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○○一升:猫と境界線

 俺はいつものように目覚め、日課であるサイクリングをすべく愛車であるFINARELLOの黒いフレームに黄色サドルとバーテープが映えるロードバイクに乗り、七比ヶ浜から鵠池海岸の海岸線を心地よい潮風を感じながら抜け、湘堂公園で折り返し工房(アトリエ)へと戻った。

 シャワーを浴び、ラジオを聴きながら工房(アトリエ)のベンチに座り、朝食のトロトロ半熟目玉焼きとベーコンをのせたトーストをブラックコーヒーと共に味わう。

毎朝のルーティーンだが何とも言えない至福な時だ……



 すいません、嘘をつきました。



 酒の呑み過ぎで二日酔い気味に起き、フリーズドライのアサリの味噌汁とゆで卵を食べ、相棒の雌猫でロシアンブルーのスズランにも餌をあげ、仕事場である店に向う。

向うと言っても自宅の一階が酒屋兼ガラス工房(アトリエ)になっているので下に行くだけだ。

俺が一階に下りるとスズランも着いて来る。流石は相棒。



「駒さん、おはようございます。レジ開けちゃいますね」

「あぁ、亜理紗ちゃん今日もよろしくね」


 いつも通りの朝の挨拶を交わし店を開ける。

彼女はバイトで主にレジや品出しをしてもらっていて、名前は床波 亜理紗(とこなみ ありさ)

のんびりふわふわした所もあり、歳は俺より四つ下だが、お姉さん気質で面倒見がよく気配りもできて助かっている。



 俺は両親の営んでいた酒屋を継ぎ、且つ酒好きが高じて、酒に合ったグラスが欲しくなり一階奥を改築し工房(アトリエ)を造り、自らの好みを追及するべくグラス作りもはじめた。

今ではそれなりに味のあるグラスが作れるようになったと自負している。


 そしてもう一つ、最近密かに酒屋に角打ちスペースを小さいながら設けてみた。

もちろん俺が厳選した自慢の酒を試飲してもらうのが目的で、決して俺が自分で呑みたいわけじゃないよ……

ついでに商店街の若い衆で語らう場にもなっている。


……商店街の若い衆で語らうと、ついつい何時も話がヒートアップして飲み過ぎてしまい、スズランが心配そうに俺を舐めに来る。


 スズランは俺の両親が亡くなった頃から一緒なので六年ぐらいになるだろうか……

そう言えば、自分の自己紹介がまだだったが、俺は駒泉 颯磨(こまいずみ そうま)

四月十七日生れの二十七歳でO型だ。


挿絵(By みてみん)


 この日もそんな変わらない日常のはずだった……


 日が暮れだし、何となくいつもと様子が違う事に亜理紗ちゃんが気付く


ラジオはいつも通りエフエム・ヨユハマがかかっている。

時計の時間も正常に十八時二十三分を表示している。

電気もちゃんと点いている。


 しかし……窓の外の風景が違う。


 窓の外には馬が馬車を牽いて……?

ありえない光景に一瞬自分の目を疑い扉を開ける。

顔を出すとそこは見慣れない風景が広がっている……?


 いや、少し違うな、いつもの街並みも見えるのだが、まるで拡張現実で投影されたように、透けた感じで風景が重なっている。


「えっえぇ……と……」


 一度扉を閉めてから目を擦り、頬と抓り、深呼吸して落ち着いてみる。

もう一度確かめよう……


 再び扉を開けて見てみるが、扉のむこうに広がる状況は何も変わらなかった。


「こ、これは異世界と言うヤツか!?」

「駒さん、落ち着いて下さい」

 

 時間が少しずつ経つにつれ、透けた風景がハッキリとしてきた。

アスファルト舗装は煉瓦敷きになり、外灯もレトロモダンなモノになっている。

江戸末期から明治時代のようなレトロでノスタルジックな街並みがそこにはあった。


 そして、猫耳の人(?)が歩いている。


「俺はどうかしちゃったのか……猫耳娘とか俺得過ぎるだろ」

「心の声も漏れちゃってますよ……」


 ドキドキしながら店内に戻ると、そこにもピンと尻尾を上げ震わせている猫耳娘が!?

娘と言うか妖艶さのあるお姉さま的な?

しかも服着ておらず、細身の優美な体にしっかり発育した豊かな胸が揺れているのがわかる……


 ハッキリ言って巨乳で猫耳とかとっても好物だ!

だがどこから入って来たのだろうか?

亜理紗ちゃんと二人で一瞬ポカンとしてしまう。


「ご主人様とおしゃべりできるようになったニャ」


 そんな事を言いながら抱き着いてペロペロ舐めてきた。

ご主人様? そう言えば、青っぽいグレーの髪にエメラルドのような濃く鮮やかな緑の瞳と言えば……


「もしかしてスズランか?」

「そうなのニャァ♪」


 尻尾を上げたまま上のほうだけをクイッと曲げて、喉をゴロゴロ鳴らしている。

とりあえず、頭や喉元を撫でてやると、耳をペタンッと寝かせ、トロンとした表情になった。


「いやいやいや……駒さん、とりあえず何か着せないと」


 亜理紗ちゃんが近場にあった仕事でも着ていて、販売もしている藍染のTシャツを大きいサイズを選び着せる。

俺はバタバタと二階に駆け上がり、女物の下着など持っていないので、しょうがなく俺のボクサーパンツとベージュのズボンを取って来て着せた。ついでに帆前掛けを巻かせる。

……パンツはもちろんまだ履いたことのない予備だぞ!


「ご主人様の匂いがするニャァ♪」

 スズランは着せた服の匂いを嗅ぐと、耳を横に寝かせリラックスした表情でうっとり。

……俺としては何とも複雑な気持ちだ。

横で亜理紗ちゃんも何が起きているのか混乱しているようだがスズランに抱き着いた!


「スズランちゃんのほっぺた、スベスベで耳がもふもふぅ……気持ちいいですねっ!」

 姿は人になっているが、耳が猫耳のままなので、そこをもふもふと触ったり息を吹きかけたりしている。


「にゃにゃ~ん、ご主人様たすけてニャァァァ」

 だんだんと耳が横を向きつつ下がっていき、ピクピクッと尻尾を動かしている。


 

 人型になったスズランの胸は大きいが、亜理紗ちゃんの胸はさらに大きく、女の子同士で胸を押し付け合ってる姿は何とも言えないものがあり……何だろう……かなりエロくて百合っぽい?


 ずっと見ていたい気持ちもあったが、とりあえずスズランから亜理紗ちゃんを引き剥がしてた。


「亜理紗ちゃん、とりあえず落ち着いて」

「ハァハァ……助かったニャァ……ご主人様ありがとうニャ」

「むぅもう少しくっ付いていたかったのに残念です」


 スズランは息を切らし、亜理紗ちゃんほっぺたを少し膨らませている。

俺はスズランの頭を撫で現状を再度確認する事にした。

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