうなるの!?
襲われるの!?おれ!
「いよいよ、触られると失神、悶絶、失禁するようにしましたー!」
はあ!?
なんだそれ!?
試しにお姉さん女神さまの頭をなでなでしてみる。
「はううっっ!」
犬だったら絶対尻尾を振っている!
見えないしっぽがお姉さん女神から見える!
お姉さん女神さまが犬のようにはうはうし始めた。
肩が上下にせわしく動いている。
なんか壊れたおもちゃみたいになって来たので、動きをおさえようと肩をぎゅっと抱いてみた。
「はううーーー!!!」
お姉さん女神さまが、びくーんと背が伸びた。
エビみたいにびくーんってなった、びくーんって。
「お姉さん女神さまありがとう。」
調子に乗って耳元でささやいてみた。
『びくびくびく!!!』
お姉さん女神さまが激しい痙攣とともに床に倒れた。
びくんびくんしながら、失禁までしていた。
これまでの人類の歴史上、アパートの玄関先で、うれションして白目むく女神がいただろうか・・・
そのまま玄関先に転がしておくわけにはいかないので、お姫様抱っこしてお風呂に連れて行き、勝手に服を脱がすわけにはいかないので、声をかけて起こしてシャワーを浴びてもらったのだった。
起こす際は、2度ほど目覚めては痙攣して失神を繰り返したので、実際シャワーを浴びてもらうまでには30分近くかかったことは別の機会に紹介したい。
さらに、このままだと半径10m以内の人全員から告白されてしまう羽目になるので、元に戻してもらえるようにお姉さん女神さまを説得した。
真剣に見つめて話をしていると、お姉さん女神さまが液状化して溶けていくようにメロメロになってしまうので、話が通じるまでには、さらに2時間を要した・・・
明日からどうなるんだ、俺・・・