○○三升:猫と亜理紗ちゃんの暴走
お読み頂きありがとうございます。
申し訳ありませんが、この話で<打ち切り>とさせて頂きます。
日が暮れる時間が近づいてきた。時刻は十七時を過ぎている。
「ういっす。颯磨のところは昨日大丈夫だったか?」
「ち~っす」
「いやぁ……何から話していいのか大変でした……」
「そうだよなぁ、実は俺らもだ……」
商店街の猫友で、通称・レンソクと呼ばれる農連即売所の瀬谷さんと山端くんがウチの角打ちにやってきた。
傍らにはそれぞれの愛猫、黄色毛の元野良”コリンキー”と、赤毛のアメリカンショートヘア”らでぃっしゅ”が一緒だ。
レンソクはイタリアのマルシェのような農家が共同で運営するの即売所。
ちなみにレンソクと棟続きで燻製工房やパン屋なんかも入っている。
「とりあえず今日の肴はこれなっ」
「ボクはコレを持ってきましたよ」
瀬谷さんが色彩豊かな野菜の浅漬けが入ったビニール、山端くんは全粒粉でできたクルミとドライフルーツの固めなパンを持ってきてくれた。
「コリンキーを置いて来るか悩んだがな、コイツ目を離すと家が凄い事になりそうだから連れてきちゃったよ……」
「らでぃっしゅちゃんが見知らぬヤツに襲われたら大変です!」
今は酒用冷蔵ショーケースの前で頭や体をスリスリとアロラビングしている三匹。
猫種は違うが仲良しさんだ。
「駒さん、そろそろ昨日と同じ時間に……」
世間話をしていたら時間がアッと言う間に進んでいて、亜理紗ちゃんが教えてくれた。
「瀬谷さん、山端くん、そろそろ時間が来るようです」
「あぁ……ありがとう」
「あっれぇたしかここに入れてきたはず……あったあった!」
二人が袋と鞄をゴソゴソして服を取り出し、猫達の下に走っていった。
スズランには昨日のウチに変身したら二階で着替えるように教え込んだのだ大丈夫なはず?
コリンキーと、らでぃっしゅちゃんはそれぞれ服を被されて服の中でもがいている。
あのまま大きくなったら変なところに引っかかって惨事にならないか?
「颯磨さん一体何が起きるんすか?」
「勝野くんは昨日体験しなかったのか……十八時二十三分前後に……」
バイトの勝野くんに説明しようとした瞬間、例の時が訪れた。
店の中は変わらないが表の風景が一変、レトロでノスタルジックな街並み変わった。
瀬谷さんと山端くんは愛猫達に寄り添っているので、俺は二階に上がり念の為スズランのもとに向う。
そこには人の姿になったスズランが居て、藍染のTシャツとベージュのズボンは着れているが、帆前掛けに苦戦していた。
まだ紐を結ぶのは難しいらしい。…………そう言えば女性物の下着買ってないな……
「ご主人様、今日も大きくなれたニャ♪」
頭を撫でてやると目を細めて満足そうだ。
もう少し構ってやりたい気持ちもあるが、お客が来ているので階段で一階に下りる。
「颯磨さん、颯磨さん、何か凄いっスね!」
勝野くんが興奮して寄って来た。
昨日の事を知らなければしょうがない反応だな。
亜理紗ちゃんは……
「コリンキーくんイケメン! らでぃっしゅちゃん超カワイイ! ハァハァ」
何だろう昨日以上に亜理紗ちゃんが壊れてる?
スズランはそれを見て俺の後ろに隠れているぞ
「スズランちゃんもいいですが、らでぃっしゅちゃんのコロッとした感じがツボですねっ!」
「ちょっと颯磨、亜理紗ちゃんをどうにかしてくれ……」
瀬谷さんと山端くんが亜理紗ちゃんを見てドン引きしている。
思わず近くにあったダンボールの端を千切って二つに折って”パコ~ンッ!”と叩いてしまった。
「亜理紗ちゃん迷惑だからステイッ」
「……すいません、つい……」
普段はのんびりフワッとした感じなのに、猫が擬人化するだけでここまで変わるとは……
赤髪で中学生ぐらいに見えるらでぃっしゅちゃん、白い膝上までのワンピースを着て、尻尾を後ろ足の間に隠して体を丸め小さくしていて、黒シャツにタイダイ染めのパンツを履いてヴィジュアル系バンドマンにいそうなコリンキーくんが、頭を撫でて落ち着かせている。
スズランも俺の後ろから出て、らでぃっしゅちゃんの方に行った。
「スマン山端くん、らでぃっしゅちゃんを怖がらせちゃって」
「山端さんすいません」
「まぁ、しょうがないですよ……ハハハ……」
「凄かったな」
瀬谷さん他人事だと思って腕組んで頷いている。
「それにして、猫達が人間になるこの状態って何なんだろうな」
「そうですね、よく分からないですよね」
「らでぃっしゅちゃんはカワイイです!
「カワイイのは分かるが……山端、お前ホントに猫バカだな」
「瀬谷先輩、カワイイのは正義なのですよ」
浅漬けやクルミとドライフルーツのパン、店にあった牡蠣の燻製オイル漬けなんかを肴に、あれだこれだと会話を弾ませた。