ハーレムルートは突然に
これまでの「神様の加護が過剰すぎる」は・・・
主人公ゆーじくんは、両親が突然蒸発。
生きる希望を失ったゆーじくんの前にこれまた突然女神が現れたが。
突然両親が蒸発して、なんやかんやでお姉さん女神さまと生活することになった主人公ゆーじくんのお話です。
さて、昨日は色々あってバタバタしちゃったから学校休んじゃったけど、今日からちゃんと登校しよう!
どういう存在なのかよくわからないけど、お姉さん女神さまが来てくれたおかげで、両親が蒸発した俺でもまた学校にけることになった。
お姉さん女神さまの朝食を食べて、制服に着替えて、玄関に来たところで制服の裾が引っ張られるのに気づいた。
ん?お姉さん女神さまかな?
後ろを振り向いたら・・・
『だー』
お姉さん女神さまがもんのすごく泣いてた。
「ゆーじくん行っちゃうのね!!!私を置いて行っちゃうのねーー!!!」
片手では俺の制服の背中の部分を引っ張ってるし、もう片方の手は口にくわえたハンカチをぐいぐい引っ張ってる。
悔しい気持ちだけは伝わる。
いや、学校に行けるようにしてくれたの、あんただろ・・・
「ゆ、夕方には帰りますから・・・」
ちょっと笑顔が固まっていたかもしれない。
「お姉さん待ってるから!!!ゆーじくんが帰るまでまってるから!!!玄関で正座して待ってるから!!!」
いや、普通に生活していてください。
もっとも女神さまが日頃どんな生活をしているのか俺は知らないが・・・
玄関のドアを開け、学校に向かった。
うちのアパートを降りたところで、陰から人が現れた。
「入野くん!おはよう!!」
元気よく表れた女の子は・・・女の子は・・・誰?
俺の名前を知っている位なので、俺も知っているもんじゃないの!?
「あの・・・」
「私だよ!長名なじみ!小学校の時同じクラスで、今もクラスメイトの!」
マジか!?
確かし、そういわれればクラスにいた気がする顔だけど、クラス内の女の子と話す機会が全くない俺にとっては名前も顔も覚えていない・・・
ボブっていうのか?
ショートカットで笑顔が印象的なオサナさんは、そういえば教室で見かけたような・・・
オサナさんがクラスメイトだということは今思い出したけど、小学校の時に同じクラスだったとは知らなかった・・・
別に仲が良かったとかないし、近所と言うほど家が近かった記憶もない。
そもそもオサナさんの家がどこかも知らないし。
「小学校の時同じクラスだったんだね。忘れてたよ。」
「やっぱりー?きゃはは」
「で、どうしたの?今日は。」
「入野くんと一緒に学校に行こうと思って!迷惑だった?」
「いや、迷惑じゃないけど、どうして突然?」
「んー、えーっと、入野くん昨日休みだったから?」
なんか、微妙に疑問形だよ。
聞いてるのはこっちさ。
いこっか、なんて言われて、そのままのこのこ一緒に歩いたけど、リア充の人ってすごいなぁと本気で思う。
俺みたいなディスコミュ星人にも、こんな満面の笑顔で接することができるのだから。
俺は女の子と学校に投稿するようなリア充であったことなど一度もない。
何がどうなってるんだ?
学校には、昨日休むことは連絡したけど、両親の蒸発の事は言ってない。
どこからか情報が洩れて・・・?
オサナさんはクラス代表的な意味で俺を迎えに来たってこと?
とりあえず、当たり障りのないどうでもいいことを軽く話しながら学校に向かった。
途中、クラスメイト(男子)と何人かすれ違ったけど、女子と一緒に登校ってことで気を遣われたのか一緒に行かず、走っておいて行かれてしまった。
ちくしょう、と叫びながら走って行ったのは何だったのか。
きっとリア充だと誤解されたのだろう・・・
俺は登校拒否しないかクラス代表に見張られながらの登校だと言うのに・・・
クラスに着いて分かったけど、オサナさんは俺の席の右前の前の席だった。
右前じゃないよ。
右前の前。
桂馬の位置ね。
席についたらオサナさんがちょっとだけこっちを向いて、小さく手を振ってきた。
なんだよかわいいな。
付き合ってるみたいな脳内錯覚を楽しんだ。
一生そんなリア充生活はないだろうけどね。
俺は顔も普通だし。
お金は・・・どっちかと言うと・・・というより間違いなく貧乏だし。
スポーツも勉強も出来るわけじゃないし。
絵がうまいわけじゃない。
話が出来るわけじゃない。
見張りが着くくらいだから、俺ってクラスでかなりかわいそうな立ち位置になっていると思ったけど、クラスメイトは普通だった。
普段と何ら変わりなく授業の準備をしている。
まあ、両親のことで悪目立ちするのは恥ずかしいから嫌だけど。
授業中気になることはあった。
隣の席の女の子、確か四川さんと言ったか。
女の子の友達から愛子ちゃんと呼ばれている子。
・・・何か目が合うんだよ。
視線を感じる。
俺は、クラスで後ろから2番目の窓際だから、シセンさんがこっちを見るのは、外が見たいか、俺が見たいかってことだろ。
あ、外を見たいのかな?
俺も外を見てみた。
ここ4階だよ!
田舎だし、特に何も見えない。
俺の席までくればかろうじて運動場が見えるけど、ベランダもあるし、シセンさんからは運動場は見えないな。
好きなやつとかを目で追うみたいのは出来ないはず。
ちら・・・っとシセンさんを見てみた。
一瞬目が合ったけど、前を向かれてしまった。
目線を外されると地味に傷つくなぁ・・・
シセンさんを見たら顔が真っ赤だよ。
何か怒ってる?
シセンさんが見ている何かを俺が邪魔しているのか!?
どうしたらいいんだ。
視線は気になるけど、気付かないふりを決め込むか?
そして、たまにオサナさんが先生の目を盗んでこっち向いて、小さく手を振るんだよ。
なんかめちゃくちゃかわいいじゃないか!
俺ってそんなに要注意人物!?
別に授業中にふらっといなくなったことなどないし、これからもないけど・・・
自分のクラスで、自分の席なのになんか居心地が悪い(汗)
二限目は、移動教室だったので少し気が楽だった。
男女別々の授業だった。
男子は技術で、女子は調理実習。
違う教室だから、オサナさんは俺を監視しないし、シセンさんのシセンが気になることもない。
ただ・・・同じクラスの男子、山田くんとはあまり仲良くなれないでいた。
そして、山田くんと同じ班になって実習だ。
別にいじめられているわけではないけど、なんとなく馬が合わない。
先週貸してあげたボールペンも返してもらってない。
事なかれ主義の俺と、白黒はっきりさせたい山田くんとは考え方がまるで違うので、なんとなく合わないみたいなのだ。
今日は、班ごとに木の椅子を作る実習。
各パーツを班5人で手分けして作り、1個の椅子を作ることになってる。
よりによって山田くんと同じ班になるとは・・・
しかも山田くん班長になったし。
まあ、山田くんがいう通りに部品を作るか。
山田くんが仕切り始めた。
「じゃあ、5人で椅子を作るけど、背もたれ部分と本体部分で2人、3人で分かれるか。最初に木の板にケガキするのが大事だから、入野背もたれの部分たのめる?」
山田くんが頼んできた。
なんとなく山田くんは苦手なので、同じ班の中でも背もたれグループと本体グループで別れられるのは気が楽かな。
「いいよ」
「ケガキだけど、気に線を引くけど、これがずれたらちゃんとできない。滲みにくいペンで出来るだけ正確に引いてくれ。・・・ってあれ?このペン俺のじゃない!」
山田くんが使いまくってるのは、先週まで俺のだったペンだよ。
借りパクされたから、もう山田くんのと言ってもいいかもだけど・・・
「やべ!これって入野からかりややつじゃね!?ごめん!返す!」
1週間ぶりに山田くんからペンが帰ってきた。
これって先端が細くて、インクがにじまないからお気に入りのやつだったんだ。
その後も、山田くんを俺、合計5人のグループは順調に椅子を作り進めた。
山田くんって忘れっぽいみたいで、時々抜けているみたいだけど、悪気はないみたい。
5人いたら、山田くんの抜けている部分をフォローして、椅子は問題なく出来上がった。
俺も気になった部分を指摘したらよかったのかな。
あんまり人とコミュニケーションとってこなかったから、指摘して空気が悪くなるのを避けたところがあったし・・・
「入野すげえな。ちゃんとのこぎりの歯の厚さも考えてケガいてあるから失敗ないし。」
「いや、吉田くんもまっすぐ切ってくれたし、山田くんが背もたれと本体で担当を分けたのもよかったよ。」
なんだか5人でやり遂げた感があった。
これが達成感か。
普段誰かと一緒に何かをすることがないので、新鮮だった。
そして、クラスで唯一苦手だった山田くんが意外に良いやつだったことは収穫だった。
盗られたペンも返ってきたし。
授業が終わって元の教室に戻ってきた。
俺の机の上には透明の袋に入ったクッキーが置かれていた。
そういえば、女子は調理実習だったな。
クッキーを焼いたのかな。
誰か意中の男子にあげたかったのだろう。
間違えてオレの机の上に置いちゃってるよ・・・
俺は戻ってきたけど、教科書を引き出しにしまうと、トイレに行くことにした。
この席が俺だと分かると、間違えた女の子は俺が置いてに行っている間にクッキーを回収して、本命に渡すことができる。
一応気を使ってのことだ。
悲しいけど。
トイレに向かう途中で、呼び止められた。
「あ、いたー!!」
声までかわいいのはオサナさんだ。
え?なに?俺なんかした??
「はい、これクッキー。」
さっき机に置かれていた包みとは違う包みのクッキーを渡された。
なになに、調理実習の仕上げはクラスの男子にあげることになっているのか?
オサナさんが少し顔を近づけて、口元に手を当て、内緒話のポーズでこっそり教えてくれた。
「調理実習のクッキーは持って帰る用で男子にあげたらダメってことになってるから、隠した方がいいよ。」
なんで俺にくれるんだろうと思いながら、なんとなく人から見えない位置に持ち直した。
「あとねぇ、他の男子からも恨まれちゃうかも。」
追加でオサナさんが教えてくれた。
なに?
クッキーを渡すことで俺をクラスで孤立させるいじめ?
そうなると、このクッキーの包みは早く鞄にしまわなければ。
元々トイレに行きたかったわけではないので、Uターンして自分の席に戻ってクッキーを鞄にしまった。
そういえば、さっき机の上に置いてあった方のクッキーはなくなっていた。
やっぱり誰か間違えたんだな。
少し残念な気もするが、そんなもんだろう。
そんなことを考えていたら、隣の席のシセンさんがさっきの包みを持っていた。
またシセンさんと目があってしまった。
時間にして数秒、お互い止まってしまった。
「あげる。」
「あ、ありがと」
一言だけ言ってシセンさんがクッキーの包みをくれた。
シセンさんは目が少し怖いから感情が読みにくいんだよな。
クッキーをくれた割にその後は、ふいっとむこうを向かれてしまった。
耳が真っ赤なんだけど、もしかして照れてる?
恥ずかしいのかな?
シセンさんって目がつり目っぽいから普段睨まれているみたいで、表情が分かりにくいんだよなぁ。
教室の中は休み時間でがやがやしている。
クッキーを2個ももらってしまって、俺はなんかどきどきしている。
理由はなんであれ、かわいい子から何かをもらうっていうのは悪い気はしない。
リア充の疑似体験を楽しんでいた。
ディスコミュ星人は休み時間誰とも話さないので、普段は本を読んだり、寝たふりをしたりしていたが、今日は次の授業の教科書を出したり、ペンケースのシャーペンの芯を補充したりしていた。
まあ、今やらなくてもどうでもいいことだよね。
そしたら、後ろから、とんとんって肩をたたかれた。
振り向いたら女の子だった。
ほんわかしている雰囲気の、女子から「すっきー」と呼ばれている子だ。
名前は・・・忘れた。
というか、覚えていない。
ただ、ほんわかした雰囲気と、胸の大きさと、柔らかい笑顔で「お嫁さんにしたいランキング第1位」の女の子だ。
クラスで噂になったのを聞いたことがあるだけで、実際にアンケートを取ったことはないと思うが。
実際俺もそんなアンケート書いたことないし。
いや、実はハブられていて他の人は書いたのか?
少し気が落ち込んできていたところで、また新しいクッキーの包みを渡された。
包みは小さいのに、両手を添えて渡すところが実にかわいい。
「もらってください。」
ちょっと笑顔なのも好印象。
こりゃあ、「お嫁さんにしたいランキング第1位」だわ~。
すっきー(本名知らない)は、俺にクッキーを渡したらそのまま自分の席に戻っていった。
クラスは出歩いているやつも多いので、全然目立たなかったけど、とんでもないことが今起こりましたよ!
理由は分からないけれど、クラスの女子3人からもクッキーをもらってしまった。
周囲を見ても、そんな包みをもらっているやつはない。
もらってすぐに仕舞ったのか?
今日はなんか変だ。
いや、昨日も大事件が起きたし、昨日も変だったか。
むしろ今日の方が普通に近い。
昼休みになった。
今日はなんだか変な日だ。
周囲のみんながやたらコミュニケーション能力が高い。
俺みたいなコミュ障にも話しかけてくるほどに。
なんかちゃんと話せているような錯覚すらするよ。
いつかちゃんと周囲とコミュニケーションとれる立派な人になったら、こんな悩みはないんだろうな。
あ、そういえばお昼。
俺は普段節約のため弁当を自分で作って持ってきている。
それでも毎日は大変なので、時々購買に行ってる感じだった。
普段ならお弁当の日だけど、昨日の今日で作る気がしなかったのだ。
今日は購買かな。
弁当だと思ってすっかり出遅れた。
菓子パンしか残ってないかも。
それも残念なやつ。
ぎいっと椅子が動く音がして俺が立ち上がった瞬間、話しかけられた。
「入野くん今日おべんとうじゃないの?」
隣の席のシセンさんだ。
よく知ってるな。
お弁当と購買のローテーションを。
「いや~、今日はお弁当のはずが作るのを忘れちゃって・・・」
どうしようもないことを言ってしまった。
コミュ障だから・・・
「じゃあ、お弁当私の分けてあげるね。」
「は?」
シセンさんは、自分のお弁当からおかずを蓋に取り分けてくれた。
「え?え?え?こんなに?悪いよ。」
確かに男の昼飯にしては少ないけれど、元々少ないシセンさんのお弁当箱からいえば1/3位を取り分けてくれているのだ。
「こんなにもらっちゃったら、シセンさんの分が・・・」
「いいからいいから。今日はあんまり食べられないと思ってたし。」
「そう?ありがとう。」
もらったからには食べないと失礼にあたるな。
お箸はなかったけれど、シセンさんのお弁当から爪楊枝をもらってる。
アスパラのベーコン巻のベーコンをとめていたやつだ。
シセンさん、良い子。
ちょっとつり目だからと怖い人だと思っていてごめん。
心の中で謝ってから、俺は食べ始めた。
「あれー!?入野くんお弁当もらったの!?」
ビクッとしてしまった。
横の席の女子にお弁当を分けてもらうとか、嬉し恥ずかしイベントの真っ最中なのだが、それを周囲から言われるのは恥ずかしい!
恥ずかしいというか、照れるだけなのだが、
「私もお弁当あげるー!」
声の主は、桂馬の位置にいるオサナさんで、自分のお弁当を持ってこっちにやってくる。
しかも、俺の席の前に座った。
前の席の男子は、いつも購買か食堂に行っている。
席が空いているからって、前の席に女子が来るなんて・・・
オサナさんは椅子を反対に向けて、こちらを向いて、彼女のお弁当の蓋に自分のお弁当を取り分けてくれていて。
「あ、あ、ああ!そ、そんなに!」
また結構な量をくれていた。
どうして女子ってこんなにお弁当箱がちっちゃいんだ!
おにぎりなんか小さいの2個しか入ってないのに、1個俺にくれちゃってるよ!
メインと思われる一口ハンバーグも1個しかないのに蓋の方に入れちゃってるし!
「あら?お弁当忘れたの?」
今度は、「奥さんにしたいランキング第1位」のすっきー(名前すら知らない)が斜め前の席に来た。
「私も協力するねー。」
またお弁当の蓋が増えた。
ナニガオキタ・・・
気付けば、前後左右に女子4人がいて、その中心に俺がいる。
そして、お弁当を忘れた俺が一番多くのおかずを食べている・・・どんな状況なんだ!?
「愛子ちゃんのお弁当おいしそー!そのベーコンのとか!」
「これは、わたしが作ったん。ベーコンの内側にブラックペッパーをちょっとかけてんの。」
「うっわ!それ絶対おいしいやつ!」
「注目のすっきーのは!?」
「なんで私の注目!?」
「だって、「お嫁さんにしたいランキング第1位」だし!お料理上手なんでしょー!?」
「すきで家でも手伝ってるだけだから。」
「そんなこと言って、今日のお弁当は手作り~?」
「ん、まあ、一応。」
「と、いうことは!?入野くんはすっきーの愛妻弁当を食べているということに!」
「ぶふー!!」
「「「うわ!きたな!」」」
「あははは!入野くん汚いよ!」
「あはははは」
オサナさんのコミュニケーション能力は高い(汗)
うまく話をさばいている。
しかも、一方通行じゃなくて、周囲も巻き込むトーク力。
明石家さんまの生まれ変わりか!?
まだ生きてるけど。
みんなの前でご飯噴出したのに引かれてない。
モテてるって錯覚する場面だいま。
クラスの女子が4人も俺の周囲でお弁当を食べてる。
むしろ、女子は元々仲がいいのだろう。
たまたま、お弁当を忘れた俺の周りに集まった的な・・・
クラスに残っている男子の目線がなんとなく痛い。
俺今日からクラスでいじめられるかも。
家に帰って背中見たら「入野無視」って書かれたポストイットが貼ってあったり・・・
背筋が寒くなって変な汗が出てきた・・・
「入野くん聞いてた?」
「え?ごめん、聞いてなかった。」
どうやら、彼女たちの声は聞こえてなかったみたいだ。
それくらい俺は切羽詰まっている。
周囲を固められているので逃げることもできない(汗)
「すっきーのたまごやきがすっごくおいしいって話!」
「あ、そうなんだ。」
「はい、あーん。」
「え?え?あーん。」
いつの間にか「お嫁さんにしたいランキング第1位」のすっきー(結局名前分からず)が手ざらで卵焼きを食べさせてくれようとしていた。
目の前にあったことと、落としたら、と思ったら反射的に食べてしまった。
「むぐむぐ、おいしい!」
「でしょー!」
「あーー!すっきーまっかーー!」
「そんなにテレるならしなきゃいいのにー。」
「「「きゃきゃきゃ」」」
「ごめんねー、騒がしくて。」
すっきーが聞いてきた。
「い、いや」
俺が話についていないのを察してくれたのかな。
さすがの気遣い。
さすが「お嫁さんにしたいランキング第1位」は伊達じゃない。
「料理の上手なコって彼女したら幸せだよ~?」
冗談っぽくすっきーが言いながら、ちらっとこっちを見た。
「私を彼女にしたら毎日お弁当つくってもらえるだってー。」
ちら
「まだ誰とも付き合ったことないからすぐ一番になれるらしいよー。」
ちら
やばい固まって動けない。
こんなことを本気で言われたら、落ちな男がいたらぜひ見たい。
相変わらずフルネームは知らないが、ふわふわロングの髪は同級生ながらどこかお姉さん感がある。
話し方もふわふわ。
レースのフリルのエプロンが似合いそうで、料理は既に上手だということが分かっているので、これ以上のスペックは存在しないのでは!?
冗談っぽくからかう感じは嫌じゃなくて、本気じゃないとわかっていても落ちてしまいそうだ。
こんな子が大学に行ったら「ザ・リア充」になるんだろうなぁ。
そして、早く結婚して、幸せな家庭を築くんだろうなぁ。
昼間にはオーブンでケーキとか焼いてそう。
こんな女の子が存在しているとは・・・
ただ、女3つで姦しいとはいうけれど、4人もいたら既に異次元。
物理的には中心にいるけど、俺ついていけないよ。
嵐のような昼食の時間は終わって、女子たちは解散していった。
なんかすごく汗かいた。
3年分くらい女子と話したし、一生分くらい女子に囲まれた。
なんだか疲れたので、机にうつぶせた。
お腹はいっぱい。
なんだかんだでいつもよりちょっと多いくらいを食べることができた。
ゆっくり味わう精神力は持ち合わせてなかったけれど、お嫁さんにしたいランキング第一位すっきーの料理の腕はやっぱりすごい。
卵焼きおいしかった。
シセンさんがくれたアスパラベーコンもおいしかった。
彼女とは普段全く会話しないけど、話したらどこかの方言っぽい言葉を話すのだと今日知った。
なんかいいな。
つり目だからきつい性格だと勝手に思っていたけれど、方言は言葉がやわらかいし、声もかわいい。
表情はあんまり読み取りにくいけど、テレ屋で女子からからかわれただけで、すぐに真っ赤になるのが男としては好印象。
黒髪ロングもかっこいいしモテるんだろうなぁ。
そんな事を考えながらうつぶせていたら、視界の先にはシセンさんがいた。
普段クールなイメージのシセンさんがちょっときょどってる。
あ、俺が見つめてるみたいになっちゃったとか?
「あんま見んといて・・・好きになっちゃうから・・・」
え?え?空耳?
まあ変な汗が出てきた。
目もばっちり覚めた。
なんとなく、背筋を伸ばして座ってしまった。
まだ絶賛休み時間中なのに。
「あれーどうしたの?入野くんと愛子ちゃん2人とも真っ赤ー!」
オサナさんがどこかから帰ってきた。
みんなグラウンドに遊びに行ったり、トイレに行ったりして、教室は割と人がいなくなった。
家の事もあったし、やっぱちょっと疲れてるかな。
週末ならゆっくり1日寝ていただろう。
「あ、いりっち!ここにいた。」
どうやら「いりっち」とは俺の事らしい。
俺の席の前にきて座ったのは、「カクヨ」と呼ばれているギャルっぽい子だ。
ほとんど話したことないのだけれど・・・
「いりっちー、さっき女子たちと話してたじゃん?あっしにもLINEおしえて?」
女子たちとは、お弁当を分けてくれた子たちだろう。
別にLINEは交換してないけど・・・
「じゃないと、いりっちにメッセしようと思ったら、a、aa、ab・・・って1文字ずつ試していくよ?」
アカウントの事か。
俺のアカウントはセキュリティ対策で10文字以上にしてあるし、直接アカウント交換した人以外からはメッセ出来ないように設定している。
彼女も全アカウントに送るみたいなスパム業者みたいなことは冗談だろう。
「教えてくれたらすぐにメッセするよ?」
「じゃあ・・・」
聞かれたし、あんまり話したことすらないけれど、「カクヨ」とアカウント交換した。
ギャルっぽいこの間ではクラス全員とアカウント交換するようになっているのかもしれない。
「カクヨ」はちょっと肌が褐色で、しゃべり方もギャルっぽい。
胸が大きくて、スカートが短く、足が長く見える。
そして、何かエロい。
クラスの中でも一定の人気があるのですごいと思う。
「お、いりのっちーって『ゆーじ』っていうんだ。」
俺の設定の名前を見たのだろう。
何のひねりもなく「ゆーじ」で設定しているんのだ。
「今度から『ゆーじ』って呼んでいい?あっしのことは、『カクヨ』って呼んでいいから。」
「ああ。」
どんな交換条件なのか分からないけど、別に困らないからOKか。
俺が彼女を「カクヨ」と呼ぶことはないだろうけど。